第85話 決着
そんなことはつゆ知らず、弥津一は再び殴り掛かってくる。
「俺は愛されなかった。だからこんな世界、全部ぶっ壊してやる!」
こいつのパワーには負けない、何度も打ち返していく。そんな時、ミトラの声が聞こえた。
「いえ──あなたを信じてくれた人は、いました」
ミトラが、後ろで悲しそうな表情をしている。
ミトラの、悲しそうな──裏切られたような眼。ミトラが悲しんでいる理由が、私にもわかる。
「しかし、あなたはその信じてくれた人を──突き放しましたの。その瞬間、私がわずかに抱いていた同情の心は完全になくなりましたの」
同感だ。こいつは、理香ちゃんの愛を無為にした。彼女は最後まで弥津一のことを心配していた。
私が戦っているときでも、理香ちゃんは私ではなく弥津一のことを最後まで思っていた。
そんな理香ちゃんを、弥津一は殴り飛ばしたのだ。
もう同情の余地はない。こいつは生かしておくわけないは行かない。
「お前には、絶対に負けない」
今までで一番、強い怒りで弥津一をにらみつけた。
あれしかない、さっき脳裏に焼け付いた何者かの術式。何かはわからないけれど、あれにすさまじい力が込められているのは私にもわかる。
「フン。口だけなら何とでも言える」
鼻で笑う弥津一。見ていろ、その調子に乗った鼻をへし折ってやる。殴りかかってくる弥津一、思いっきりこぶしに力を込めて殴り返す。
ぶつかる拳と拳。大きな衝撃波を上げて互いの腕がへし折れる。
感覚がなくなるくらいに痛い、腕の感覚が消し飛んでる。だが弥津一もまたもだえ苦しんでいる。半妖だから苦しくてもここで決めなきゃいけない。
視線を折れた弥津一の腕の先に集中させる。
そして、切断した腕の部分に手を突っ込んでいく。それで、勝負は決まりだ。思いっきり妖力を込める。自分の怒りを、弥津一にぶつけるかのように。
一瞬で弥津一の体が凍り付く。
ガチガチガチガチガチガチガチガチガチ──。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
断末魔の叫び声をあげる弥津一。しかし、私は攻撃を止めない。
「うわあああああああああああああああああああああああああああ」
一瞬で全身が凍って、私が弥津一を蹴っ飛ばすと弥津一の体は真っ二つに割れて、地面に落下した。
何とか終わった──。思わず腰を下ろしてその場にへたり込む。
「すごいですの」
「流石は凛音ちゃん。勝つなんてすごいね」
「ふぅ──ありがとうございます」
称賛する2人、でもそんなにすごいことじゃない。
ギリギリの勝負。一歩間違えれば負けてた。というかまだついてない。半妖なら、再生しても何らおかしくない。
とどめを刺したいが、もう力が入らない。立ち上がることさえやっとだ。
「まあ、後はわしが何とかしたるよ。凛音ちゃん、ようやったな」
貞明さんが手を私の前に出して言った。ちょっとうれしい気分になる。
そして、腰を下ろしたまま弥津一をじっと見ていた。
私と、似ている所がったように感じた。周囲から認められなくて、疎まれて──。
私には理解者がいたけど──。
だから、これ以上攻撃を加える気にはなれなかった。どうすればいいか悩んでいると。
パチパチパチパチ──。
どこからともなく拍手の声が聞こえる。
「流石どすえ。弥津一はんを倒しきるとは──」
その言葉が聞こえた瞬間、弥津一はよろよろと立ち上がり、女のほうへと向かっていく。
「玉藻前さま。私に力をくださいまし」
「ほう、力が欲しいと」
「玉藻前様の力添えさえあれば、こんなやつなどあっという間に亡き者に」
女は、しばし弥津一から目を背け下を見てもう一度弥津一に視線を向けた。そして、その瞬間貞明さんが強く女をにらみつけた。そういえば、玉藻前って──。
「もう、わかりました」
そして、女は手を差し出し弥津一の足に手を触れた。その瞬間信じられない光景が目の前に現れる。
グジャッ──グジュグジュグジュ、ジュババッッッ!! グジャァァァァl!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
なんと、女が弥津一に触れた場所から弥津一の肉体が吸収されて言っているのだ。
奇声を上げながら弥津一は逃れようとするが、女の手がまるで強力な掃除機であるかのようになっていて弥津一の足をあっという間に飲み込むと、今度が胴体を吸い込んでいく。
絶句する私とミトラ。──そんな場合じゃない。急いで弥津一のほうへと向かう。
よろよろとしたおぼつかない脚。それでも、懸命に。
隣にいた理香ちゃんも一緒だった。必死に腕をつかむ。
「弥津一さん、待って」
弥津一は、ただ理香ちゃんを見ていた。引っ張ろうとするが、あまりに力が違いすぎてまったく引けない。何百キロ相当の力なのだろうか。
理香ちゃんの悲しみにあふれた表情。見つめ合った弥津一と理香ちゃん。
それを最後に、彼の姿は完全に見えなくなった。
「お前──なんでこんなことした」
精いっぱいの感情で、女をにらみつける。女は──なんで睨まれているかわからないようなのだろうか。不思議そうな表情をして、首をかしげている。
「なぜと申されても、こやつはそなたに敗れた。そして醜くも命乞いをしこの私に力を要求した。それ以上でもそれ以下でもないどす」
「こいつ」
女は、淡々と話す。自分が弥津一を殺したことに、何の感情も抱いていないかの如く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます