第53話 反撃


 大赤見は、軽快にステップをとってふんふんと鼻歌を歌いながらこっちを見ている。


 さっきまで、攻撃しながら私をいたぶって楽しんでいる。

 それだけじゃない──私が苦しんでいると、それを見るのが愉悦であるかのように


 まるで、どれだけ舐めプをしても自分は負けることがないと言わんばかりだ。


 命をかけた戦い。死ぬことへの恐怖。それによる戦いへの真剣さ。


 まだ経験不足の私でも感じている、そんな感覚が感じられないのだ。

 それなら──。


 私の中で、答えを出した。それで勝てるかはわからないけれど。それ以外方法はない。


 まずは──私。今までと戦い方を変えてみる。



 今までは何も考えず防戦一方で、何とか無理やり反撃しようとして──雑に殴るだけになってつぶされてた。


 それが、相手を見極めるような体勢に変わる。相手の表情をじっと見て、攻撃も受けながら冷静に観察していく。


 時折攻撃をかわし切れなくて食らっちゃうけど、別にいい。まだ妖力はあるから傷は治る。

 それよりも、実戦経験が不足している私に必要なのは相手を知ること。


 そして、しばらく攻撃を受けているうちに気がつきはじめた。


「なんや?」


 驚く大赤見。

 さっきまでとは違う私の攻撃、素振りに気が付いたのだろうか。


 さっきまでは、私の心を土足で踏み込んだ怒り。それから大赤見の戦いに戸惑い、平常心がないまま感情だけで戦っていた。


 けれど、今は違う。


 さっきと比べて、大赤見の表情に焦りの色が浮かんできているのがわかる。


 焦ってきて、攻撃もさっきまでのような連続攻撃や駆け引きをうったものから、力任せで単調なものへとなっていく。




 そして──。


「ぐはっ!」


 大赤見が振りかざした攻撃を、思いっきりはじき返す。大赤見の身体が後ろにそれると、私は右足に氷を張り付けて硬度を強化。思いっきり蹴っ飛ばす。


 吹き飛ぶ大赤見。


 ようやく有効打が当たった。

 大赤見が再び向かってきて反撃に出てくるが、全く脅威に感じない。


 このまま、押し切っていけそうだ。


「なんや、まぐれ当たりか?」


 そして、致命傷を避けながら攻撃を受けていく。


「これや!」


 攻撃を食らいつつも、致命傷だけは避けていく。娑婆掛けの攻撃が来たら一歩引いて、振り下ろした攻撃に対しては氷の壁を召喚。



 攻撃を受けていくと、だんだん相手が焦ってくるのがわかる。


 だんだん、攻撃が単調になってきている。


 大鎌の太刀筋が最初の方は力の強さに正確さや駆け引きの強さが出ていたのだが、時間がたつにつれて力任せになってきているのだ。


 さらに、冷静になって大赤見の身体を観察する。さっきより、私を前がかりになって無理やりにでも戦線をこじ開けようとしているのがわかった。



 隙が出来つつある。けど、まだだ──。

 決定的なスキで、対応されてしまう。そうすれば、警戒されてしまい二度と突破口は開けないだろう。


 まだ、まだだ。もっと耐えて、こっちに大赤見を引き付けて──フラストレーションを溜めさせる。


 前がかりになってきたら、多少攻撃を受けてでもカウンターをくらわす。


「おんどりゃぁぁぁぁっ! いい加減ワイの養分になりやがれぇぇぇぇぇっっっ!!」


 私に有効打を与えるどころか、カウンターを食らったことにいら立ったのか、先ほどまでとは違い大きく感情を出して叫び始めた。


 どんどん攻撃は力任せになっていって、速さも増していくものの攻撃自体は怖くない。

 半妖の相手ではあるから、攻撃を食らってもそれ以上の攻撃をくらわせればいい。


「これで、しまいやぁぁぁぁぁぁっっっ!」


 大赤見が、一気に突っ込んできた。今まで以上に迫力を感じる突撃と言ってもいい。


 確かに必死なのも理解できるし、私も倒そうとしているのはわかる。


 けど──自分を見失って向かってきたところで返り討ちにすればいいだけ。


 すぐに鋭い氷柱を召喚。

 氷柱を召喚した私の妖扇に張り付け、そのまま一気に大赤見の懐に入り込む。


「しまった!」



 驚いて身を引こうとするがすでに遅し。前がかりになった大赤見に一気に切りかかる。

 しかし、大赤見は無理やり体をよじって致命傷を回避しようとする。


 みぞおちあたりをめがけて振りかざした攻撃は大赤見の左腕あたりを横切る。

 構わない。そのまま腕を切断した。利き手じゃない、左の腕。当然、半妖なので腕はまた生える。


 それでも、回復にはそれなりの時間がかかるからそれまでは大赤見は片腕。有利に戦える。

 ここで、もう一撃は決めておきたい。


 そして、拳にありったけの硬い氷、それもつららのような尖った氷を召喚。

 そのまま、腹を思いっきりぶん殴る。


 氷の氷柱は、大赤見のお腹を貫通して背中へと抜ける。貫いた部分から流れる血。


「グハッ、くそっ──こんな素人女にこんな目にあうとは」


 大赤見は白目をむいて悶絶し、血痰を吐く。今までにない歪んだ表情。

 相当、ダメージを受けていたというのがわかる。


 これで流れはこっちに来た。確かに、これだけでは死ぬことはないが、それでも、有効打を与えたというのは大きい。


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