第28話 活動

「最近、多いんだよな。今までおとなしかった妖怪が、急に狂暴化して人を襲うようになるパターン」

「そうなんですか──」


「ええ。私も最近このパターンの繰り返しだったわ。確実に何かあるわね」


 御影が腕を組んで話す。私も知らなかった。話によると、妖怪が現れている頻度がここ数年で数倍に増加しているだとか。


「多分、今までにない何かが起きてるんだ。ったく、ここまで多くなるとそれを隠すのだって精一杯なんだよ。いずれバレるぞこれ──」


 怪訝な表情で愚痴る富子さん。確か、貞明さんもそんな事言ってたよね。

 おじさんはチャイを飲み干し、じっと富子さんを見る。


「この前は人がいないからよかったものの、人が多い休日に現れたら大惨事になるだろう。だから、退治してほしいんだ。お願い、出来るか?」


 富子さんは親指を私に向けながら言葉を返した。


「任せろ。今日は連れが二人いる。茶髪の方は妖怪省でも相当な実力者だし、黒髪の方は陰キャっぽい女の子に見えるけど、素質がある。安心していい」


 陰キャは余計だ。ちょっとイラっとした。本当だけど。



 おじさんは安心したのか、ほっと息をなでおろす。


「わかった。よろしく頼むよ──」


 それから、私達は湖の状況を聞いた。何でもここ数日、夜地響きが湖の方からするとか──。


「マジかよ! 確かに、以前と比べて妖気が強いな──」

「昨日は、山荘がミシッと揺れるくらい強いものでした。日に日に増して、ひどくなっているんです」


 言葉の口調からおじさんが焦っているのがわかる。富子さんは、私の肩を掴み、言葉を返した。


「わかった。今すぐ手を打とう」


 そして私達はこの後の段取りについて話し始めた。


 数十分後。日が傾きつつ時間になり、私達は行動に出た。

 湖畔でバーベキューをしたり、テントを立てている人たち。

 彼らに、富子さんとおじさんが話しかける。


「すいません。急遽湖の整備をしなきゃならなくなって。他のキャンプ場案内しますから──」


 富子さんはさっきまでのぶっきらぼうな表情から一転、丁寧な言葉使いになり、キャンパーたちにキャンプ場の地図を渡し、頭を下げた。

 キャンパーたちはいきなりの言葉に戸惑いながらも、何とか納得してくれた。

 案内した順に、みんなキャンプを片付けていく。彼らには悪いけれど、下手をしたら妖怪に食い殺される可能性がある。仕方がない。


 おじさんも、一人一人丁寧に代替地の案内をして、頭を下げる。私は──富子さんの話を聞いている人にただ案内の紙を渡していた。

 富子さんは私の壊滅的ともいえるコミュ力を知っていたので、何も要求しなかったのだろう。

 湖の人たちは残念そうな表情で身の回りの物を片付け、帰っていく。仕方がないとはいえ、罪悪感を感じてしまう。

 そしてしばらく時間が経つと、ほとんどの人たちはこの場を去ってくれた。

 後はおじさんが説得しているグループだけ。

 しかし──。


「何でてめぇの指図なんて受けなきゃいけねぇんだよ!」


 一人──じゃなかった。一グループ、いうことを聞かない人たちがいる。湖のほとりでバーベキューをしていたグループだ

 みんな髪を染めていたり、ヤンキーっぽい髪形をしていたり。いかにもいうことを聞かなそうなやつらだ。

 粘り強く管理人の人が帰るようにと説得を続けているが、効果はなさそう。そして一人の人が管理人に突っかかり、突き飛ばした。


「うるっせぇ! こっちは遊びてぇんだよ!」


 怒鳴りつけたのは金髪で鶏のとさかのような髪型をした男。顔を真っ赤にしていることから、酒が入っているのがわかる。


「そう言われましても、危険なんですって」

「うるっせぇぇ!」 

「そうだそうだ!」


 トサカの男に乗じて他のキャンプしてた人たちもヤジを飛ばしてくる。黒髪のリーゼントの男に、金髪でピアスを付けたギャルっぽい人。なんていうか、ヤンキーっぽい人がいっぱいいるグループだ。

 そんな光景を見て、富子がボソッと話しかけてきた。


「たまにいるよな。言っても話聞かないやつ」

「……そう、なんですか」


 そう言っている間にも管理人は何とか交渉を続ける。当然、ヤンキーたちは言うことを聞かない。

 管理人も一歩も引かない。話はヒートアップしていき、そして──。


「このクソ野郎!!」


 私にビール瓶を投げつけてきたのだ。突然のことだったので、よけきれず、こめかみの部分に当たってしまう。


「ちょっと、大丈夫?」


 当たったこめかみの部分を抑え、うずくまる私。御影が私の元により、心配そうに話しかけてきた。


「……大丈夫だよ」


 それを見て富子が男たちをにらみつけた。


「おいてめぇ。関係がないやつまで巻き込んでんじゃねー」

「ハァ──ッ? てめぇだってこのクソ野郎の手先じゃねぇかよ」

「そうだそうだ。俺達はぜってぇ帰らねぇからな!」

「そうだよ。自由だろうが。お前たちが帰れ!」


 そして後ろでバーベキューを楽しんでいる人たちもヤジを飛ばしてきた。何というか、話が通じない。管理人も、根負けした感じだ。困り果てた表情でため息をつく。

 そしてあきらめた様な表情で最後に言い放った。


「わかりました。しかし、何かあったら荷物を捨てでも逃げてくださいね……」

「はいはい。わかりましたわかりましたよ~~」


 トサカの男は缶ビールを片手にめんどくさそうな口調で言葉を返して来る。

 もう、何を言ってもいうことを聞かないのだろう。


「何があっても、知らねぇからな」


 富子も、あきれ果てていた。紆余曲折あったが、バーベキュー組以外はすべて帰った。

 ここにいるのは彼らと、私達だけ。

 ビール瓶が当たったところ。軽く出血している。傷口部分を手で押さえていると、御影がやって来た。


「ほら、ティッシュ。これで拭いて」

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