第41話 夜、星空の下
他の人たちも、相づちを打ったり、楽しんでいろいろなことを話しあっている。中学や高校の給食や休み時間で、イヤというほど見た光景。
他の女の子たちは、楽しそうに会話を楽しんでいる。
とりあえず、会話に入っていかないと。妖怪省のことだって、私はほとんど知らない。
少しでも、今後のために知っておく必要がある。
「しっかし菱川のやつ最近ますますきつくなってるよな。以前からああだったけど」
「洞爺湖の戦いで、味方に損害を出して大老への昇格が出来なくて苛ついてるんだって。その時も、自分が指示を間違えたことは棚上げして周囲が使えない奴ばかりだから悪いとかか文句ばっかりだってさ」
「だから実力はあるのにいつまでたっても大老になれないんだよ。上の役職になるってことは自分よりも周囲の実力を引き出さなきゃいけないってことなのに」
「確かに、いつも怒鳴ってばかりですわ。そして、気に入らない奴がいると、つるし上げてさらし者にして──」
あの人、そんな人だったのか。確かに厳しそうだったけれど……。
大老? 初めて聞いた。ちょっと質問してみようか。
「あのさ、大老って何?」
私の質問に、一斉に視線が集中する。
注目されることに慣れてない私──。ビビってしまった
「妖怪省でも、実力が高い幹部の人達、この前であった貞明さんに富子さんがそれですわ」
「え? 2人とも貞明さんと富子さんに会ったことがあるの?」
つまり、幹部ってことか。
そして、ミトラの質問にこの場がざわめきだす。
「そんなに、すごいひとなの?」
「ああ。妖怪省の中でも大老というのは強さ、配下たちを従える能力、どれもトップクラスの能力を持つエリート中のエリートだ」
「ひとみの言う通りですわ。そして、隊員のほとんどは彼らと出会うことはまずありませんの。つまり、凛音は──それだけ期待されているってことですわ」
そ、そうだったんだ……。こんな私に。
「でも、今回はいなかったよね。そこまで重要じゃなかったってこと?」
「まあ、大した強さじゃなかったしな」
「でも、これで終わりなのかな?」
坊主頭の隊員が腕を組んで話に入る。
「確かに……でもどんなことが考えられるの?」
「例えば、この前会ったパターンだな、今まで暴れたことがなかった妖怪が暴れたり、いつもとは違う力をつけた妖怪の裏に、人間がいたって」
「それですわひとみ。今回も、そのパターンかもしれないですの」
そんなこともあるんだ。やっぱり、
「確かに、強さだって見掛け倒しっていうか──弱くはなかったけどでかさのわりにはって感じだったし」
坊主頭の男の言葉。確かに、私も思った。体がでかい割に、今まで戦った敵と比べると、そこまで強いというわけでもない。
「ひょっとして、今まで噂になってた将門じゃない?」
「ああ……そうかもしれませんの」
「将門?」
聞いたことがない言葉だ。何だろうか。
「将門って、何?」
「最近、妖怪たちに取り入ってこっちで被害を拡大させている敵が名乗っている名称です。本名は、誰にもわかりません」
「私も一戦交えたけど、ありゃ半妖だな。傷を与えても、すぐ回復しちまう」
「ひとみの言葉通りですと、とても厄介ですわ。半妖だから簡単には死なない。元人間でありながら、妖怪たちを操り、自分たちの欲望のために動く。そして大きな危害を加えていくのですわ」
確かにそうだ。私のように、腕をぶっこ抜かれたりへし折られたりしてもまた生えてくる。
おまけに、妖力だって相当あるはず。
今までは、力はあるけど本能のまま知性がなく力任せに突っ込んでくる奴らだけを相手にしていた。
しかし、これが私と同じ──それ以上に知恵がある人間となるとそうはいかない。巧妙な罠や、戦術を仕掛けてくることだってあるだろう。
心配だな……。
考え込みながら、ラーメンを食べ終える。物事を思考しながら話に加わる器用さがないため、会話に加わるどころか、何を話したかすらよくわからない。
ラーメンを食べ終えて、大きくため息。激闘の疲れが出たせいか、ちょっとうとうとし始めた。
他の人達は、ミトラも含めて楽しく会話をしている。
いったん、休憩がてらに外に出る。
体育すわりで眺める星空が浮かぶ満月の空、夜風が当たって、涼しい。
琴美……。私、このままでいいのかな……。
ついつい、親友のことを思い出してしまう。
私、本当に琴美と逢えるのかな……。まだ、手掛かり一つ見つけていない。
そんなことを考えていると──。
「琴美さんのことを、考えていたのですの?」
ミトラが隣に座ってきた。にこっと笑ってこっちを見てくる。
かわいくて、思わず照れてしまった。そして、びっくりしてぴくっとなった。
「ど、読心術でも使うの?」
「私も、こういう綺麗な星空を見ていると、昔の親友を思い出しますの。だから、わかりますわ」
そう言いながらミトラも夜空に視線を浮かべる。とても切なそうで、きれいな目。
「祇園──さんだっけ」
「ええ。琴美さん、絶対に会えるって……私は信じてます。凛音今のようにひたむきに戦っていれば」
「──ありがとう」
根拠のない、おまじないのような言葉なのに、とても支えになる。
さっきの賑やかな場から、そんな場所でミトラと2人きり。心が、とても落ち着いたような感情になる。
そして、ミトラが私の腕を、ぎゅっとつかんできた。
大きな胸が、当たってる。
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