第68話 秘密の場所
緑豊かな、田畑が広がる村。村の様子を、観察する。
山に囲まれているせいか、ちょっと霧がかかっている。視界が良くない。
コンクリートも、あまり整備されていないのかひびが入っていてそこから雑草が漏れている。
道を進んでいくと、古びた神社、維持しきれなくなったのか、遊具が撤去された公園。
以前は、もっと人がいてにぎやかだったのだろうか。
過疎化が進んでいるのが、私の目にもわかる。どこか、寂しい雰囲気をしている。
そして、道は未舗装の砂利道になる。家が並んでいた集落から、田園地帯へ。
「この先──」
理香ちゃん──走り続けても全然疲れていない。元気いっぱいで、無邪気にはしゃいでいる。
ぴょんぴょんしたり、きょろきょろしたり。
そして、道は山の中に入っていく。
道は、雑草が生えた獣道に変わっていった。急な坂が連続して、山にどんどん登っていくのがわかる。
流石に、前に進む理香ちゃんが心配になってきた。ミトラが前に向かって叫ぶ。
「危ないですの──」
「お姉ちゃんがいれば、大丈夫。強いんでしょ?」
自信満々に言葉を返す理香ちゃん。まあ、こんな山の中だし変な人も来ないだろうけど……動物とかいそうだし。
変なことにならないように、ちゃんと見張ろう。
理香ちゃんは、さらに山を登る。
時折、傾斜がきつくなって、手で岩を攀じ乗ったりすることも。
「山に登るとね、いい景色が見えるよ。私、お気に入りの場所があるの」
「楽しみですの──」
ミトラもうきうきだ。暑いけど、それを感じさせないくらい他の層に歩いている。
獣道のような、山道をしばらく登ると、山のふもとに、動く物体を発見。
「あれ、鹿ですの!」
「本当だ」
鹿に出くわした。本当に人里離れた場所だなぁ、ここ。
鹿は、私たちとしばらく目を合わせた後、くるりと方向を変えて、森の中へと消えていった。
ずっと登って、さすがに疲れた。夏、暑いのも相まって、汗びしょびしょ。
時々岩肌が露出する急な斜面があって、手掴みで山を登ったくらいだ。最後、この崖を上ると頂上だなと思ったその時──。
「わぁっっ!」
前を上っていた理香ちゃんが、手を滑らせて尻もちをつきそうになった。危ないと思い、とっさに理香ちゃんの方に向かってジャンプする。
身を投げて、何とか落ちてきた理香ちゃんを抱きかかえた。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。お姉ちゃん、ありがとう!」
理香ちゃんが、こっちを向いてにこっと笑う。全く、元気なんだけど危ないんだから。
優しく髪の毛を撫でて、理香ちゃんは再び立ち上がった。
安全のため、理香ちゃんの後ろを歩いて、山を登る。
そして、最後の崖を登って山の頂上にたどり着いた。
「ここ! どう?」
そこから見える景色に、思わずはっとする。
「いい眺めだね」
「すごいですの──」
どこまでも続く山々。霧。下には田んぼや畑。そして木造の家が立ち並んでいる。
緑一杯のなんていうか、日本人が想像している「ふるさと」を体現したような感じだ。
絶景だな──。
「いいでしょ、私の自慢」
こっちを向いて、にかっと笑って理香ちゃんが言う。
本当にいい場所だし、理香ちゃんも気に入っているのがわかる。
「ここ、一人で見つけたんですの?」
「違うよ。別のお兄ちゃんに教えてもらったの~~」
理香ちゃんが、両手を後ろにおいてご機嫌そうに言う。
「兄弟がいましたの?」
「違うよ~~。近所の人。よく遊んでくれた、優しいお兄ちゃんなんだよ」
近所の人ってことか。こういう農村だと、村中顔見知りだったり、よくフレンドリーに遊んだりしているって聞く。
理香ちゃんも、そんな感じなのだろうか──。
それからも、絶景を見ながらしばらくお話をしたりした。
この村でのお話とか、独特な習慣とか──。変わった習慣があることとか。
「村中、みんなお友達! 顔見知り!」
「いいですのね。羨ましいですの」
「だから、近所の兄ちゃんともこういう所にいったりするんだ」
「ああ、お兄ちゃんは──ああ、なんでもないや」
理香ちゃんが、なにかを思い出したように口をつぐむ。一瞬、複雑そうな表情になるのを見逃さなかった。
まあ、気にしてもしょうがないか。理香ちゃんにも、なにかるのだろう。それ以上詮索はしなかった。
それから、理香ちゃんは水筒の水、私たちはペットボトルのお茶を飲んだ後、山を下る。
暑くて、体を動かしたからのどが渇いた。
ゆっくりと安全に下った後、再び集落へ。
無人の、野菜の販売所なんかもあった。治安が、いいのがわかる。
泥棒みたいなのは、いないんだろうな──。
そして、山を下って平地に着いた時、ミトラがこっちを向いてきた。
じ~~~~。
ジト目で、どこか不満を持っているかの表情。何なんだろう。
「何?」
「さっき──」
そう言ってミトラが私を指さす。顔をぷくっと膨らませて、話を続けてきた。
「さっき?」
「理香ちゃんを抱きしめてきたですの。ずるいですの!」
「しょうがないじゃん、転びそうだったんだから」
山を登っていた時のことか──よろけて、こっちに来たのを抱きかかえた。
それが、問題でもあったのか?
ミトラは、まっすぐに両手をこっちに伸ばしてきて、また顔を膨らませた。
「私も、抱きしめてほしいですの!」
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