第76話 急展


 その時の様子を、ミトラは目を輝かせながら話す。本当に強くて、何十人もの人が束になっても勝てなかった時のこと。


大百足むかでと言って、何十メートルの巨大な百足と戦った時のことですの」


「ああ、あれね」


「貞明さんの、最強技。貞観大波じょうがんたいはあれはすごいの一言でしたの!」


「あれ、妖力消費が激しくて、一度使うとぶっ倒れるし──本調子に──本調子に戻るまで1週間かかるんだわい。どうしてもというときの、最後の手段だわいな」


「でも、何十体もいる妖怪を立った一撃で全滅させたのはさすがでしたわ」


 貞観大波じょうがんたいは──溶解した銀の液体が大津波みたいに襲い掛かったり、鉄砲水みたいに目にもとまらぬ速さで敵に向かって行くらしい。


 さらに、力を一点集中したときの攻撃は時にコンクリートをぶち抜くときもあるのだとか。


「とにかく、頼りになる人ですの!」


 ただ、基本的に妖力消費が激しいので、それらを使うのは強い敵の時だけ。普段は、種子島銃みたいな武器を使って戦ってるらしい。


 確か、始めた会った時はそうやって戦っていたっけ。


「まあ、何かあったら2人を守ってあげるけん。じゃから、臆することなく向かって行け」


「わかりました」


「頼りにしていますの」


 いよいよ、戦いが始まりそう。絶対に勝とう──そう意気込んで強くこぶしを握ったその時。


「でも、2人には避けてほしいやつだっている。例えば──」


 そういって貞明さんが少し考え込んだ。


「後、最近玉藻前たまものまえという妖怪がよく出没しておる。わしは2回ほどしか出くわしたことがないんじゃが、こいつはあんたたちでどうにかなる相手じゃない。幸い、そこまで好戦的じゃのうから、出会ったらすぐに逃げてくれ。わしが戦う」


「強いんですの?」


「どんな姿をしているんですか?」


 貞明さんによると、狐のような釣り目。スレンダーな体形で、黒髪のさらさらしたロングヘア。さらに、後ろには9つの狐の尾があるというのだ。



「ええ、気配でわかる。こいつは、ただものじゃないわい。まあ、もし出会ってしもうたら無理に倒そうとはするな。すぐにわしを呼んで、攻撃を防ぐことだけに徹するんじゃ」


「わかりました」


 貞明さんの表情が、さっきと違って真剣モードになった。玉藻前──そんなに強いのか。


「ということで、明日から警戒モードだわい。心してかかろう」


「わかりました」


「はいですの」


 それから、話は貞明さんの話に入った。貞明さんが、自分のことを話す。


「──ということなんだ」


「はい……」


 貞明さん。いろいろと経験があって、とってもためになる話ばかりだ。

 そして、夜もすっかり遅くなりもうすぐで日付が変わるころとなった。貞明さんは別の部屋へ移動しようと立ち上がった。


「おやすみ」


 私たちはベッドの中に入る。そして寝付こうとしたその時──。


「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!」


 遠くから、おばあさんの声っぽい叫び声が聞こえた。

 私とミトラが──思わず飛び起きる。


 そして、たがいに見合ってコクリとうなづいた。



「行かなきゃ!」


「行きますわ!」







 夜、電気もない月の光だけが家屋の中を照らしていた発狂部屋。


 家畜の血肉、埃まみれの家屋の中復讐に炎を煮えたぎらせる人物がいた。




「そろそろだ……。俺の復讐劇」


 弥津一、俺だ。しかし、俺の外見はすでに人間ではなくなっていた。


 異形と呼べる躯体に筋肉をつけ、太く成った腕。


 灰色の肌。そして、体は3メートルほどの巨体になっている。


 そして、妖怪の力を得たもの特有のオーラのようなもの。

 それは、他の半妖体となったものの中でもひときわ目立つものとなっている。


 家畜ではあるが、何十、何百という命を食ったもの特有の形と、力強い妖力のオーラを放っていた。


 自分でも、わかるくらいに。変わったのだ。


 そろそろ行動に移さなければならない。


 俺を蔑んできたやつらへの復讐。俺が受けてきた屈辱、こいつらの血で償わせてやる


 しかし──。


 行動に移そうとすると、胸が痛く感じてしまう。

 理香──。



 気配からわかる。この女──。妖力が半端じゃない。半妖となった俺など、ちり芥に過ぎないくらいに。一人しかいない。


 こっちに来る。近づいてくるだけで、その力に身震いしてしまう。


 白を基調とした着物を着ている、髪が長くてやせた美しい女。

 そして、俺の前に近づいてくると上品なそぶりで星座に座り込んでお辞儀をしてくる。


「弥津一殿──」


 慌てて俺も座り込み、土下座するかのように頭を下げる。彼女は、私を導いてくれた人。

 そして、私よりもはるかに強い力を持っている。


「ははっ! 玉藻前たまものまえ様。どのようなご用件で」


 玉藻前様は私のことをしばらくの間じっと俺のほうを見て、ニコッと微笑む。


「弥津一殿。よもやあなたは、私が与えた力を見事に使いこなすことに成功しました。それだけの、あなたを突き動かしたパワーがあなたにはあったということです」


「ははっ、仰せのままに。この力を与えてくださって、大変感謝でございまする」




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