第65話 今度は、岡山へ
夏休みに入って、最初の金曜日。
金曜日の昼過ぎから、数日分の着替えや貴重品、水をカバンに入れて出発。
エアコンの効いた部屋から外を出ると、夜とはいえやっぱり暑い。
額の汗を拭っていると、聞きなれた声が耳に入った。
それから、ミトラと藤沢駅で合流(相変わらずかわいらしい服)。
つばの大きい白い帽子に、太ももが半分くらい露出したタンクトップ、上は黄色の服に白いシャツを重ね着していた。
対する私、安いスーパーで買った白いTシャツに、水色の短パン。本当に、私のセンスのなさを露呈してしまっている。
また、にっこりとした笑顔で私の隣にくっついてきた。
柔らかい二の腕が当たっていて、ドキドキしてしまう。ぷにぷにしてる……。
「凛音~~。行きますの~~」
「はいはい。行こうか」
「そうですわね」
その後、横浜に移動してから、バスターミナルへ。
その後、横浜に移動してから、バスターミナルへ。
今回は、岡山への遠征だ。かなり遠い、それも県北の人がいない地域らしい。
ミトラから渡された切符を受け取り、大きくため息を吐く。まあ、夜集合という時点でわかっていたが……。また……あの乗り物に乗るのか。寝れないし、疲れるし……。
予算がないのは仕方がないけど、やっぱり気が滅入る。
横浜のバスターミナルから、深夜バス(一番安い四列の奴)に乗る。
青春桃太郎号だっけ。
そして私達は深夜バスの車内へ。広くないが、人気はあまりないのが幸いだった。
予約されていた一番後ろの席へ。
「窓側、いいの?」
「いいですわ。私、そう言うの気にしませんから」
まあ、あまり寝られないというのは博多行くときによくわかってた。それなら、せめて景色が見える外側の方がいいだろう。
夏休みの金曜日だけあって、7割くらいの乗車率。人見知りの私にとっては、ちょっと落ち着かない。
岡山についたら、貞明さんと会うし、少しでも寝られたらいいな。
ほどなくしてバスは出発。ブォォォォンというエンジン音とともに、バスの自動放送が流れる。
窓から見える横浜のネオンが、華やかできれいに見える。
キラキラとした華やかさ。地味で陰キャな私とは、対照的だ。
バスは料金所を通り、高速へ。日付も変わるころだし、そろそろ寝よう。
私は目をつぶり、座席に体重を預ける。
明日もあることだし、早く寝よう。そう考えたのだが──。
時折、ミトラの髪が私の鼻に触れる。
柑橘系の、甘酸っぱい匂いが私の鼻腔をくすぐり、思わずドキッとしてしまう。
本能が、ミトラのことを意識させてしまうのだ。
一度、ちらっと眼を開けてミトラの方を見る。
すうすうと寝息を立てて眠っている。おまけに、私の右手に抱き着き感じでぎゅっと密着してきたのだ。
ミトラの身体、とっても柔らかいな……。それに髪が鼻にかかってきて鼻腔を刺激してくる。
甘くて、とってもいいにおい。思わず、ドキッとしてミトラを見つめてしまう。私もミトラに抱き着きたいって、
お前──私をどこまで欲情させる気だ。
取りあえず、明日は貞明さんと会うんだし、早く寝よう。
私は深呼吸をして心を落ち着けさせ、目をつぶった。
朝──。
予定より十分ほど遅れて岡山駅に到着。
目を半開きにして、大きくあくびをしながらバスの下から自分の荷物を取る。
結論。全然寝れなかった。
バスの音がうるさいのと横になれないのはもちろん、がたがた揺れて全然落ち着かない。
数分ごとに起こされる。目を開けども開けども全く先に進まないのだ。
(ちなみに、ミトラはこれを浦島太郎を逆にしたような感じの逆浦島現象と言っていた)
おまけに、ミトラが時折抱き着いたり寝言を言ってきたりして誘惑してくる。
ドキドキで、心臓が爆発しそうだった。
全く、いつもいいシャンプーばかり使いやがって。
眠気がひどくて、うとうとする。
隣を見ると、ミトラも同じだったらしく目にうっすらと隈ができていて、目の焦点が合っていない。
「ミトラ、大丈夫?」
「ふぁ~~あ……なんふぉか、生きてますわ」
大きくあくびをして、手を抑えながら言葉を返して来た。
やっぱり、眠れなかったみたいだ。
名古屋あたりで、虚ろな目で寝ぼけていたのか金魚みたいに口をパクパクさせていて、よだれを垂らしていたのを覚えている。
子供みたいで、そういう一面もあるんだなって感じた。
それから、ミトラが電話して集合場所を聞く。
岡山駅前の新幹線改札口で、貞明さんと集合。
「おお凛音ちゃん。元気やっとるかい?」
「お、おはようございます。まあ、何とか」
「昨日まで、仕事でしたの?」
「宮崎まで? 大変ですのね」
「まあ、色々と大変だったよ。最近、強い妖怪が多くのう、出番がひっきりなしで」
そうなんだ。何か、理由でもあるのかな。
考えても始まらない。そのうち、そう言った事情も分かるようになってくるのだろうか。
その後、朝食をごちそうになった。
朝、ドトールでサンドイッチとコーヒーをごちそうになった後、急行「つやま」号で津山へ。
たらこ色の、年季の入ったディーゼルカーに揺られながら津山へむかう。
ミトラはコンビニで買ったご当地牛乳の黒バラコーヒーを飲みながら、車窓から見える渓谷や川。田園地帯を興味津々そうに眺めていた。
「眺め、最高ですの~~」
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