第38話 戦いの、始まり
フラフラとしていて、うつろな視線、じっと遠くを見ている。
確実に、正気じゃないというのがわかる。
「おい、どうしちまったんだよ花、しっかりしろよ!」
慌ててひとみが、肩をゆすって止めようとするが──。
「離してひとみ、八尺様が呼んでいるの……」
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇ! みんな、止めてくれ!」
ミトラと視線を合わせ、一緒に女の人の方へ。
女の人のシャツを掴んで、こっちに引き戻す。でも、女の人は予想以上に力が強く、中々こっちに引き戻せない。
こっちも、精一杯力を籠める。
「もう、しっかりしてくださいですの!」
ミトラが、腕を光らせ、妖力を使うことで何とか女の人を引き戻すことが出来た。
周囲を見ると、ダムに飛び込もうとしている人を止めるに、どこも4.5人がかりでなんとか柵から引き戻していた。
そして、引き戻して砂利の地面に倒れ込んでいる女──。うつろな表情で、瞳からは涙がこぼれていた。
それも、ボロボロと滝のように。
「何だこれ、おかしいだろ」
「ひとみの言う通りですわ」
私も感じる。確実に、何かおかしい。すると、後方から叫び声が聞こえ始めた。
「多分、精神に干渉する力が働いているのね。みんな、覚悟してかかりなさい」
「しかし──どうすれば?」
「全員がなってるわけじゃないでしょ! 役割分担しておかしくなった奴を止めるのと、出てきたやつを倒すのにわかれればいいっでしょ! ちょっとくらい頭使って考えなさいよ!」
後ろにいた菱川から大きな叫び声が聞こえる。
この人、みんなが必死なって仲間たちを救おうとしてるのに、腕を組んでいただけで何もせずに立っていただけ。
人望あるのかな……この人。
とはいえ、もめごとを起こすわけにはいかない。他の人達も、どこかイヤそうにしながらも
こっちに向かってきた。
そして、何とか飛び降りようとしている人たちを取り押さえる。しばらくすると。飛び降りようとしていた人たちは正気に戻る。
「あれ、何やってたんだろ──私」
「なんだろ、急にダムに飛び込まなきゃって思い始めて──それで心がいっぱいになって」
飛び降りようとした人は、誰もがきょろきょろとしていたり、戸惑ったりしていた。
どうして飛び降りようとしたのか、自分たちでも理由がわからずただ混乱している。
まるで、意思そのものを操られているかのような。
これが、妖怪の力なのだろうか。
「精神操作系──聞いたことがあるな」
「ひとみの言う通りかもしれないわ。聞いたことがあるわ──」
菱川が腕を組んでいう。そういう妖怪もいるのか──。気を付けないと。
でも、どうすればいいのだろうか。運ゲーならどうしようもないけど──。
何か法則でもあるのだろうか。
とりあえず、この場が収まってきた。周囲がリラックスしたかのように一息つき始める。
操られていた人たちも、最初こそは戸惑っていたものの、徐々に精神を落ち着けさせてきた。
そんなタイミング──。
グォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!
「な、何だ?」
ダム湖の方から大きな雄叫び声が発せられる。
ずぶとくて、耳を塞ぎたくなるような大きな声。
「妖怪ですわ」
「全員、武器を手に取って──」
菱川の叫び声を皮切りに、周囲の人達が再び武器を手に取りだした。
「凛音、戦いが始まりわすわ」
「そうだね」
私もミトラも、自然と戦いモードになる。
ここにいる全員の視線をダム湖に吸い寄せられ、そして──。
ザバァァァァァァァン!!
ダム湖から、大きな水しぶきの音。そして、湖の底から何かが爆発したかのような音。
湖の水が打ち上げられたかのように空中に舞い上がり、まるでスコールが降ってきたかのようにこっちに襲い掛かる。
「な、何だこれ」
服がずぶ濡れになっちゃった。
「あ~あ、びしょ濡れですの」
ミトラは──薄い色のフリフリの服を着ていたせいか、水にぬれると白っぽくてきれいな肌や薄いピンクのブラジャーが透けて見えてしまっている。
凄いセクシーで、かわいい。気がつけば、周囲の男の人達もちらちらとミトラを見ている。
こいつら……。
「おい、なんか出てきたぞ!」
ひとみの言葉に再び真剣モードになり、ダム湖を見る。
水面がもっこりと浮かび上がったと思うと、徐々にその姿が見えてきた。
細くて濃い緑色の肉体。吊り上がった鋭い目つき。背中には亀の甲羅のようなものがついている。
そして、頭には大きな皿。
「河童──ですわ」
河童──それ自体は知ってる。でも、こんなに大きかったとは。
「でも、いつも戦ってる奴よりも大きいぜ」
「そうですわ、発せられる魔力も、いつもより10倍はありますの」
2人が騒ぐ。私は、河童と戦ったことはなかったことはないけど、この河童からは強大なエネルギーが発せられているのがわかる。
こいつが、今日の相手か。どんな戦いをしてくるのだろうか。
「でも、負けるわけにはいかねぇよな」
「そうですわ、こんな力を持った奴放っておいたら周囲に人にどんな以外が及ぶかわかりませんの」
そうだ、逃げるわけにはいかない。
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