第58話 決着

「凛音!! 凛音!!」


「この野郎、妖怪に味方する裏切り者が」


 そう叫んだ義永が、ミトラを何度も蹴っ飛ばす。

 もがき苦しむミトラ。待ってくれ、ミトラは関係ないだろ。


「この女も、後で吐かせてやる。こいつに加担して──いったいどれだけの人を殺してきたんだろうな!!」


 その言葉に、私の中の何かがぷつりとキレた。

 どんな理由があったって、それだけは許すわけにはいかない。


「まずは、これをお見舞いしてやる!」


 そして、押さえられているミトラの背中に向かって、義永が剣の切っ先を向ける。


 ミトラは恐怖のあまりもがき苦しんでむが、勝親が押さえつけていてどうすることも出来ない。


 義永がミトラの背中に剣を突き刺そうとして、剣を振り下ろす。


 私がやることは決まっていた。すぐに、ミトラの前に立って攻撃を受ける。


 剣が私の腹をぶち抜いた。剣は私のはらわたをぶち抜いて貫通。痛いと言うよりは焼けるような熱さのような感じ。

 血は吹き出ているが、妖力はミトラが粘ってくれたおかげでいくらか回復してぎりぎり残ってる。


 こいつ……。

 後ろを向いて、義永をにらみつける。よほど意外だったのか、義永は目を大きく開けて驚き、言葉を失っている。


 私をどうこう言うのはいい。大赤見だ。どんな理由があれど、大赤見は人を殺したし、私も同じことをするつもりで戦っていたからだ。たとえどんな過去があろうと殺しは殺し。それに対して弁解をするつもりなんてない。

 でも、何の罪もないミトラを殺そうとしたのだけは絶対に許せない


「ふざけるな!」


 2人に向かって、今までにないくらいの怒りを込めて叫ぶ。

 予想していなかったのか、勝親と義永はもちろんミトラも驚いて目を丸くして驚いていた。


 そのまま、自分が持っていた感情を精一杯吐き出す。


「あなたたちだって、ミトラに何しようとしていたんですか? 確実に、ころそうとしてましたよね?」


「ああ? 当たり前だろ妖怪と仲良しさんの裏切り者なんて苦しみ抜いた末にぶっ殺してやる」


 義永の言葉に、思わず歯ぎしりをする。ふざけるな、ミトラは戦っていたぞ。自分の身を顧みずに、必死になって。

 ミトラの身が危険とわかって、気持ちが一層強くなった。


「どんな理由があったって、あなたたちはミトラを殺そうとした。それは、無実の人を殺そうとした大赤見となんの違いがあるんですか、妖怪たちと、何の違いがあるのですか? 答えてください」


 真剣な目で、2人をにらみつける。

 2人に、私の怒りが伝わったのか2人は言葉を失って思わず1歩下がった、


「黙れ妖怪、誰が認めようと──俺たちは貴様のことを認めない」


「せめて、この目で私がそんな存在か──確かめてからものを言ってください」


 あまりにも激しい怒りのせいで、見知らぬ人と話すときの恥ずかしさすら忘れてしまう。

 義永が、私の胸倉をつかんで反論する。


「クソが──この期に及んで開き直りを」


「自分が、人を襲わないという証明を出来るのか?」


「うっ──」


 勝親。こいつ、言わせておけば──。


「出来ないよな。お前は──自分が悪魔ではないということを証明できないんだものな」


「ふざけるな! 証明するのはお前の方だ」


 目の前はケッといわんばかりにイラついた表情をした義永の姿。

 表情を変えず、じっと真剣な目で見つめている。私を心配そうに見ているミトラ。私らしくない、強気な言葉に驚いているのだろうか。けどなんというか、ここで折れたら負けだという気が強くして、意地でも折れるわけにはいかなかった。


 互いににらみ合いながら、しばしの時間がたつ。義永と勝親も、攻め手がないのかじっと私のことを見たまま何も言わない。

 仕方がない。このまま待っていても、私の立場は変わらない。

 反論しなきゃ──。


「自分たちが、怖いだけですよね。だから、偏見で私を怖がって──」


「何だとこいつ、言わせておけば!」


 義永が反論してくるが、ひるまず言葉を返していく。


「そうでしょう。自分たちの、偏見じゃないですか? ろくに私たちのことを見ないで勝手にレッテルを張って──この臆病者!! 私は──大赤見の時だってそうだった。戦ってきた、どれだけ痛い思いをしても、折れそうになっても。大切な人のために」


 そう言って、じっと真剣な目で2人を見続けた。これくらいしかできることはないけれど、2人はただ黙って私を見つめている。


 パチパチパチパチ──。


 後ろから、拍手の音が聞こえる。私も、他の人達も思わず振り返った。


 穏やかな表情で私に向かって握手をしている山名の姿。

「これで、決着はついたね」

 山名の、落ち着いた声。私はほっとする。とりあえず、ここで殺されるようなことにはならなそうだ。

「勝親と義永は凛音が悪魔である証明ができなかった」


「で、でもよ──」


「私たちは──妖怪のような無法者じゃない。悪魔でないと証明できないものを、勝手に殺すことなどあり得ない、違うかな?」


 大全の言葉に、2人。特に義永は強く歯ぎしりをして悔しそうにしているが、何も言い返せない。



「ケッ、勝手にしろ。俺は、絶対信用しねぇからな!」

「私もだ。俺達は妖怪を抹殺するために 今更そんな妖怪などと組むことなんて、ありえない」


 義永はそばにあった石ころを蹴っ飛ばし、踵を返す。

 勝親も、立ち上がってミトラから離れた。

 そして、二人はこの場を去ってしまった。

 ──助かった。

 今まで、死闘を繰り広げたことによる疲労。そして、死ぬかもしれないという恐怖。初めて感じた妖怪としての本能と、それに抗ったことによる精神的な疲弊。

 それらが一気に身体に襲い掛かり、私は立ち上がることすらできない。



そんな倒れ込んでいる私に、ミトラがやってきた。


「凛音──ありがとうございますの」


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