第40話 ついていけない、会話

「変ですの。隊員の人の音以外、何も聞こえないですわ」


 何だ? 私の幻聴なのか? ミトラと一緒にいたからわかる。からかっているようには見えない。本気だ。


 それとも、本当に聞こえていないのか──。


 そんな風に考えこんでいると、菱川が後ろで手をパンパンと叩く。


「ほら、けが人が出てるんだから。こんなところでぼさっとしてないで手当てとかしてあげなさい!」


「わかりましたの」


「やればいいんだろ」


 ひとみとミトラの、イヤそうな返事を皮切りに、私たちはけがをしている人たちの救助へと向かって行った。





 一通り救護が終わる。

 幸いにも致命傷を負ったものはいなかった。簡単な手当てが終わると私たちは再びバスに乗り、元来た旅館へ。


 旅館に戻ったのは9時ごろ。昼から何も食べてない私たち。


「この辺り、何かご飯食べるとこないの?」


「ちょっと調べてみますわ」


 食事の手当ては出るが、1000円ほど。旅館の食事代は高いので予算不足のせいで出ない。

 なので外に出て空いてる店を探さなきゃいけないらしい。


 すでに、大半の隊員は腹が減ったといって食事に行ってしまっている。


 ミトラがおもむろにスマホを出す。


「ここなんかいいんじゃないですの?」


 ミトラが提案したのは、ここから近い食堂のような店。


「いいんじゃね、近いし」


「俺も賛成」


 ミトラの提案。疲れ切った隊員たちの一部が賛成。


「ひとみ、凛音、行きますの!」


「わかったよ」


 考えてみれば、昼から何も食っていない。お腹すいたしちょうどいいか。

 ということで、機嫌がよさそうなミトラについていく。


 そして私達は5人ほどでは目的の場所へと出発。観光地でもない、地元の人が歩く手狭な通り道を歩く。


 昭和の時代からありそうな、木でできた家屋。広々としていて、庭には何かわからない魚の干物が干されている。


 周囲を眺めながら歩く理由は、一つ。


 みんなは、楽しそうに会話をしている。妖怪省のこととか、大老──とかいう役職の人のことも話している。私は──当然全くついていけていない。それだけ。


 後ろでぼっち。時折ミトラが話を振ってくるが、適当に相づちを打って返す。ミトラ達の後ろをおとなしくついていく。




『ラーメン』を書かれた赤いのれんをくぐり、ガラガラと引き戸を開ける。

 茶色いお盆にお客さんに出す水を載せているおばさんが「いらっしゃいませ」と声をかけた。


 良くも悪くも大衆食堂といった感じの中。席には、ビールを片手に焼き鳥をつまんでいるサラリーマン。カウンター席で、日本酒を飲みながら競馬新聞を読んでいるおじさん。


「三人ですわ」


 ミトラが元気そうに返事をすると、窓際の席を案内される。

 そして椅子に座ると水を渡された。

 机の隅にあるメニューには「ラーメン」「味噌ラーメン」「カレー」など、ありきたりなメニューが割安な価格で載っている。

 貧乏学生の私からすれば、とても助かる値段。昼も、ウナギでいっぱい使っちゃったし。

 観光客用の店ではなく、地元の人が訪れる定食屋って感じだ。

 ひとみはどこか不満がある態度でミトラに話しかけた。


「金あんだからさー、もっと名物がある店のが良かったんじゃないの? 豚骨ラーメンとか」

「ひとみは素人ですわ。こういう観光客がいない店の方が、おいしい食べ物にありつけるんですの! ねー凛音」

「ま、まあそうかもね……」


 よくわからないけれど、別に観光に来たわけじゃ無いし、私の財政状況はあまり良いとは言えない。ひとみには悪いけれど、私もここでよかったと思う。

 そして全員食べるものが決まる。ミトラはカツカレー、ひとみは焼き魚定食。私は一番安いラーメンを選んだ。

 いくら金が入るとはいえ、いつ大けがをするかわからない。だから、贅沢をする気にはなれなかった。

 すると──。


「あと、お刺身盛り合わせをお願いします。一緒に食べるですの!」


 刺身盛り合わせ。値段……二千円? 割り勘だとしてもきつい……。昼間だって散々使ったのに。


「まって、私払えないよ」

「いいんですの。私のおごりですわ!」

「わ、わかったよ……」


 ブルジョアめ……。ま、それなら仕方ないか──。

 注文を終え、料理が来るまでの時間。一人でいるときであればスマホで暇つぶしをしていたのだが、今日はミトラ、ひとみと一緒。

 ミトラは明るい笑顔でひとみと会話をして楽しんでいる。私は、出された水をすすりながら二人の話を横でただ聞いていた。

 いつも学食でも一人ばっかりだったから、こういう時、どう対応すればいいかわからない。どうしようか悩んでいるうちに店主のおじさんが食事を運んできた。

 すぐに食事をとる。


 ミトラは、カツカレーを食べながらひとみと仲良くワイワイしゃべっている。

 私は、何もしゃべらずれんげにスープを一口分入れで、口に入れた。それから、れんげにスープと麺を入れた後、ふーふーしてラーメンを食べる。

 味は、まあまあおいしかった。見た目は普通の醤油ラーメンだけど、鶏がらっぽいだしが私好みでおいしい。隠れた名店というやつだろうか。

 それからメンマにチャーシュー、もやし。どれもスープとよく合っていていい味だ。

 ものの数分で、出されたラーメンを食べ終える。

 ミトラとひとみは、それぞれカツカレー、焼き魚定食を食べながらいろいろ話していた。

 可愛い洋服のこととか、隊員のうわさ話とか。ガールズトークとかいうやつだ。

 おいしいケーキについて話しているミトラを見ていると、本当に不思議に思う。どうしてこんなたわいもないことでポンポン話す話題が生まれるのだろうか。




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