第37話 牛頸ダム 変な動物
そして、移動の時間となった。
ホテルから、貸し切りバスを使って山奥へと移動。景色を見ていると、やがて夕日が沈んで夜になる。
日が傾きつつある、しばらくバスで西へ。
住宅街や田園地帯が並ぶ国道から、人気のない山道へ。しばらく国道沿いを行くと、途中──。
「あっ、またいた。こっちを見てる」
よくわからない動物に遭遇してそのたびに視線が合い、そんなことをつぶやく。いろいろ人と出会って、無意識に疲れていたのだろう。
ふぁ~~あと何度かあくびをして、何度かうたたね。ミトラは、通路を挟んで隣にいるひとみと会話を楽しんでいた。
やがてあたりは真っ暗になり、1時間程道を進んで牛頸ダムへと到着。
山間の中にあるダム。
砂利道の、未舗装の駐車場という感じのエリアにバスが止まった。
川の流れる音だけが流れる、真っ暗な場所。どんよりとした空気が流れていて、重い空気がこの場を包んでいる。
人気は、全くない。ダム沿い策にはメンタルクリニックセンターや「命は大切なもの、迷ったらここに相談してください」などとぶっそうな看板が時折立ち並んでいた。
ここで、戦うんだ……。
緊張するなぁ。
緊張を少しでも和らげて大きく深呼吸をして、また目の前に視線を向ける。
そこに──一匹の動物が現れた。
「きゅぅ~~きゅっっきゅぅぅぅぅ~~ん」
両手で持てるくらいのサイズ。
まるで子犬みたいな外見の白くて、モフモフした生き物。なんかかわいい、けど……何かを感じる。
得体のしれない、何か──。
「凛音、それ──かわいいですの! どうしたんですの?」
ミトラが、目を輝かせながら詰め寄ってきた。
「なんか、目の前にいた」
「見たことないですの! ここにしかいない犬でしょうか? 本当に珍しくて、相当運に恵まれないと遭えないとか」
「でも、今だけじゃなくて何度か見かけたよ」
そう、バスでこっちまで移動しているとき──物陰から崖の上から、何回かこっちを見ていた。
まるで、私たちをじっと観察しているかのように。
ミトラは、体育すわりでかがんで、その生き物をじっと見つめている。
「かわいいワンちゃんですの~~」
そして、そう言ってミトラはその生き物をぎゅっと抱きかかえて頭をなでなでする。
犬……なのかな?
「見たことがないけど、大丈夫なの?」
「大丈夫ですわ! 凛音は心配性ですの。ほれほれ~~」
無邪気にはしゃぐミトラ。確かにかわいいけど、なんか変な気配がする……。
この生き物を見ていると、なぜだかわからないけど、胸がざわつくのだ。何か、尋常じゃない──大きな力を持っているような感じ。
それがなぜかはわからない。
本能が、そう感じているのだろうか。
「わかったよ」
ぎこちなく、生き物をなでなでする。生き物は、嬉しがっているかのように背伸びをして、「きゅぅぅ~~ん」と鳴き声を上げた。
「この子、凛音にとってもなついてますの」
そして、私はこの子を地面に離す。
生き物は、再び鳴き声を上げた後、森の方へと走っていった。
「元気で過ごすんですの~~」
何だったのかな。本当に見たことがないし……もしかして、今回の事件何か関係が──。
そんなことを考えていると、前の方から物音が出始めた。
と言っても、前はダムで水しかないわけだが。
一瞬で、この場がざわめきだす。周囲の人たちは、おもむろに自分の武器を取り出し、戦うか前になる。
「なんだなんだ??」
「来るぞ」
「相当強そうだな」
周囲の視線が、ダム湖に吸い込まれた。
準備しないと──ごくりと息を飲んで、構える。みんなの前で半妖になるのは恥ずかしいけれど、みんな命がけで戦うってのに私だけ逃げるなんてできない。
それに、ミトラからこの人たちは比較的寛容で半妖の子でも受け入れてくれると言っていた。
いつでも、半妖になれるように構える。そして──。
グォォォォォォォォォォォォォォォォ~~。
この場一帯にとどろくような大声。
こっちの人達も戦いの時間となったのがわかったのか、慌ただしくなった。
「私も戦うから、みんな行くわよ」
そして、ブクブクとダム湖から泡のようなものが出てくる。いよいよ戦いが始まるんだ……。
そう感じたその時。
突然、ダムが紫に光り出す。思わず目をつぶると、すぐにダムは元に戻った。
何か、妖怪が出てきたのかと思ったが出てこない
何なのか、周囲をも渡しても何かが現れたわけでもない。
キョロキョロと周囲を見渡したその時、異変が起きた。
「おい高和、何やってるんだよ」
それは、敵ではなく見方からだった。
斧を持った、高和らしき男。ぽかんと口を開け表情を失う。彼はダム湖をじっと見つめながら歩き出し、なんと策を乗り越え、ダムに飛び込もうとしているのだ。
周囲の人たちが慌てて止めようとするが、力が強いのかなかなか引き戻せない。
それだけじゃない。
「……様が読んでる、行かなければ」
次は、弓矢を持った女の人。同じように表情を失って男の人のように柵に乗りかかり始めた。
フラフラとしていて、うつろな視線、じっと遠くを見ている。
確実に、正気じゃないというのがわかる。
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