第63話 放って、おけなくて



 明日から、夏休み。


 暑い日々、ただ外にいるだけで汗が噴き出る。おでこを手で拭う。

 帰って、エアコンがある部屋で寝っ転がりたい……。


 また、ミトラと一緒に戦いが始まる。ああ……でも、補修だってしなきゃ。

 色々と、忙しい日々が始まる。


 ちなみにミトラは、日直で作業をしているので遅れるとのことだ。


 補習もあり、忙しい私は今日だけ帰ることとなった。ミトラは残念そうだったが、別にまた明日会うんだからいいだろ。


 そんなことを考えながら下校して家に帰ろうする。



 ちょっと急ぐために、別の道を使おう。

 このルートが、家への最短距離。


 人気が少なくて、変な奴がうろついてるって噂があるけど急いでいるから仕方がない。

 まあ……夜暗い時間ならともかく、白昼堂々変なことをする奴はいないよな……。


 そんなことを考えながら校舎の角を曲がって、人気のない校舎の裏側へ。

 気が生い茂っている、日が差さない薄暗い道。


 ざわざわと雑音が聞こえた後、異変に気付く。なんか騒がしい音がするな。何があったのかと考えながら、学校の裏側を歩く。

 大きな道からそれた、薄暗くて人気も人通りも少ない道。


 そして、物音はだんだんと大きくなり衝撃的な光景を目の当たりにした。


 木の物陰から、様子を見る。


「この野郎、泰一のくせに生意気なことしてんじゃねぇよ」


 なんと、数人がかりで一人の男の人に暴力をふるっていたのだ。

 暴力を振っているのは、髪を金髪に染めたり、ツンツン頭にしていたりしている不良グループの人たち。学校でも、問題ばかり起こしている。


 殴られている男の人はYシャツを着ていて、殴られ蹴られながらまるでサンドバッグのようにうずくまっている。


 さらに、それを金髪のギャルの女の子が見ている。あいつも、うちの高校じゃ問題ばかり起こしているんだっけ。


 かわいくて、常に男がよりついていると評判。まあ、ガラの悪いやつばかりだけど。


「このゴミ、チーズ牛丼食ってそうな性格してるくせに、私の太もも見てんじゃねーよ」


 泰一君だ。いつも、私と一緒で友達がいないのか一人で外の景色を満たししている人。

「太ももとか、ブラが透けてるときにブラとかチラチラ見てきたりしてきただろ!」


「そんなことしてないよ」


「うるっせぇ、してただろ!」


 見てられない、ボコボコにされて──助けないわけにはいかなかった。


「おい! やめろよ」


 勇気を出して叫んだ。身体が震えている。そう言えば、高校じゃあ半妖になるわけにはいかないじゃん!


 男たちが、ギロッとにらんでこっちに視線を向いた。

 明らかに、私を敵視しているのがわかる。


 どうする? 一瞬カッとなって凍らせてやろうかと考えたが、そんなことをしてクラスの中で目立つわけにはいかない。


 しまった……こんなところで半妖になるわけになんかいかないのに、戦っていた時と同じ感覚で突っかかっちゃった。そんなことを考えている間にも、男たちは私をじっと見てくる。


「おうおう──誰だっけこいつ」


「ああ、確か凛音ちゃんだった。いつも友達いなくてクラスでぼっちの」


「ああ、大きいおっぱいの。こうして見るとすげえな。鷲掴みできるだろ」


 余計なお世話だ。そして男たちと、ギャルがこっちに寄ってくる。

 男たちよりも、明らかに私のことを敵視ているのがわかる。


 凄い形相で、にらみつけていた。


「生意気なんだよこいつ。すげえスタイルしやがって」


「知るか、泰一君への暴力をやめろ!」


「何よ、根暗でロクに友達もいないくせに、この私にたてつくっていうの?」


「うるさい!」


「知ってるもん、体育の着替えの時──下着姿で見たけどもうすごかった。チー牛のくせにこいつ私より大きいおっぱいして! 生意気なのよ」


「思った。多分、体のサイズ考えると学年で一番おっぱい大きんじゃねーの?」


 その言葉に、背筋が凍って胸を押さえる。

 どいつもこいつも……体操着とか胸のラインがでる服だと、男の人はほとんど私の胸に視線を向けてくる。


 大体はそのあと私と目が合うと、罪悪感を感じたかのようにキョドキョドとして視線を逸らす。男の本能というやつなのだろうか。


「おい、俺たちにたてつくってことは覚悟はできているんだろうな?」


「そうだぜ? いいねえ、この子を好きなようにするなんて。俄然やる気がわいてきたぜ」



 一歩後ずさって、どうしてもビビってしまう。でも、ダメだ──立ち向かって行かなきゃ。

 もう──私は絶対に逃げない。殴り掛かってくる男。覚悟を決めたその時──。


「させませんわ!」


 私の前に、青い髪。忘れるわけがない。ミトラだ。


 ミトラは殴り掛かってくる男のこぶしを掴む。そのままその力を利用して、くるりとまるで柔道の一本背負いのように投げ飛ばす。


 投げ飛ばして、ドスンという音と共に男は地面に落下。


「この野郎!」


 背後から、もう一人の金髪の男が襲い掛かる。ミトラは襲ってくる金髪に合わせるように身をかがむ。そして制服を掴んでそのまま前に投げ飛ばした。


 2人を投げ飛ばす瞬間、ミトラの身体がほんのりと光った。

 こいつ──妖力を使ったな。

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