第84話 記憶
再び、立ち上がって死闘が始まる。
向かってくる弥津一に、私は立ち向かう。
私も弥津一も、互いに力任せに相手を殴り合い、一歩も引かずに死闘を繰り広げていた。弥津一のこぶしから、彼の怒りと憎しみの力が伝わってくる。私を粉砕しようと、感情任せの力。
戦略も駆け引きもない。弥津一は力任せ、感情任せにこっちに突っ込んできては殴りかかってくる。
何度も斧を乱雑に振り回しては私に向かって振りかざす。
私も一歩一歩引きながらなんとか応戦していく。時折つばぜり合いになり、本当に私の腕が軋んでいくような気分になる。
攻撃を食らっていないのに、受けているだけで体力がじわじわと削られていくような感覚になる。
一気に前へと向かっていく。
力任せに振りかざす斧に、私は引いて、反撃して対抗していく。
攻撃を受けながら、弥津一が話しかけてきた。
「お前、俺様と同じ匂いがする。いろいろと、あの青髪女に助けてもらったのだろう」
「そ、そうだけど」
何が言いたいんだ? とりあえず、攻撃を受けながら言葉を返す。
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!」
その瞬間、怒鳴り声をあげ弥津一が一気に殴り込んできた。感情を一気に高ぶらせ、叫び声は地響きとなってこの地を大きく揺らしているほどの大きさだ。
「俺はお前とは違う、誰も助けてなどくれなかった。救いの手などなかったその気持ちが貴様にわかるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
本能からの叫び、殴ってくる力にも明らかにそれがかかっている。振りかざした弥津一の攻撃を受けきれずに大きくのけ反ってしまう。
無防備となった胴体。弥津一はチャンスとばかりに一気に突っ込んできた。
「死ねぇぇぇぇぇ!」
斧を横一線に薙ぎ、私のはらわたを引き裂く。あふれかえる血と贓物。そして、左方向に吹き飛ばされる肉体。
そのまま壁に激突して、そのまま地面に体が落下。
「これで終わりだ」
そう言って弥津一が、斧の切っ先で私の頭に突き付けてきた。
「粉々に、粉砕してやる」
後ろは壁、引き下がれない。どうすれば……。
絶対に負けられない。そう思ったその時
脳裏に、とある光景がよぎる。
見たことがない──。
真っ暗な闇の中、白い服を着た私と同じくらいの背丈の女の人がいた。
「なぜ、罪もなき人を気付つける。何が面白い」
「黙れ──必要なのだ。われらが繫栄し、生存していくには」
「何が楽しくて、大切な命を粗末にしているのよ」
そして、視線の先を強くにらみつけた。水色の目、強い眼光──。
その目に、今までにないくらい強さと、怒りの意志を感じる。
眼光の先には、落ち武者のようなぼろぼろの格好をした侍。彼も、弥津一のような目の前の相手を、食い殺そうというさっきを秘めている。
落ち武者は、恐怖のあまり一歩引いた。
「私の、あなたたちへの意志──」
受け取りなさい──。
そんな言葉が、私の脳裏に入り込む。
そして、私の視界が元に戻る。
目の前には弥津一。ただ一つ違うことがある。
何なんだろう、この術式。
頭の中に、一つの術式が浮かび上がっている。言葉とその術式のイメージ。
どうしてこうなっているかは、私にもわからない。
それでも──これさえあれば弥津一を倒せる。そんなイメージができた。
そんな答え合わせは、後でじっくりやればいい。今やるべきことはこいつを倒すこと。
ありったけの力を込めて、弥津一にぶつける。撃ち負けるつもりなんて全くない。
「よもや──まだ戦う意思があるとは」
「お前を倒すまで、私は戦うのをやめない」
「まあいい、次で決める」
そして、弥津一はこっちを向いて再び殴り掛かってきた。私も、術式で対抗する。
氷の旋風よ──・すれ違う想い重ね合わせ、炎も凍り付かす風となれ!
氷結二旋
──暴風雪──
ドォォォォォォォォォォォォォォン
両者の攻撃は互角、大爆発を起こし私も弥津一も体が後方に吹っ飛ぶ。
何度か壁を貫通して、家の外にある軽トラにぶつかってその場に落下。
痛すぎて体の感覚がない。でもいつ弥津一が来るかわからない。ふらふらで視界がおぼつかない中、何とか立ち上がって前を見る。
舞い上がる煙の中、ゆっくりと立ち上がろうとする弥津一のシルエットを発見。
「貴様、あれほどの痛みを食らってもまだ立ち上がれるとは──」
「当たり前だ。私は、負けるわけにはいかない」
とはいえ、何度も食らったら妖力が持たない。どこかで勝負を決めないと。
そして、私と弥津一は再び退治。互いに一触即発となった。
そんな中、私と弥津一がにらみ合っている場所に、誰かが走っていく。
理香ちゃんだ。危ない──そう思って理香ちゃんの所に走っていく。
「弥津一さん、やめて。ひとりぼっちだっていうなら、私が隣にいる。優しい弥津一さんに戻って」
必死に自分の気持ちを伝えようというのが理解できる。
いや、足が震えている。恐怖の中、勇気を出しての所に来たんだ。
でもダメだ──今のあいつは話しが通じる相手じゃない。
「ダメ、逃げて」
私が叫んだ瞬間、弥津一が血相を変えて大きく声を上げる。
「うるっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
そして、理香ちゃんを突き飛ばそうとしたのだ。
私が間に入って攻撃を受ける。そのまま後ろの壁に激突。慌てて理香ちゃんを確認。
うん、大丈夫。
こいつ──。
とうとう、堪忍袋が切れた。一線を越えたと、感じた。
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