第75話 貞明さんの力


「殴られたり、けられたり発狂小屋っていうんだけど──そこに閉じ込められたり、ひどい扱いを受けたりしているの」


 周囲に、聞こえないようなひそひそとした言葉。

 思わず飛び上がって、しまった。


 あんなところに、人間が住む場所とは言えない場所に???

 ひどい──。


 困っているなら、協力しないという選択肢はない。

 ミトラも、同じように感じていたようだ。理香ちゃんの手を優しく握って、周囲に聞こえないように静かに囁いた。


「わかりましたの。理香ちゃん。絶対、私たちが何とかしますの!」


 ミトラが、拳を強く握ってにっこりと笑顔を作った。


 何か、関係があるのかな?

 とりあえず、今はまだ何とも言えないけれど、頭の片隅に置いておこう。


 そう言って、ミトラはにこっと笑顔を作った。

 本当に、ミトラの笑顔は眩しくて──太陽みたいだ。

 見ているこっちまで前向きになれる。


 かわいい……。


 理香ちゃんも、ミトラにつられるようにほんの少しだけ笑顔を取り戻す。


「ありがとう──お願いお姉ちゃんたちのこと、信じてるから」


「大丈夫ですの、凛音は最強ですの」


 それから体を洗いっこしたり、村の楽しいことを話してお風呂から上がった。

 デザートの桃ゼリーを頂いた後、ベッドの部屋へ。


「とりあえず、ミーティングだわい」


「そうですわね、気になることもありますし」


 え……。いきなり話せと言われても、私──知らない人に意味のある言葉をしゃべるなら、あらかじめ心に台本がないときついタイプなのに……。


「気にする必要ないですわ。私がフォローしますの!」


 そう言ってミトラは腕にまとわりついて、ほっぺをすりすりしてくる。まとわりつくな!




 それから、私とミトラは貞明さんにすべてを話した。すっごいしどろもどろだけど……。

 理香ちゃんから聞いたこと、発狂小屋でのこと。


 腕を組んで、考え込む。そして──。


「これね、あくまでわしの経験からの話なんだけどのう」


「は、はい──」


「こういう人里離れた集落って、色々と閉鎖的なところがあるんだわい」


「確かに、それは感じましたわ」


 私もコクリと頷く。なんていうか、弥津一さんの件からそれは感じていた。

 あんなことをしていたなんて──。


「それでね。そういう所って、集落の秘密みたいなのがあって、何か隠している可能性があるんじゃ。当然、外部には言えないようなことを風習としてやっていることだってあるのう」


「そ、そうなんですか?」


 ごくりと、息を飲む。それが、あの発狂部屋とか言うものなのだろうか。


「ああ、そうかもしれないわい」


 その言葉に、私もコクリと頷く。噂で、聞いたことがあるからだ。


「特に、自分たちとは違うと感じた人へのあたりはそうだわい。徹底的に村八分にしたり──中には、姨捨山みたいなのがあって自分たちがいらないと判断したやつらをするけん」



 流石、ベテランの貞明さんと行ったところだ。色々と地域の事情とか傾向とか詳しんだな。


「私も青森の生まれでしたので、聞いたことがありますの」


「まあ、推定無罪という言葉があるからいきなり決めつけはしない方がいいけど、警戒はした方がいいけん」


「……わ、わかりました」


「了解ですの」


 私もミトラも、コクリと頷く。

 あの人たちのことを知る。慣れないことだけど、これも必要なんだ。


 それから、話題は別のことに映る。


「凛音ちゃんの妖力、聞いてええ?」


 突然の質問に、あたふたしてしまう。


「おおすまんのう。ほれ、これから一緒に戦う機会が増えるからのう。互いにどんな戦闘スタイルか、どんな力を使うのか知っといた方がええからのう」


 確かに、その通りだ。私は貞明さんの妖力のことを知らない。

 ちょうどいい機会だ。しっかりと聞いておこう。これから一緒に戦うことだってあるかもしれないし。


「氷の妖力──」


 それから、妖扇を見せて今までの自分のスタイルをしどろもどろにしゃべる。まあ、力任せな部分が多くてそんな喋れることないんだけど。


「なるほどのう。これから、経験を積んで腕を上げてくとええ」


「──わかりました」


 続いてミトラ。


「私は、風の力を使いますわ。バトルスタイルは力と力のぶつけ合い。自分の全力を込めて相手に当たっていくが大好きなのですわ」


「ははは、ミトラちゃんらしいわい」


 笑って言葉を返す貞明さん。こっちは、割と大変なんだぞ。よくミトラに振り回されて。

 それから、貞明さんの話になった。


「ワイの妖力は──銀の妖力じゃけん」


 銀?? 予想外過ぎて、ちょっと驚く。ちょっとピンとこない。どんな戦闘スタイルなのだろうか──。


 私がきょとんとしていると、貞明さんが言ってくる。


「ああ、すまんのう。銀を生み出して、剣や槍を使って戦うことが多いのう。盾にしたり、液体にして熱攻めとかも出来るわい。後は、鉄砲玉みたいにして遠距離戦とか」


 そういうことか──。つまり、どんな戦い方もできる万能派ってことか、本当に強そう。私なんかよりもずっと。


「有名ですわ。最強の銀使いですもの。それも、並の使い手ではありませんわ」


「何なの?」


「一回見たことがありますの、貞明さんの本気」





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