第74話 知られたくない、秘密


「それは言うな! 禁句じゃ!」


「おう──すまんのう」


 なんというか、血相を変えてというか、焦燥感が表情からにじみ出ているような感じだ。周囲に、知られたくないとでもあるのだろうか。

 なにか、隠し事でもあったのかな? 周囲の人たちも、きょろきょろと周囲を見ていたり、落ち着かない様子をしている。まるで、知られたくない秘密を隠しているかのように。


 少なくとも、あの表情は何かを隠しているような表情だ。ちょっと、気になった。


 理香ちゃんだ。どこか、悲しそうな表情をしている。

 何か、理由でもあるのだろうか──。


「とりあえず、瓦礫を片付けますの」


「そうだね」


 今は、よくわからない。後で聞いてみるのもいいかもしれない。


 それから、集落の人達と復旧作業に入った。

 倒壊した建物。瓦礫を片付けて、下敷きになっている人がいないか確認。


 大丈夫、幸い犠牲者はいなかったようだ。ほっと胸をなでおろす。


 私達も、復旧作業を手伝った。破壊された家具や家の残骸を空地へと運ぶ。結構あるな……空地がかなり、埋まってしまった。


「おう若い姉ちゃん、それ運んできてくれ」


「わかりましたの!」


 ミトラは、ここでも人懐っこさを発揮。どんどん周囲と溶け込んでいき、気がついたらまるで昔からここにいたかのように親しくなっている。私では絶対あり得ない。本当に羨ましい。


 私も、ミトラの隣で片付けなんかを行ったりしていた。

 だいぶ建物が壊れていたり、そもそも古かったりして、時間がたってしまった。



 まあ、休憩がてらに集落の人といろいろ話したのもあったし。

 気がつけば、日も暮れてきた。壊れた建物の人を家に案内してから、家に戻る。

 私達が寝ていた広い部屋に戻った。くたくたに疲れて思わず寝っ転がる。


 そして話し合いがひと段落すると、食事。

 川魚を焼いたものと、浅漬け、味噌汁。

 それから、お風呂となった。




 タイルが敷き詰められた、一昔前の風呂。

 自動で温度調節ができないため、最初は冷たくあったかいお湯が出るまでに時間がかかった。


 湯船に手を突っ込んで、適温だということを確認してから更衣室に戻って服を脱ぐ。


「凛音と入りますの!」


「私も、おねえちゃんとお風呂入りたい」


「3人か……」


 あの湯船の広さだと、ギリギリ行けそうなくらいか──。まあ、いいか。


「いいよ、一緒に入ろう」


 にっこりと理香ちゃんに笑顔を見せて言葉を返す。まあいろいろ会話して、親しくなるというのもいい。


 すると──。


「ずるいですの!」


 ミトラが不満そうに、顔を膨らませている。一緒に入るというのに、何が不満なんだ?


「凛音ちゃんと一緒、うれしー」


 そう言って右から理香ちゃんが、同時に左からミトラが抱き着いてくる。なんでミトラまで……。

 くっついてきたミトラを、何とか引きはがそうとする。


「お前、離れろ!」


「嫌ですの~~凛音成分がないですの、補給しないといけませんの~~」


 ここに来てから、なんというか──すごいくっついて来てる。

 なんなんだ……。


「お姉ちゃん、ちょっといい?」


 女の子は、私の隣にくっついてきた。


「凛音、女の子にモテモテですの~~」


「もう」


 大きくため息をつく。こんな時に……。


「悔しいですの!」


 そう言って顔をぷくっと膨らませると、私の左手をぎゅっと全身で抱きしめてきた。

 大きなおっぱいが当たって、ちょっと恥ずかしい。


 そして、強引にミトラを引き離して理香ちゃんに顔を向ける。え──。

 どこか悲しそうな表情。何だろう。何かあったのかな──。


「お姉ちゃん、いい?」


 他の人に聞かれたくないのか、ひそひそとした声。何かあったんだと理解し、話しあっ蹴る。

「どうしたの?」


「理香ちゃん、どうしたんですの?」



 昨日まで、一緒に遊んでいた理香ちゃん。でも、昨日とは様子が違う。

 目から、ほんのりと流れる涙。どこか、悲しそう。何が、あったのかな?


 思わず心配になる。


「助けてほしいの」


 そう言って、こっちに向かってきて抱き着いてきた。ちょっと、話を聞いてみよう。


「なにかあったの?」


 理香ちゃんが顔を見上げてくる。うるうると涙目になって、何かを訴えかけているのがわかる。


「弥津一さん、私はわかってるもん。本当はいい人だって──。


 ぎゅっと、手をつなぐ。理香ちゃんの手は、少しだけ震えていた。

 弥津一さん──悲しい表情。何かあったのかな?


「ちょっと、聞いてみた方がいいですわ」

「そうだね」


 ミトラと相対して、互いにコクリと頷いてから話しかける。


「その──教えてくれないかな……弥津一さんいついて」


 理香ちゃんは、うつむいて何やら考えている。そして、決意したかのようにコクリと頷いて、質問に答え始めた。


「弥津一さんっているのはね──私のお兄ちゃんなの」


「へぇ~~」


 そうなんだ……さっきまで、村の人はその人のことを悪い人みたいに言ってたけど──。何かあったのかな?


「ちょっと、おかしいからって村中から避けられるようになっちゃったの。それで、連れてかれちゃったの。悪い子が、お仕置きされるようなところに」


「お仕置き? 暴力とか?」


「殴られたり、けられたり発狂小屋っていうんだけど──そこに閉じ込められたり、ひどい扱いを受けたりしているの」

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