第64話 私、変わった?

 こいつ──妖力を使ったな。

 まあ、だからこそ男相手に強気になれるのだろうが……。


 ミトラは手をパンパンと叩いて、男たちをにらみつける。


「さあ、かかってこいですの!」


 男たちはビビっているのか互いに視線をきょろきょろと見合わせる。そして、にらみつけてくるギャル。


「クソ野郎!」


「クソ野郎はそっちですの! 罪もない人を──」


「うるっせぇ……」


 さっきミトラが投げ飛ばした男が立ち上がる。


 その時──。



「おい、なにやってるんだ貴様ら!」


「やべっ! 先生だ」


 眼鏡をかけた、中年のスーツを着た男

 担任の先生だ。

 彼の姿を見るなり、男たちは尻尾を巻いてこの場を去っていった。


 ふう──何とか助かった。

 身の危険を感じていたせいか、安心感から思わず座り込む。


「ねぇ、一般人に妖力使って大丈夫なの?」


「バレないようにうまく使ってますの。それくらいは心得ていますわ。それに、凛音──ピンチそうでしたし」


「うっ……」


 確かに、一触即発だった。ミトラがいなければ、彼らは凍っていたかもしれない。


 そして、先生がやってきて私が説明を始めた。


「そっそっその……暴力を、受けていて……彼が」


「愛咲の言葉じゃよくわからん……」


 何で、私が注意されなきゃいけないんだ。

 かなりイラっとした。


 どう言い返せばいいか、迷っていたその時──。


 ミトラが、割って入ってきた。


「待ってくださいの。私が説明しますわ」


 ミトラが、先生に状況を説明し始める。ミトラは、私や泰一君の状況や言葉からすらすらと起こったことを話した。


「わ、わかった。恋川が言うなら信じる」


 先生が納得いかなそうにコクリと頷く。


「わかった。だが、泰一も愛咲も、いつも一人だからこうなるんだ。もっと、人とのかかわりを持ちなさい。わかったな」


 そう言って、先生はこの場を去っていった。なんで、暴力を受けた方がこんないわれをしなきゃいけないんだ。


 そんな、納得いかない気持ちを無理やり噛みしめて、一端前を向く。

 そこには、ボロボロになった泰一君の姿。


「そ、そ、その──大丈夫?」


 そう言って、座り込んでいる泰一君の顔に近づいて、傷があったおでこを優しくなでる。


「大丈夫だよ。凛音ちゃん……」


 泰一君は、顔を赤くしてこっちを見てくる。みずほらしくて、何かを訴えているかのような目つき。


「よかった」


 そして泰一君は立ち上がろうとするが、ボロボロになったせいか立ち上がることが出来ずよろけてしまう。


「あっ、大丈夫?」


 慌てて泰一君の隣に寄りかかって、肩を貸す。


 肩を貸して、泰一君は立ち上がった。


 ちょっとよろけちゃったけど、何とか立て直す。しばらく歩いて、泰一くんが話しかけてきた。


「あの、もう歩けるから大丈夫」


「ほんとに?」


「ほんとだよ」


 そう言って、泰一君は私の手を離れて向かい合う。


「凛音ちゃん──だよね。さっきは、本当にありがとう」


「大丈夫だよ。ちょっと怖かったけど」



 そして、泰一君はこの場を去っていった。

 何とか、この場を収まった。


 大きく息を吐いて、がっくりと肩を落とす。


 そして、ミトラに視線を移すと、ニヤリと私を見つめているのがわかる。

 かわいい笑顔で、こっちもドキッとしてしまう。


「何?」


「偉いですの! 泰一君を、助けようとして」


「まあ……ボロボロだったから、つい」


 しょんぼりとして、さっきまでのいきさつを思い出す。

 気がついたら、守ろうとしたって感じになってた。


 ピンチになっても、逃げようなんて思わなかった。


 それは──今までずっと戦っていて、逃げ出すことがどんなに後味が悪くて、後悔するかを知っているからだ。


「逃げたくなかった。俺だけ」


 目をそらして言葉を返すと、ミトラは、にこっと笑顔を作って私を見つめる。


「凛音、昔と比べて、とても変わりましたの」


「えっ?」


 その言葉に、キョトンとしているとミトラは隣に移動してきて肩をくっつけてきた。

 滑らかで、すべすべした肌。


「少し前の凛音は、他人には無関心で──興味がなかったのがわかります」


「うっ──」


 その言葉に、反論するすべがない。


 みんなからよく言われたのだ。


「他人に興味がない」


「もっと、関心を持て」


 何とか克服しようとしたときもあった。


 空回りして、周囲から浮いたり──何度も恥をかいたり。

 自分が嫌いになって、イヤな思いばかりして全く続かなかったのだけれど。


 ミトラと2人っきり。人気がない、ひっそりとした住宅街を歩く。


 私の目の前に歩を進めて、話しかけた。



「次の妖怪退治、決まりましたの」


「そうなんだ」


 今の言葉に、思わず気が引き締まる。理由は、簡単だ。


「また、妖怪省の人と一緒に仕事するんだよね」


「ですわ」


 私は、半妖である身。自分が人を食らう妖怪でないことを証明しなければならない。

 あの大赤見との戦いの後、決まったのだ。幹部一人一人と一緒に戦って、戦いながら判断してもらうということに。


「そうだ、妖怪省の人といっしょ……本当に心配だ」


 以前、富子さんと一緒に妖怪と戦った(正確には見てもらった)のだが、あの人は私をよく理解してくれた。


 でも、他の人が同じ答えを出すとは限らない。考えるだけで、胃が痛くなってくる。


「まあ、今回は私も一緒なので任せてくださいですの。お相手も、貞明さんですし」


 貞明さん……ああ、あの人か──。

 あの、方言なまりがあって、いい人そうな人。


 悪い人ではないのはわかってはいるが、やはり緊張してしまう。


 気が思いやられる……。



 大丈夫かなという、不安は常に付きまとう。


 それでも、やるしかない。

 精一杯頑張って、結果を出そう。


 拳を強く握って、そう決意した。


 ☆   ☆   ☆


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