第54話 逆襲
その後も、大赤見に何度も切りかかっていく。肉体が完全に回復する前に、少しでも大赤見にダメージを与える。
「クソッ──」
少しずつ押していく。大赤見の身体、見る見るうちに傷が増えて言っている。大赤見は、お腹を押さえながら苦々しい表情を浮かべながら私の攻撃を受けていく。
「くっ、まぐれや──ワイが──こんな奴に負けるわけがあらへん」
大きなダメージを受けつつも、立て直してきているのはさすがだと言いたい。
そして──今度はこっちが大赤見へ向かって行く。
武術を習っているわけではない私。何度か反撃を食らってしまい──ダメージを受けつつもうまく攻撃をかわして、致命傷を避けていく。
時折傷を負ってしまうが、戦いながら回復していった。
そして、大赤見は、何とか形勢を逆転させようと焦っているのか無理やりにでも攻撃的に殴ってくる。
釣りと一緒だ。十分相手を引き寄せてからでないと、警戒されてしまい有効打を与えられない。
相手にいけるとうまく思わせてく必要がある。多少のダメージは織り込み済みで、少しずつ後退しながら大赤見の攻撃を受け流し、受ける。
「これで、しまいや!」
大赤見は、いったん一歩引いてから腰をかがんで、高速で突っ込んでくる。
おそらく、有利に立ったと思い込んで殴ってくるのだろう。
それに対して、私は一気に体制を低くする。かがんで、横から薙いで来る大赤見の攻撃をかわす。髪がふわりと浮いて、大赤見の攻撃によって髪がわずかに切られて地面へと落ちるが、気にしない。
思いっきり、大赤見の胴体めがけて妖扇を斜めに振りかざした。
すでに攻撃に出ていた大赤見はどうすることも出来ず、私の攻撃が今度は、腹を掻っ捌いた。
血しぶきが吹き出て、大赤見の切断された臓器が飛び散る。赤黒い、ドロッとしたタールのような血が大きく垂れているお腹を押さえながら、こっちをにらみつけていた。
完全に、行ける。このまま押し切っていこう。
「まぐれや──ワイは、認められなきゃいけへんのや。将門様に認めてもろうて、成り上がるんや。だから、もっと人を食って、殺していって──。だから、こんなところで、負けるわけにはいかへんのや」
大赤見が、感情をむき出しにして叫ぶ。将門──さっきミトラが言っていた今被害をかなり出している妖怪。
恐らく、こいつは将門の手下かなんかで、今人を食っているのも彼と何かかかわりがあるのだろう。
「私だって、負けるわけにはいかない。もう、何も関係のない人が悲しい思いをする姿なんて見たくない」
けど──どんな理由があったって人を殺していい理由になんかならない。そして、こいつはすでに人を殺している。
だったら、躊躇する必要なんてない。
行くしかない。
「うるせぇぇ! お前さんのような、周囲から愛情を当たり前に受けたようなやつに、俺様の気持ちがわかるかい!」
大赤見がにらみと聞かせている間、大赤見の腹が少しずつ回復していく。何とか追撃しようと思ってはいたが、大赤見の言葉に圧倒されてしまったのと、今度はこっちがカウンターを食らう可能性があるからだ。
今の私では、突っ込んでくる攻撃に対応することはできても自分から突っ込んで攻勢をかけるには力不足な気がする。
もっと、強くなりたい──。
「本気で、行かせてもらうで!」
大赤見が再び攻撃を仕掛けてくる。言葉には、強い感情がこもっていたように感じる。おそらく、それほど周囲に恵まれなかったのだろう。それでも、こいつの行いを許すわけにはいかない。
「確かに、お前のお琴はわからないかもしれない。けれど、私にはわかって、お前には何も理解できないことだってある」
「なんや!」
「お前が食らって行った人だって、同じくらい想いを持っていたんだ。それをお前は──踏みにじった。だから、許すわけにはいかないんだ」
そうだ、誰にだってそういう所も、大切にしていることだってある。こいつに、私の知らない他の人にだって。
そういう人を守るためにも──。私は負けるわけにはいかない。
大赤見が攻撃を仕掛けてくる。勢いまかせ、感情任せの連続攻撃。
鋭い攻撃だが、単調でかわせる。
繰り出される攻撃を後ろに下がってかわしてから、横に飛んでもう一度大赤見に突っ込んでいく。
そして、大鎌を思いっきり叩き落とす。
「くそっ──クッソォォォォォォォォォォ!」
これで、大赤見はまともに戦えない。倒すチャンス。
一気に攻勢をかけていく大赤見に鎌を拾う隙を与えないくらい連続攻撃を繰り出す。
スキはあって、決して完ぺきではないけれど、何度もがむしゃらに殴り掛かっていった。
ガードされてしまうが、関係ない。妖力いっぱい力を込めて、蹴っ飛ばす。
大赤見は攻撃を受けきれず、体がのけぞってしまう。
これ以上ないチャンス。無防備となった大赤見の身体を思いっきり蹴っ飛ばす。身体が後ろに吹き飛び転がり込む。
これで、勝負を決める
「わあああああああああああ。獏、助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」
獏? 何だろうかわからないが助けが欲しいくらい必死なのだろう。でも、周囲に気配はないし、助けるつもりもない。
このまま、押し切って──勝つ。
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