第70話 夜、事情


 調子に乗ったミトラをチョップした後、それからも道を歩いていく。かつて郵便局があった場所。棚田が見える丘。

 最初は何もない場所だと思ったけど、いい風景で見るべき場所がが多いイなって思った。

 年配の人と時折すれ違う。


「こんにちわですの」


「おばあちゃん、こんにちは!」


「こんにちは~~」


 ここに来た時とは違い、しっかりと返事をしてくれた。理香ちゃんの、おかげなのだろうか。


 田舎特有の、麦わらや植物の香り。

 色々と歩いた後、もう一度最初に言った家に戻る。


 おばあちゃんが持ってきてくれた草餅やお茶を飲みながら、貞明さんや栄吉さんの話を聞く。


 森の中にはクマがいて、猟銃で戦ったとか。栄吉さんが子供の時、猪を銃殺してみんなで食べたとか。


 笑いながら話す栄吉さん。さすが、秘境地帯と感じる。


 あとはこの村のこととか、貞明さんと3人になってからは、仕事について、色々なことを聞いてしまった。


「いろいろ、大変なんですね」


 高千穂では、何十メートルという妖怪を相手に大激戦を繰り広げていたらしい。


「本当に秘境地帯だから大丈夫だったんだけどね、大変だったよ。周囲にばれたりしないかとかSNSとかチェックしてさ。ハハハ」


 軽く笑う貞明さん。正直、笑い事じゃないと思うんだけれど……。

 そして、私の話題に触れる。貞明さんから見ても、私を受け入れてくれる人、受け入れてくれなさそうな人。色々いるようだ。


「まあ、凛音ちゃんが受け入れられるかは、2人の活躍次第だね」


「わかりました」


 そういうことか……。


 その言葉で、再び気持ちが入ってきた。

 今回の任務、どうなるかわまだわからないけれど、絶対に成功させたい。


 ……頑張ろう。自然と、拳が強くなる。


「まあ、うちは我が強い人ばかりだわい──俺が言ったところで話を聞かず凛音ちゃんを敵だと思い込んむ奴はぎょうさんいるわ」


「ですよね……」


 この前の、大赤見との戦いの直後を思い出す。私はおろか、山名さんの言葉さえいやいやという感じで仕方がなしという感じだった。


 不安だ……。


「結果で見せつけるしかないわいな。凛音ちゃんなわ出来るわ。信じとる」


「あ、ありがとうございます」


 その言葉に、ちょっとだけ勇気が湧いて、気持ちが軽くなった。そうだ、私は──やるしかないんだ。


 拳を強く握って、心に刻む。


 頑張ろう──。


 色々話しているうちに、すっかり夕方になっていた。


 オレンジ色の夕焼けが、田んぼの水を照らす。


 セミの鳴き声があたりから聞こえてきて、涼しい風がほほに触れる。

 ノスタルジーな雰囲気が、とても新鮮な感覚だ。ミトラも、楽しそうに景色を見たり田畑を歩いたりしている。


 夜になってきた。

 日が暮れかけたあたりで、おばあさんが私たちを呼んで、食事の時間となった。


 たくあんに浅漬け──それにいろいろな食べ物が入った煮物。


 大豆に──お肉が入っている。



 この肉、何だろう。どんな字をしているのかな?キョトンと、煮物に視線を集中させているとおばあさんが話しかけてきた。


「猪と鹿の肉よ。村の伝統料理なの。食べてみ?」


「は、はい……」


 他にも、見たことない料理が多数。


「いただきます」


 みんなで手を合わせた後、まずは猪の肉を食べる。


「あっさりして、美味しいです」


「しかも、美味しいですの」


 ミトラも、笑顔でパクパクと雑穀米と一緒に食べていた。


 郷土料理というやつだ。

 見た目も、においも独特。ゼンマイとかはわかるけど、山菜っぽい野菜があってどんな味かなと考え込んでしまう。しかし、作ってくれた手前、食べないわけにはいかない。

 恐る恐る、口にしてみる。


 ちょっとぼそぼそとしているけど、味は美味しい。


 そして、おじいさんは浅漬けたくあんをぼりぼりと食べて、酌から日本酒をのんでから離し始める。

 味噌汁、浅漬け、煮物、漬物。


 どれも、伝統料理という感じで見たことない食材ばかりだけど、味は悪くない。

 料理上手なんだな、おばあさん。


 貞明さんは、主人の人や 一緒に日本酒を堪能している。

 顔がほんのりと赤くなっていて、出来上がってきたなってわかった。



「じゃあ嬢ちゃん、兄ちゃん。本題に入ろうか」


 いよいよ話が始まる。雰囲気もさっきまでと比べて重いものになる。



「ここからな──北に言った道。そう、発狂小屋のことじゃ──そこは以前まで家畜用の小屋として使っていた小屋があるんじゃが──」


 おじいさんが、ムッと表情を変えて視線をおばあさんへと視線を向ける。


 おばあさんは、オホンと咳をして視線をきょろきょろとしてから話を始めた。


「そこから、夜たまに奇声が聞こえてのう。何があったのかと恐る恐る行ってみると信じられない残虐な光景があったんじゃ」


 話によると、周囲で飼っている家畜が惨殺されて、それも殺され方がかなり見せつけるような、残虐な姿になっているとのことだ。


「発狂小屋を取り囲むように、家畜たちの首がずらりと並んでおった」


「何それ、気味が悪いですの」


「家畜は生活のために必要、じゃが家畜の首を見せつけるような奴に正論を突き付けようなものなら何が待っているかは火を見るよりも明らか」


「そんで、俺たちを頼んだっちゅうことか」

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