第43話 ここは……?



 うぅ……。

 ゆっくりと、目を開ける。

 完全に眠気が取れていないのか、不自然に頭がズキズキと痛む。


 私、何しようとしてたんだっけ──。

 さっきまで起こっていたことが、頭にもやがかかっているみたいになっていて思い出せない。


 どうすればいいか、突然の事態にわからなくなり周囲と自分の姿をキョロキョロと見まわす。


 大きな夕日が私の身体を照らしている。ぽかぽかと暖かい感覚。

 オレンジ色に染まる街と空。前を見つめると、大きい太陽が地平線に沈もうとしていた。なぜか、空の真ん中には大きな鳥居が浮かんでいる。不自然なはずなのに、なぜか全く気にならなかった。



 そして、自分の服装。いつも着ているセーラー服。

 帰り道の家が目前に迫った住宅街。制服姿で、帰路についているんだっけ。道行く人は、なぜかみんな下を向いていて、表情が見えない。


 ほどなくして、実家に到着。肩にかけていた鞄のポケットからカギを取り出しノックをして、家のドアを開ける。


 玄関で靴を脱いでそろえて、扉を開けてキッチンへ。


「ただいま」


「お帰り」


 お母さんが、まな板で野菜を切りながら言葉を返してくる。にっこりとした笑み。


「もう少しでお風呂が沸くわ。先入って大丈夫よ」


「うん。あ、そうだ、後で琴美が来るから」


「そう、じゃあ琴美ちゃんに夕飯。御馳走しちゃおうかしら」


「別に、少ししたら帰るよ。大丈夫だって」


「じゃ、おいしいコーヒーでも入れておくわね」


 お母さんの声を聴くと、胸がほっとして安心感に包まれる。自分のいるべき場所にいるというか──。


「あと、今日は凛音が好きなサバのみりん焼きよ」


「あ、ありがとうお母さん」


 居間ではお父さんが新聞を見ながらテレビをつけて聞いている。今日は帰りが早いな──。


「お帰り凛音。学校はどうだった?」


「特に問題なかったよ。琴美と、ミトラと一緒にいろいろ喋ったりしてた」


「よかったよ。凛音にも、心のよりどころが出来て」


「ありがとう」


 お父さんもお母さんも、引っ込み思案で友人が出来なかった私のことをとても気にかけてくれていて、とても心配してくれていた。


「お姉ちゃん、お帰り」


 階段から妹の静香が降りてくる。学校でいいことがあったのか、いつもよりもご機嫌だ。

 静香は、私と違って明るくて──誰からも好かれていて、みんながそばに寄ってくるような、太陽みたいな女の子。


 わたしとは違う。将来は、どんな子に育つのかな……。


 将来は……?


「ただいま」


 ちょっと疲れもあってか、返す言葉のトーンが低くなる。何だか、体が重い。


 何でもない、日常。こんな日が、これから先も続いていくのかな?

 大切な親友たちと……家族たちと……。


「じゃあ、少ししたらお風呂。入っちゃうね」


 階段を上って、左にある自分の部屋へ。肩にかけていた鞄を勉強机に置くと、胸の奥で感じ始める。

 何か違和感がある。


 心の奥から感じる違和感。既視感がある。ぼんやりだけど、以前にこんな似たようなことがあったような──


 とりあえず着替えよう。汗かいちゃったし──。


 着替えをしようと、制服を脱いで下着姿に。背中に手をまわしてブラのホックを外す。


 ブラを取ると、不相応に大きな胸がプルンと飛び出る。胸が大きいから、どうしても乳房の谷間や下あたりが蒸れてしまう。


 大きな胸を抑えながら、鏡に視線を置く。さっきから感じていた違和感について考える。やっぱり、何かがおかしい。何か、大事なものを忘れているような──。


 何だろう……やはり違和感がぬぐえない。私は、生まれてから平凡に暮らしていて、学校から帰ってきて──これからも、こうして普通に暮らしていくのだろうただの女子高生のはず。


 鏡に視線を移し髪を整えようと、以前琴美が誕生日の祝いにとくれた串に触れたしたその時。



「起きて!」


 突然背後から琴美の声が聞こえたのだ。

 とっさに振り向くと、そこに琴美はいた。なぜか、緑を基調とした花柄の振袖のような服を着ている。


 しかも、半透明で体全体が透き通って見えている。後ろにある勉強机が、うっすらと見えるくらいに。


 そして琴美は私に近づいて両肩をつかむ。悲しそうな、それでいて何かを訴えかけているかのような視線。


「辛くても、見つめなきゃ──現実を。自分が何をしなきゃいけないかを──」


 そして、唇をそっと私の唇に近づける。キス??? しかし突然の行動に頭がフリーズしてしまい体が動かない。

 プルンとした琴美の唇が当たった瞬間。


 あれ、この光景。既視感が……。


 ズキン──と脳裏に衝撃が走る。まるで、頭の中に直接電流を流し込んでいたかのように──。


 そして、いろいろな光景が一瞬で頭の中にフラッシュバックし始める。


 あまりの衝撃に、両手で頭を押さえうずくまった。


「うあ……ああああああああああああああああっっっ!!」


 思わず叫んで、そして思い出す。



「そうだ、私──」


 思い出してしまった。フラッシュバックの中にある。両親と、静香の死体。みんなが、どうなったかを。


 半妖となった私の姿に、ミトラと一緒に、戦ってきた光景。

 空想の世界ではない、本当の記憶。すべて、思い出した。





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