第66話 県北の集落

「眺め、最高ですの~~」


 まるで、子供みたいだ。

 津山についてから、ホルモン焼きそばを食べて、バスに乗る。


 人気のない山道を一時間ほど進むと、その場所にたどり着いた。


 錆びついたバス停の前に止まり、運賃箱に整理券とお金を入れて、バスから出る。

 周囲を見渡す。


 田舎特有の自然におい。

 人気の少ない、のどか村。あたりを山々に囲まれ、川沿いに連なる平地に田畑と数十件の家屋。


 曇っている天気と合わさって、何というかどんよりとした雰囲気だ。

 重い空気の中、貞明さんがスマホで地図を開く。


「集合場所は──北。とりあえず、依頼主の自治会の会長のところに行くわい」


「わかりました」


 そして、私たちは集落の中を歩く。

 山の中にある、ひびの入ったコンクリートの道。


 ヒビからは雑草が生えていて、整備が行き届いていないというのがわかる。

 昭和を思わせる木造の家屋が連なる集落。時折村人らしき人と顔を合わせたので、挨拶。


「こんにちは」


「こんにちわですわー!」


 ミトラの元気いっぱいの返事にも、村の人達は言葉を返すこともなくコクリと頷くだけ。


 村人からすると、私達はよそ者という感じなのだろうか。


「お姉ちゃん。こんにちは」


 後ろから誰かが話しかけてくる。

 振り向くと、そこにいたのはピンクのリボンを付けた、小さい女の子。

 無垢な笑顔をしながら、ぺこりと頭を下げる。


「かわいい女の子ですわ~~」


 ミトラは瞳をキラキラとさせながら言葉を返す。私も、作り笑顔をして、手を振って言葉を返した。


「こんにちは。か、かわいいね」


 女の子が、にこっとした笑顔をこっちに向ける。確かにかわいい。でも、どう話しかけようか……。

 そんなことを考えていると、物陰から誰かが現れた。


 女の子の、お母さんっぽい人。


「こら! 理香──やめなさい」


「えー何で? お姉ちゃん。悪い人じゃないよ」


「いいから! あんたは、警戒することを覚えなさい!」


 あせあせとおぶって理香……ちゃんを持ち上げる。


 にらむような、警戒しているかのような視線。

「よそ者がこの場所に来るな──」とでも言わんばかりの警戒するような目つき。


 そんなふうににらみつけると、すぐにこの場から去ってしまった。


 なんというか、腫れ物に触れているような感じだ。


 田舎特有の村社会というか、陰湿というか、そんな雰囲気を醸し出している。

 大丈夫なのかな……うまく溶け込めるか、不安になる。


 そして、集落をしばらく歩いた後、神社の隣に大きな屋敷にたどり着いて、家の前で貞明さんが立ち止まった。


 スマホで地図を確認。


「ここだね、呼び鈴押すよ」


 ピンポーンの呼び鈴を押すと、インターホンからおばさんの声がした。


「どちら様たい?」


「約束した、妖怪省のもんじゃ」


 おばさんは、ぶっきっらぼうな口調でボソッと答えた。


「おう、入んな──」


 貞明さんがこっちを振り向く。


「じゃあ、いくわい」


 そして、私たちは屋敷へと入っていく。

 木造の、地方の方かなんかでよく見かけそうな大きな家。



 古びた、木で出来た廊下を歩いた後大広間に案内される。

 田舎らしい、窓からは田畑や里山が一望出来て鍵は空いたままの風景。


 チリンチリンと風鈴の音。

 それから、先祖の人らしい人の位牌と上に飾られている白黒の何人かの肖像。


 子供のころ、東北の親戚の家に言った時に見た光景に似ている。

 地方特有の光景なのかな。


 そんなことを考えていると、障子のドアが開く。


「おうおう、来てくれてありがとうな」


 畳が敷かれている広い部屋に案内される。

 真ん中には、20人くらい取り囲めそうなくらいの、木製の机。


 そこに2人で座ると、白髪交じりの腰が曲がったおばあさんがお茶を煎れてやってきた。

 コトッと机にお茶と饅頭を置くと、気さくに話しかけてくる。


「こんな辺鄙な集落に、よく来てくれたね」


「いえいえ。一大事だそうですので」


「そうだわい。気にせんでええ。何せ、妖怪が暴れまわってることでのう」


 それから、さらに人が2人ほどやってきた。どちらも、髪の薄いおじいさん。

 1人は私と同じくらいの背で髪のない人。もう1人は貞明さんと同じくらい、180cmくらい、がっちりした体格だ。


「おお、妖怪省の人達か。よく来てくれた。とりあえず、饅頭でも食いながら話を聞いとくれ」


 そして、手のひらサイズのお饅頭を一口食べると、話が始まる。


「お饅頭美味しいですの~~」


「こら、ちゃんと話をきけ」


 夢中で饅頭をぱくついているミトラの頭を、軽く叩く。


「痛いですの~~」


 軽く叩いただけなのに、ミトラは大げさに頭を押さえて涙目になる。

 全く。いつも無邪気な奴め。


 そして、がっちりしたおじいさんが座って頭を下げる。


「まずはこんな辺鄙な土地に来ていただいて本当にありがとや。わしは栄吉というたい。よろしゅうな」


「いえいえ、俺は伊勢貞明。この女の子が、見習いとして同行してきた──」


「ミトラですわ──」


「です……愛咲凛音です」


 ミトラと一緒のタイミングで頭を下げた。


 そして、話は本題に入る。

 オホンと、栄吉さんが席をして、この場が静まり返ると話が始まった。


 まず、この人達は何十年もこの地に住んでいて、農業や狩猟をしながら生きていたらしい。


「その中でわが集落に伝わる伝統の、呪いがあるたい」


 その言葉に、ごくりと息を飲む。


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