第50話 過失
それどころか、傷口が緑色に腐食していくのがわかる。慌ててその辺りを切り落として、その部分の肉をその場に捨てる。
「ほれほれ、よそ見はあかんて!」
しまった、戦いの途中だった。
考えてみれば体を腐食させる術式だとわかっているなら、食らわせた相手に回復にしろ私のような切り落としにしろ何らかのスキが出るということは明らかだ。
恐らくは、それを狙っていたのだろう。気づいた時には大赤見は目の前から姿はいない。
どこにいる──そう感じた瞬間だった。
「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁl!」
背中が熱い──すぐにそれは今まで感じたことのない痛みに変わる。
「こうなるからやで」
背中を思いっきり切り裂かれる。痛みを通り越した熱いくらいの感覚に吹き出る血。
「まあ、素質はそれなりかもしれへんが、まだまだって感じやな」
私は、じっと大赤見をにらみつける。
「けどまあ、手加減はせえへんよ。あんさんは、これでおしまい。ワイの食料となってもらうで!!」
大赤見は、再びニヤリと笑みを浮かべてきて襲ってきた。すでに満身創痍の、私とは大違いだ。
すぐに背中に意識を集中。妖力を集中させて傷を治す。
もう大赤見はこっちに向かってきている。すぐに、体勢を立て直さないと──。
すぐに立ち上がって、殴り掛かってくる大赤見と殴り合いになった。
私が負った傷のことは構いもせず、力任せに強力な攻撃を何度も見舞ってくる。
時折かすり傷を負うと、毒で強烈な痛みが傷口を襲い、腐食していく。
そのたびに攻撃を対処しながら意識を集中させ、傷を癒す。
やっぱり、普通の妖怪との戦いとは違う。力自体もそうだけど、戦い慣れしていて攻撃がなかなか当たらない──。
そして──翻弄され続けてその時はやってきた。
逆巻くとこしえの俗物その力今こそ久遠の慟哭から目覚めよ!
瘴気閃光──
そして、大鎌が強く光ると、再び拳ほどの大きさの物体が大赤見を取り囲むように出現。
大赤見が大鎌を軽く振るうとそれらは一斉にこっちへと向かってきた。
グォォォォォォォォォォォォォォォォォォ──。
大赤見は大きな声で叫びながら再び塊を出現。私に向かってくるのは明確だった。
とりあえず、私も全力の力で立ち向かわないと。
氷の旋風よ・研ぎ澄まされし刃挙げ、反逆の
氷結一閃
──氷柱刺し──
妖力を伴った、大きな氷柱が何十個も出現。勝てるかわからないけど、他に方法はない。
思いっきり妖扇を振りかざすと、氷柱たちは一斉に大赤見の方へと向かって行く。
そして2つの攻撃が、激しくぶつかり合う。
結果は、一瞬だった。
私が放った全力の攻撃は──大赤見の攻撃にあっけなく散っていった。
「まあまあやな。そんなお遊戯じゃあ──ワイにダメージは与えられへんで」
そして紫色の弾丸が私に襲い掛かってくる。
私は──何度も妖扇を握って大赤見の攻撃を打ち落とすかのようにふるっていく。
扇子が当たるだけで、ジュゥゥゥゥという音と共に攻撃が消滅していった。
そして、大赤見の攻撃を半分ほど防ぎ切ったその時──。
「これでチェックメイトや」
しまった──。
背後から、今までにない力の気配。声も、背後からだ。
目の前の攻撃への対応で、注意が回らなかった。
「経験不足やな。そのくらいの気配なら、ワイでも難なく消せるんやで」
完全な、私の過失。
すぐに振り向こうとするが、時すでに遅し。
大赤見が、私の右腕をぎゅっとつかんだ。
「あんさんは半妖。これくらいの痛みは、追ってもらうで!」
力を入れて強引に引きはがそうとするが、話すことが出来ない。
「経験不足や、この程度じゃ──ワイを倒すことなんて夢のまた夢」
そういうと、大赤見は信じられない行動に出た。
私の右腕を強引に引きちぎってきたのだ。両手で、私の右腕を根本から引っこ抜こうと、力ずくで引っ張る。
何とか抵抗しようとするが、全く勝てない。
そして──大赤見は私の腕を引きちぎるようにして引っこ抜いてしまった。
焼けつくような痛みが切断された場所から吹き出る血。しかし、痛みに悶絶している暇はない。
大赤見が今度は私の右肩あたりをぎゅっとつかむ。
そして、私の身体をそのまま投げたのだ。
何とかもがこうとするものの、力の踏ん張りが出来ない空中ではどうすることも出来ない。
大きく体が吹き飛んだ後、頭、背中、体の様々な分が樹木に衝突。そのたびに骨が折れるような衝撃が体全体に響く。
そして、その先にある崖から転がり落ちるように落下。地面に衝突した後、地面をころころと転がってその先にある大きな木に衝突した。
うっ──。
息が苦しい、息ができないくらいに。胸のあたりが痛い──。多分、あばらとか肋骨あたりが数本折れてると思う。
動くだけで前進が痛くて、骨だけじゃなくて心まで折れそう。
あの妖怪、強すぎる。今までの相手とは、全く違う。
ただ殴ってくるだけじゃない。
駆け引きも、術式も相当経験深くて強い。ここで、私は死ぬのか? そんな感情が頭に浮かぶ。
目をつぶって──脳裏に浮かんだ。
琴美のことを思い出す。
そうだ、私にはいるんだ。取り返さなきゃいけない人が──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます