第57話 私が──敵?
「関係ない。この世にいる妖怪は、一匹残らず消滅させなければならない」
きっぱりと言い放つ
そんな過去があったんだ……。知らなかった。私は……つらいこともあったけれど大切な人だって、大切にしてくれた人だっていた。
そんな人がいなかったら、私はどうなっていただろうか。彼のように、道を外したりしなかっただろうか。
「ぶっ殺さなきゃなあ~~妖怪は。だって、こいつらは俺たちを食おうとする敵なんだからヨォ」
斯波義永は、そう言いながら大赤見の肉体を何度も槍で突き刺していく。凍っていることもお構いなしに。
数十秒ほどで、原形をとどめないくらいぐちゃぐちゃになった。
「妖怪だろ。だったら、回復する速度を肉体を破壊しなきゃな」
まるで、汚いものを見るような、蔑んだような目。
「ということだ」
「了解」
男が、日本刀を鞘から出して切っ先を大赤見に向ける。そして──。
青白い炎は、大赤見の肉体にまとわりつくように
すぐに、炎は氷を溶かし大赤見の肉体は消し炭となった。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!」
断末魔のような叫び声をあげる顔の方の大赤見。身体が燃えていくごとに、大赤見の顔の部分も焦げて行って──瞳から光が消えていく。
しばらくすると、大赤見の肉体は完全に消滅。絶句する私とミトラ。顔の方も、蒸発するように消滅していった。
「人殺しにふさわしい、お似合いの末路だ」
「当然だ。殺しをする妖怪に、慈悲は存在しない」
それを見た2人。同情の言葉や様子は、全くない。この行為が、正しいことであるかのように強く自信を持っているというのがわかる。
そして、2人はこっちを向くなりミトラを向く。義永がミトラを見つけた。
「まあ、話はそれで終わりじゃないけどな」
「ど、どういうことですの?」
「とぼけるんじゃない! まだ妖怪がいるということ、わかっているだろう」
勝親の言葉が、ズキズキと私の心臓に突き刺さる。
「そうだぞ! 虚偽の報告は立派な違反行為だぜ。目の前にいるじゃねぇか。お前の目は節穴か?」
そして義永は私の方を向いた。勝親がそれに反応する。やっぱり、気づいていたのか。
そう言えばミトラは言っていた。みんなが、半妖である私を受け入れてくれるかわからない。私を妖怪だと認識して、全滅の対象になってしまうかもしれないと。
2人の言葉からして、とても味方になってくれそうとは思わない。
「そうだ。その女から、妖怪の気配がしっかりとするぞ」
「ごまかせると思ってるのか!」
勝親がミトラの両手を後ろで抑え込む。それに待ったを賭けたのが山名さんだ。
「2人とも、待って」
「待てませんよ、目の前に妖怪がいるのに!」
すると山名さんは持っていたカバンから一枚の書類を差し出した。それは、ミトラと貞明さんのサインが入った一枚の書類。
「ミトラと貞明が首をかけて大丈夫だと保証している」
首? 物騒だな……。すると押さえつけられていたミトラが、私の方を向いてしゃべる。
「ちなみにこの首を賭けるという言葉。世間一般で表現する懲戒解雇や、その集団を解雇させられるということを揶揄しているものではありません。正真正銘の『さらし首』です」
その言葉に私は言葉を失ってしまう。私なんかのためにそこまでしていたなんて──。 特にこの人や貞明さんは私と接点がない。貞明さんと一度会ったくらいだ。それなのに私に首まで賭けていたの?
私は複雑な感情になる。
みんな、私のために……。って、今はそんなことを考えている場合じゃない。
改めて2人に視線を置く。
「どうせ、演技をしているのだろう。今は俺たちがいるから保身のためにおとなしくしているのだろうが──安全が確保された瞬間打って変わって人を食らうにきまっている!」
勝親が言う。まったく信じてくれていない。私を、殺す対象としか見ていないというのがわかる。
「んなわけで、こいつを──始末するとするか。たっぷりと、痛めつけてよぉ!」
そう言って義永が懐から取り出したのは、なんと拳銃。名前まではわからないけど、黒く光っていて、とてもグロテスクに感じる。
彼はすぐに銃口を私に向けると、何の躊躇もなく発泡してきた。彼の表情を見た。
体中に、激しいパンチの連続を食らうような感覚。
ただのパンチではない。体を突き刺すようなパンチが肉を突き破り、内臓を破壊していく。
まるで体の中に爆薬があって、それは次々と破裂しているようだった。痛い──、痛い──撃たれた場所の感覚がそれでいっぱいになり必死に傷を治そうとする。
そして妖力が、切れる。体を包んでいた冷たい力が完全に消滅した。義永は発砲をやめる。
「死にはしないさ。お前は人間なんかじゃない。『妖怪』なんだからよぉ」
「大丈夫だ、問題ない。まだ妖力はあるじゃないか。すぐに死なせはしないさ、お前たちに食われた両親や弟の分、精一杯苦しませてから。殺す」
「そうだ。どうせこいつも、今まで散々人を食ってきたのだろう。そんな極悪非道な奴には、ふさわしい最後だ」
「凛音!! 凛音!!」
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