第59話 夜、戦いの後
「凛音──ありがとうございますの」
優しい笑みを浮かべて私を見る。
「こっちこそ。信じてくれたんだね」
「当然ですわ。凛音なら、絶対たたかっているってわかってましたの」
そう言って、にこっと微笑んでくる。
ミトラにそう笑ってもらえると、心臓が爆発しそうになって、あがってしまう。
その笑顔が心に焼き付いて離れない。今までにない感情、不思議だ。
そして一息ついて夜空を見上げると、一つの光景に目を奪われる。
「あれ、何──」
私が岩山の上を指さす。そこには、二人の人物がいた。
一人は──私とそっくりの女の人。私を、ちょっと釣り目にしたような感じ。
私と同じくらいの身長に黒髪のセミロング。それだけじゃない。
妖服だ。私と違い、白と黒を基調としている振袖のような物で、太極図のマークがいたるところについている。
後ろは私と同じとようにマントのような物があり、風でなびいていることもあり方や腕が露出していた。
もう一人は、かなり異様。
大人っぽい顔つき。黒髪でロングヘアの女の人なのだろうが、まず背が異様に高い。
私そっくりの女の倍以上ある。二メートル半は越えているだろう。
痩せ気味の体系。白くてつばが広い帽子をかぶっていて、白いワンピースを着ている。
明らかに人間じゃない。確実に妖怪だ。二人とも、表情を変えずにじっとこっちを見ている。
もう私に戦うだけの力は残っていない。どうしようかと必死に頭を回転させる。すると──。
「……祇園」
ミトラが大きく目を見開き呟く。祇園って、ミトラが追っている人の名前。あれが、祇園?
「祇園──。私、ミトラ。あなたのこと、追っていました」
ミトラは手を伸ばして、訴えかけるようにして叫ぶ。祇園はミトラに視線を向け、一瞬だけ大きく目を見開く。
そして、視線を大きな白帽子の女に向けると……。
スッ──。
二人とも、そのまま岩陰の後ろに飛ぶようにしてこの場を去ってしまった。
「あっ……」
ミトラは伸ばしていた手を下ろし、表情を失ってしまう。しかし、祇園という人。本当に私とよく似ていた。
まるで双子のようだ。しかし、何しに来たのだろうか。そしてミトラ、伸ばしていた手を胸に当てる。どこか切ない表情。その瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。
ようやく見つけた、大切な人。けれど、何も出来なくて、無力感に打ちひしがれているのだろうか。
「なにも、出来ませんでしたわ……」
悲しそうな表情を見ていると、私まで胸が苦しくなる。何か、してあげたかったな……。
そんな感傷に浸っていたその時だった。
フラッ──。
私は目の前に景色が揺れるような感覚に襲われ、強烈な眠気が襲ってきた。視界がふらふらと動き始め、体に力が入らない。
強い眠気のせいで思考がおぼつかなくなり、目を開けていられない。
「凛音!」
ぼやけた視界の中で、ミトラがこっちに来るのがわかる。ミトラが私の首と背中の後ろを抱きかかえる。
強烈な眠気に抗うことができず、私の意識はそこで閉じた。
次に目を開けた瞬間、私は布団に入っていた。窓をみるとすでに日が差している。もう朝のようだ。そして、身体の感覚。強い違和感に気付く。
具体的に言うと首から下に人一人分くらいのずっしりとした重み。二の腕に誰かがつかんでいるような感覚。そして胸のあたりに何かが乗っかっている。
服越しではなく、直に──。
私は何とか昨日までの記憶と手繰り寄せる、
ミトラに腹を立ててそのまま押し倒し、自分の気持ちを叫んだ。
それから、その前の妖怪との戦い、そして の人とのもめ事もあって、疲れがどっと出た私はそのまま眠り込んで……。
じゃ、じゃあ布団の中にいるのは──。
衝撃の事実に気が付いてしまい、頭がパニックを起こしてしまう。何とか深呼吸をして落ち着き、恐る恐る布団の中をのぞいてみる。
まず私、下着姿になっている。そして、私の体を覆っていた重みの正体。
やっぱりミトラだ。ミトラが、私の二の腕をぎゅっと掴んで上から抱き着いている。
──が問題はそこではない。ミトラは、何も服を着ていないのだ。おかしい。昨夜、私と気持ちを伝えあった時、ミトラは下着はつけていた。
って視線を右に置くとミトラのピンク色の派手な下着が脱ぎ散らかっているのが見える。
こいつ、寝るときはいつも裸なのか?
最後。私の大きな胸にミトラの顔が埋まっている形になっている。
パフパフというやつだ。
下着が脱ぎ散らかっていたことからして、あの後一回起きた。そして掛布団なしでは寒いから私の体を動かして一緒に布団の中に入って、抱き合ったまま再び眠ったということなのか。
つまり私は、全裸姿の女と抱き合いながら一晩共に過ごしていたってこと?
友達もほとんどいない、私にとって、これは衝撃的な真実だった。衝撃的過ぎて、顔が真っ赤になっている。頭がパニックを起こしてしまいそう。
確かに、両親とうまくいかなかったとき、身の危険を感じて琴美の家に泊まった時はあった。寝るときも気弱な私は、思わず二人の胸に飛び込んだ時はあった。
けれどそれは怖くて、必死に数少ない友達にすがるしか私にはできなかったからだ。状況が違いすぎる。
当然、全裸姿でそんなことはしていない。何というか、いつかミトラと大事な一線超えてしまいそうだ。
どうすればいいかあたふたしていると、ミトラが「う……うぅ──」とつぶやいて、目を開けた。
私と視線が合うなり、ミトラがスッと立ち上がる。真剣な表情で、私を見つめて話しかけてくる。
「凛音。私のことが、わかりますの?」
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