第91話 事後処理

「まあ、何を言ったところであんたらの傷口に塩を塗る行為でしかないのはわかっとる。でも、何も言わないってわけにはいかないけん」


「わかっとる。おらたちが弥津一に何をしてきたのか」


 集落の人たちが、複雑な思いを抱えているのがわかる。当然のことだ、殺された奴らが弥津一に何をしてきたのか知っていて、それを見て見ぬふりをしていたのだから。中には加担してきたものもいるかもしれない。そんな罪悪感が、彼らの肩にのしかかっているのだ。


「わかったよ、もう少しやり方を変えてみる。こういうことは、間違いであったと認めるわい」


「ああ、それが、亡くなったやつらに報いるやり方だと思う」


 暗い表情を落とす彼ら、その近くには理香ちゃんもいた。弥津一を失って悲しみに暮れているのか、ただ何も言わずに泣いていた。私は、理香ちゃんの髪を優しくなでる。


「優しいんだね……最後、暴力を受けたのに」


「だって、優しくしてくれたから……また、優しくしてほしかった」


 その言葉に、周囲の視線が集中する。どう行ったらいいのだろうか……気の利いた言葉でもかけてあげたらいいんだけど、あいにく私にそんな能力はない。


 ぎゅっと理香ちゃんの頭を抱きしめていると、ミトラが隣に立って話しかけてきた。


「そう言えることが、理香ちゃんのいいところですの。これから、どんなことがあってもそんな優しい感情を捨てないでほしいですの。それが、弥津一さんに報いる方法ですし──私が理香ちゃんに願っていることでありますわ」


「ありがとう、ミトラちゃん、私頑張るね」


 その言葉に、理香ちゃんはこっちを向いてくる。ずっと泣いていたのか目が赤くなっていた。

 それから、少しずつだけどこの場の雰囲気が変わっていっているのがわかる。

「ありがとな。あんたたちのおかげで、この村は変わるかもしれねぇ。難しいかもしれねぇが、一歩ずつ頑張ってみるべぇ」


 そう決断を出せたことが、ちょっとだけ嬉しい。彼らの選択を私たちは信じたい。


「まあ、今は江戸時代とは違う。こういう問題で困ったときようにいろいろな組織がある。ここに電話番号とか書いてあるから、隠したりせずに相談するとええよ」


「わかった」



 少しでも、彼らの考えが変わるといいなって思った。



 それからも、村の現状を話す。


 貞明さんいわく、こういった農村のようなところでは村全体でそれぞれの役割があり、みんながそれぞれ役割を果たすことで村は回ってきた。

 今回突然33人もの人が殺されたことで立ち行かなくなってしまうかもしれないらしい。


「こういったアフターケアもわしたちの職務なんじゃ。敵を倒すだけじゃのうて、被害にあった人のこともしっかりしていくことだって業務のうちじゃ。ま、2人ならそんなこと言わなくても大丈夫じゃろうけどな」


「は、はい」


 確かに、大事件になった以上村だって今までのようにはいかない。ああいった「発狂小屋」のようなものはなくなるらしいが、それ以外に大きく村の形も変わるそうだ。


 いろいろあったけど、彼らには変わる意思はある。この後はどうなるのかな?

 ちなみに、こういった妖怪によって人が殺された場合、妖怪省が後処理をするらしく表ざたになることはないそうだ。

 まあ、人のうわさまではさすがに消すことは難しいそうで、うわさが独り歩きして都市伝説になったりしているのだとか。



「近頃はSNSの存在もあって噂を完全に消すのが本当に大変でのう」


 処理班に連絡を取った後、愚痴るようにつぶやく貞明さん。数日後には、後処理が始まるらしい。確かに妖怪の姿をそのままSNSにアップされたら大変なことになりそうだ。まあ、あまりにも現実離れしていて嘘認定するのも可能そうだが。



「まあ、今まで村の人をないがしろにして、ひどい扱いをさせてきた報いともいえるのう」




 翌日になって、別れに時間となる。バス停でバスに乗るとき、動ける村の人たちが頭を下げてくる。


「ありがとな、あんたたちのおかげでわしたちは助かった。大切なものが見つかった」


「頑張んな。わしも、何かあるなら応援しちょる」


 一応心から反省はしてるのか? でもここから先は彼らが選択することだ。その場の感情に流されず、最善の選択を選んでくれると思いたい。

 そして、理香ちゃん。どこか複雑な表情をしていて、まだ悲しみは癒えてなさそう。

 それでも、こっちを向いて微笑を浮かべ、こっちを見てきた。


「凛音ちゃん、ミトラちゃん。本当にありがとうね」


「こっちこそ。元気にするんだよ」


「こっちこそ。元気にするんだよ」


「RINA交換ありがとうですの、これからもいろいろ話すですの」


「つらいことがあったら、相談してね」


 私もミトラも、理香ちゃんと会話アプリRINAの連絡先を交換した。これで、いつでも連絡できるし、相談だって受けられる。


 まあ、コミュ力0の私がまともに会話できるかどうかは話が別だが。

 そして、バスが来て席に座ると発車時刻となった。


「ありがとうございましたの」


「こちらこそ、ありがとうございました」



 互いに深々と頭を下げて、この場を後にした。

 この人たちのこれからが、少しでも良くなりますようにと祈りながら。

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