第94話 隠し部屋
そう言って将門はアパートへ入っていく。
さび付いている2階への階段を通り過ぎて、1番奥の部屋へ。
俺は戸惑いを感じたが、今更逃げるわけにも言わず、恐る恐る後をついていった。
蜘蛛の巣が生えている通路を抜けると、玄関があった。
他は木や段ボールで塞がれてるのに、ここだけ普通のドアだ。
「大丈夫かい? 入るよ」
「は、はい」
なんだ? この空間──。
将門がポケットからカギを取り出して中に入ると、そこは薄暗い全く生活感のない部屋。
空き家のように真っ暗で、何もないがらんとした、埃かぶっている部屋。
台所には食器もガスコンロもおかれていない。明らかに、誰も住んでいないというのがわかる。
「こっちだよ」
将門はそんな部屋をスルーして、奥にある和室へ。
鷲津にはいって、真ん中にある畳の縁に指を差し入れたかと思うと、畳を引き上げたのだ。
そして、引き上げた場所にあったのは──。
「隠れ家みたいで、かっこいいでしょ?」
暗い闇の中に進んでいく、まっすぐに伸びている金属のはしごだ。
こんなボロいアパートから、こんなものが出てくるなんて予想できなかった。
そして、将門がポケットからライトを取り出して地下を照らす。
ぱっと明かりを照らすと、古びた梯子の先にまた、道がある。
これは、どういうことだ──。
まるで、怪談話のようだ。現実味のない目の前に光景に、ただ言葉を失って前を見ている。
そうしていると、将門はゆっくりと、梯子を下り始めた。
「こっちだよ、ついてきて」
「は、はい」
将門の後ろをついていくように、慎重に梯子を下った。
梯子を下りると、摩訶不思議な光景が続いている。本当にこの世界の光景なのだろうか──。
暗くて、薄汚れた道。
なぜか、道のわきには数えきれないくらいのろうそくが火を灯らせておいてある。
「すごいでしょう。ちなみにこれ、火じゃなくて 一酸化炭素中毒の問題もないから安心して進んでいいよ」
結今まで見たことのないような光景にただ戸惑っていると、将門はにこっと笑みを向けて話しかけてくる。
「珍しい?」
「は、はい」
それから、しばらく進む。コッコッと、俺と将門が歩いている音以外何も聞こえない。
なんなんだろ、この空間。現実感がない。当然だ。ホラー漫画の世界かと、疑ってしまう。
そして、わずかなろうそくが照らす薄暗い道を進んでいく。本当に何もない空間を進んでいくと、あったのは真っ黒で重そうな大きいドア。
将門が、ドアの前に人差し指をかざす。
「興世王こうせいおう──承平天慶じょうへいてんぎょう」
その瞬間、将門の指が紫色に光り、ゴゴゴゴ──という地響きとともに扉が両開きに空き始めた。
「珍しいでしょ? 秘密の力がないと開かないんだよ」
「は、はぁ……」
唖然として、どう答えればいいかわからない。
こじんまりとまとまった部屋のようだった。本当に現実感がない。変な怪奇現象が現実にある作品にいる夢を見ているんじゃないかって思うくらいだ。
右手をじっと見て、グーパーしてみた。やはり現実感がある。
ドアの中にあるのは、これまた薄暗い部屋。
目の前に和風の家のような玄関があって、その奥は畳でできた部屋。
ぷんと獣臭がする。
木でできた机に、奥には木の板でできた広い部屋。ところどころ液体がこぼれたような染みがあった。
「まあ、座りなよ」
将門が机の前にある座布団に座ると、俺はその向かい側の座布団に座った。
将門は持っていたカバンからペットボトルのお茶を取り出しこっちに渡してきた。
「外は暑いし、とりあえず飲みなよ」
ペットボトルに触れたが、未開封のようだ。100円で売ってそうな、安い自販機のお茶。
一口飲むと、将門が薄ら笑みを浮かべながら話し始めた。
「大丈夫? 怪我とかしてない?」
「ああ、これくらいなら大丈夫だ。心配ないよ」
そう言いながら、改めてこの部屋を見まわす。本当に生活感がない。おそらく。別の場所で住んでいてここで何かをしていたのだろう。
「それでさ、ここで何してるの? どうして僕を呼んだの?」
「呼んだのは、君に興味があったから。いろいろ研究してるんだ。妖怪とか呪いとか──」
「オカルトとか?」
「ん──まあそう思ってくれて構わないよ」
「ええと呪いとか、古代の陰陽師とか──そんな感じかな」
その言葉に、どう返せばいいかわからず戸惑ってしまう。こんな非現実的な空間にいて、今更何をしているといっても驚きはしない。
にやりと笑みを浮かべて、話始めた。
「見たよ。君をボコボコにしている人たちのこと。本当にひどいね」
「そ、そうだよ……」
将門から目をそらして、くいっと眼鏡を上げる。
に言われて再び腹が立ってくる。
何で、俺がこんな目に合わなきゃいけないんだ──俺が何をしたっていんだ。
恨んでるよ、あんな奴ら。復讐したいよ……したいよ。
そんな感情が渦巻いていた。
「だからさ──」
そう言って将門はふっと微笑を浮かべて、耳元で囁く。
「あいつら、いらない? 始末してほしい?」
いらない? 始末してほしい?」
その言葉に、体がぴくんと動く。どういうことをするかわからないけど、冗談で言っただけではないのもわかる。ボコボコにされてからの、甘い誘惑のような言葉。
きっぱり断る勇気なんて、出来なかった。
「始末して、欲しい」
ぼそっと言った言葉に、将門は彼の何かを察したかのように一瞬だけニヤリと笑みを浮かべた後、
「わかったよ。それが、君の望みなんだね。叶えてあげるよ──始末」
異様な気配を感じつつも、それはヤンキーたちへの恨みにかき消され、コクリと首を縦に降ってしまった。
そして、この選択が彼の運命を決めることになるとは、この時は知る由もなかった。
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