第90話 戦いの後
仰向けになり、夜空に視線を向ける。完全に力不足だった。もっと強くならなきゃ。本当に悔しいな……。
それと、思い出す。絶体絶命の時──時折見る脳裏によぎったあの光景。弥津一のだったり、別の光景だったり。
あれは、なんだったのだろうか──。本当に起こったことだというのは直感的にわかる。ただ、何でよぎったのか……。そんなことを考えていると、ミトラと貞明さんがやってきた。
「お疲れ様ですの、すごいですの」
「でも、勝てなかった」
「そんなことないじゃけん。あいつと戦って姿を保っている時点ですごいことだのう」
玉藻前は、初めて戦う私に油断していた。慢心があったと所に、私の激高した力がぶつかってできた偶然だ。次戦ったら、絶対本気で来られて絶対に負ける……。あれは、奇襲みたいなものだからだ。
うなだれて倒れこんで横になる、星空を見ながら自分の実力のなさに打ちひしがれていた。
結局、与えられた力に頼ってばかりでまだまだ未熟なんだ。
琴美、家族たちの仇──取れなかった。悔しさで、何度も地面をたたいた。悔しいなぁ……。
「まあ、そう感じるならもっと強くなることですわ」
「凛音ちゃんなら、もっと強くもっと強く成れるけん。応援しとるよ」
2人の言葉に、どこかほっとした。
少し休んで、日が明けた。集落の動ける人は、この状況に唖然としながらも少しずつ壊れた建物を立て直し始める。
彼らは、この地に住んでいる以上この現状を受け入れて、進んでいかなくてはならない。すぐに精神的、肉体的に動けるものが集まって、倒壊した家屋の復旧作業やけがをして助かる見込みがあるものの手当を行い始める。私たちも、単純作業など手伝えるところだけでも手伝う。
村の人たちは、みんな複雑そうな表情をしていた。口数が少なかったり、よそよそしかったり。
それから半日ほどたって15時ごろ。最低限の復旧が終わって、いったん休むこととなった。みんな、力仕事で疲労の色を見せたまま栄吉さんの家へと戻っていく。
家に戻る間に、私が見た光景について貞明さんに聞いてみる。
脳裏によぎった景色。貞明さんはしばし腕を組んで考えた後、言葉を返してきた。
「おそらくは──妖力の遺伝じゃけん」
「それ、なんですか?」
「私も、わからないですの」
「半妖の物に、時折現れるんじゃ。同じ半妖の物──それから、元々の力も持っていた者の強い感情の記憶が脳裏に、その記憶が──絶体絶命の時によぎるけん」
「聞いたことがありますの。御影が言ってましたわ」
そうだったんだ。初めて知った。
「でも、ただ半妖になっただけじゃダメけん。半妖元の魂から、認められなきゃいけない件」
「どういうことですか?」
「力の主の実力、それだけじゃなくて想いや心──それが反応してまれに起こるんじゃ」
あの記憶、やっぱり全部本当だったんだ。弥津一の過去も──私の半妖の力から出た声も。
あんな過去……私よりもずっとひどかった。
「凛音ちゃんのことが認められてるってことさ。誇ってええよ」
考え込んでがっくりと肩を落としていると、貞明さんが肩をポンポンとたたいてくる。今の話で、肩の荷が下りてほっとした気分になった。
「ありがとうございます」
「頑張るんじゃ」
まだ、琴美を取り戻すチャンスはある。諦めずに努力していくしかなさそうだ。大きく息を吐いて、精神を落ち着かせて強引に納得する。
すると、ミトラが目の前にやってきた。にっこりと笑みを浮かべる。
「凛音はすごいですの」
声をかけてもらっても、どこか喜べない。
まるですり抜けていくかのように。だって、善戦しても最後は勝てなかったし。あのまま戦いが続いても、もう私は戦えなかったのだから。
「大丈夫。まだ戦うチャンスはあるけん。もっと強くなって、リベンジじゃ」
「ありがとうございます」
「というかのう……わしたちが何十年たっても倒せなかった最強クラスの妖怪。それをいくら半妖とはいえ戦い始めてばかりの凛音ちゃんがあっさり倒してしもうたら、こっちの立場がないわい」
「それもそうですね」
「でも、凛音ちゃんは半妖になって間もないのに倒すまであと少しというところまで行った。これからもっと強くなればええよ」
励ましてくれる二人。自然と精神がほっとなった。
そして、元の栄吉さんの家へと戻っていった。
家に戻った私。力を使い果たしてしまったせいかその場にへたり込んで、意識を失うように眠り込んでしまった。
気が付いた時には、夜遅く。気まずそうなどんよりとした雰囲気で、夕食を食べた後、理香ちゃんとミトラと一緒にまた寝た。ミトラを、さみしさのあまりぎゅっと抱きしめてしまった。
そして翌日。集落の復旧が一通り終わる。まだ瓦礫となっている家屋もあるけど、周囲の家に住まわせてもらうらしくとりあえず寝る場所がないなんてことはないようだ。
再び栄吉さんが住んでいた家へみんなが集まる。
みんな、一晩たって周囲の人がたくさん死んだという現実を理解し始めたようだ。
結果は、散々なありさまだった。私たちが来る前に、弥津一は自分をいじめていた人たち、その周囲含めて33人も殺したらしい。
半分はそのまま食ってしまったらしく骨も残っていない。
その事実にあるものは放心状態になり、中にはここに来ることすらできないものもいたとか。
そんなこともあり、ここに来た人は当然のごとく暗い表情をしている。
沈黙の雰囲気がこの場を包む中、貞明さんがおほんと咳をして話始めた。
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