第72話 発狂小屋


 朝。


 起きるとミトラが抱き着いていた。下着姿で。真夏なのに、暑苦しい。また胸に顔を埋めてる……。

 こつんとげんこつをして、ミトラが起きる。


「痛いですわ~~凛音の鬼! 妖怪!」


「うるさい! すでに妖怪だ!」


 朝、浅漬けと納豆と玄米の朝食を口にして一休憩した後、移動が始まった。


 向かっているのは、私とミトラ、貞明さんと栄吉さん。




 のどかで、人気の少ない村を歩いていく。


 田畑や、放し飼いの家畜たちを横目に北の道にしばらく歩を進める。道を進むごとに、家畜か、野生のシカやイノシシのものだろうか。大きな骨が畑に置いてあるのが見えた。


 あれも、発狂小屋にいる奴の仕業なのだろうか。


 そして、たどり着いた目的の場所。

 なにか、禍々しい気配のようなものを感じる。


「あそこじゃ」


 栄吉さんが指さした先。それは、古そうなボロ屋という名前がふさわしい小屋だった。

 全体的に古びた外見をしていて、窓に至っては所々割れている。


「ここ──人が住んでいる建物には見えないのう」


「そうですの」


「いるんじゃよ──それがのう。準備はできとるか?」


 栄吉さんが扉の前に向かう。私たちは、すぐに戦う準備をとった。

 栄吉さんは一般人。もしも妖怪が出たら、守らないと──。


 コンコンとノックをした後、扉を開ける。


 古びていて、がたが来ているのか開けずらい。


「やっぱりガタが来とる。がっ!」


 栄吉さんが、力づくで扉を開けた。


 中には、誰もいない。

 薄暗くて、藁とかすかな獣臭いにおい。思わずむせかえってしまった。


 家畜を飼っているような、藁敷きの床に木の柵。


 そして──木でできている壁には血しぶきの跡。


「おいゴミ、いるんだろ! 出てこい!」


 栄吉さんが階段の上に向かって怒鳴り散らす。誰か、上にいるのかな?

 しかし帰ってくる言葉はない。気配も、特に感じることはない。

 とりあえず、周囲に視線を置く。


 埃かぶっていて、古びた木の机。


 一枚の皿を発見。醤油が固まっていて、相当年月が経っているのか、腐り切った腐臭のようなにおいがする。

 これは、新しそう。


「とりあえず、上に行ってみますわ」


「うん」


 栄吉さんの跡をつけるように、蜘蛛の巣が張っている、埃まみれの階段を上る。

 キィィと軋むような音が聞こえて、かなり年季が入っているのがわかる。


 それからさっきの言葉。ミトラも不審に思ったのだろう、ひそひそ声て話しかけてくる。


「おいゴミとか、知ってる人っていう感じの言い方ですわね」


「確かに」


 あれは、正体がわからない妖怪がいることを前提とした言葉ではない。自分が知っている人──それも暴力の対象としている人間に対して使う言葉だ。


 この人は、ここにいる妖怪──について何か知っているのかな?


 貞明さんも、こっちに来て耳打ちしてくる。


「気づいたみたいだね。賢い」


「まあ、違和感はあります」


「こういう仕事なんだけどさ、依頼主側も何か隠してたりするじゃけん。ゆうて、まだ何かわかったわけじゃないけん。よく、彼らと触れ合って、知ることも必要けん」


「……わかりました」


 小さい声で言葉を返して、コクリと頷く。何か、隠している……よく見る。ちょっと、参考になった。


 上は──下のような古びた、埃かぶっている部屋。下には藁が敷かれていて、家畜を飼っていた跡のような場所。

 人や妖怪がいるような気配はないし、探しても誰もいなさそうだ。


 というか、人間が住むような場所ではないというのはわかる。


「とりあえず、別の場所を当たった方がええじゃけ」


「そうだのう。どこかに、行ったのかもしれん」


「鎖でつ──いやなんでいないのかのう」


 なにか言いかけて、栄吉さんは階段を下ろうとする。手掛かりはない、山の中でも探すのかな?


 そんなことを考えていたその時、村の方から大きな叫び声が聞こえた。


「ぎゃあああああああああああああああああああああ」


「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


「な、なんじゃ???」


「わからん。じゃが、何か危険なことが起こっとるのはわかる。戻った方がええ」


 ミトラの方を向いて、互いにコクリと頷く。ピリッとした空気がこの場に流れ始めた。


「行きますわ」


「そうだね」


 何事なのだろうか──村の人達、無事だといいけれど──。すぐに、階段を下って建物を出る。


 私達は、小走りで村の方へと戻っていった。

 村へ走っていくと、異様な光景が目の前に走る。


「え、あえ──こ、これ」


 道の端には、数えきれないくらいのろうそくが永遠と敷かれていたのだ。


「神秘的なような──不気味なような」


「たまにあるんじゃけん。妖怪たちが現れるとき──。妖怪たちは彼らの世界から来とるんじゃが、そこからくるときに周囲を彼らの世界染め上げちょうことがあるんじゃ」


 貞明さんの言葉に、気が引き締まる。

 また、戦いが始まるんだ──。


「つまりこれは妖怪の世界の光景ってことですの?」


「そうだ。俺たちの世界とは似てるが、違う所もある」


 おまけに道もさっきまでは舗装されていたはずなのに、砂利の未舗装の道に変わっている。なんというか、気味が悪い。変な、気配のようなものがする。


「不気味ですわ」


「とにかく、妖怪がいるってことだ。集落へ急ごう」


「は、はひ」


 また噛んでしまった。とはいえ遊んでる時間はない。私たちは早歩きのペースで、集落へと向かって行った。





☆   ☆   ☆


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