第26話 富子さんと、御影さん


 そして次の週、富子さんと会う日がやって来た。

 まだラッシュ時が終わったころの混んでいる湘南新宿ラインや中央線を乗り継ぐこと一時間半。富子さんの住処がある東小金井に到着。

 もらった地図の通り、駅からしばらく南に道を歩いてくと、その家はあった。

 ひざ下くらいのレンガと生垣に囲まれたお屋敷のような家。建物全体が緑に覆われていて、とても一人で住んでいるようには思えない家だ。


 そして、家の庭に入った時、横から声が聞こえた。


「あ、てめぇ。何だ」


 びくっとぶっきらぼうな言葉に思わず一歩引いてしまうが、ごくりと息を飲んで、勇気を出して言葉を返す。


「凛音ですっ。その──愛咲凛音。紹介できました。ミトラ……さんの紹介です」


 ラフな水色のシャツに、だぼだぼのピンクのズボン。

 背丈は、百五十センチくらい。ピンク色の長いボサボサの髪。寝ぼけたような目つき、目もとには目ヤニの女の人。


 庭で雑草をむしっていたようだ。

 外見だけで見れば、小学生に見える。

 しかし、目線からくる達観したような、くたびれたような目つきが彼女がそれなりの年齢だということを感じさせている。

 なんて言うか、明らかに雰囲気が子供じゃない。そしてその人がこっちを向き、目が合う形になってしまう。


 じーっと、私を見る。


「あ? なんだお前」


 けげんな表情でにらみつけてきた女の人に、私はぎょっとして固まってしまう。


「あ、愛咲凛音──です」

「ああ、あんたが凛音ちゃん。私が日菜富子。よろしくな」


 この人が富子さんか。約束の人だ。変な印象を持たれないようにしないと──。


「まあ、立ち話もなんだから、入りなよ」


 そう言って富子さんは玄関を開け、私を手招きする。

 突然の事態に戸惑ってしまうが、行かないわけのも行かず、私は中に入って行った。

 ガチャリと玄関を開ける。

 入口には運動で使いそうなスニーカーに、灰色っぽい色のサンダル、長靴。

 どれも小学生が使っているような小さいサイズ。

 富子さんは一人で暮らしているというのが理解できた。


「こっちだ」


 富子さんは靴を脱いで家の中へ。

 私は靴を脱いでそろえると、後を追うように奥へと足を運ぶ。

 木でできた廊下は、薄暗い。その廊下を進んで二つ目の右のドアを富子さんは空け、中に入る。


「この部屋だ。来い」

「は、はい……」


 早足で富子さんが入った部屋に私も入る。

 窓は雨戸で閉ざされている、おかげで部屋は夜であるかのように薄暗い。

 何個かのディスプレイから照らされる薄暗い光に富子さんの体が照らされる。

 部屋の中は、廊下や玄関の様に質素で生活感がないってくらいものが無いのとは対照的に、かなりごちゃごちゃとしていて物にあふれていた。

 何が入ってるかわからない小さな冷蔵庫に、どこかの観光地や遺跡で手に入れたかどうかわからない変な形状をしたガラクタ。

 椅子の隣にはいろいろは本がタワーのように積み上げられている。

 各地の都市伝説を取り上げた本や、誰がどう見てもトンデモ本としか思えない陰謀論の書籍。


 そして、ディスプレイの前の座布団に一人の女性が座っていた。


「ああ、あんたが凛音って子?」

「は、はい」


 座布団から立ち上がり、興味津々そうな表情でこっちを見てくる。

 ちょっとだけ釣り目でモデルのように上品で整った顔つき。頭の右側に白い花飾り。

 ほんのりと髪を茶色に染めていて、肩位まで髪を下ろしている。

 すらっとしたスレンダーな体系、でも足や太ももをよく見てみるとしっかりと筋肉が張っているのがわかる。


 そしてその服装に、思わずぎょっとした。

 大胆に肩を出した白いベアトップ。下は、太ももがほとんど露出したGパンの生地のタンクトップ。すごいセクシー……。

 暑い季節とはいえ腕も肩も太ももも全部露出させている、私ではありえないパリピで刺激的なスタイルだ。

 ミトラといい、体をこんなに露出させて恥ずかしく何のだろうか。



「私は御影。同じ半妖同士よろしくね」


 御影さんはにこっと笑って手を出して来た。私は恐る恐る手を出して握手をした。


「よろしく、お願いします」

「もう硬いわね。一緒に仕事する仲間なんだから、仲良くしましょう」

「はあ……分かりました」


 そんなこと言ってもなあ。わかってはいるけど、どうしても緊張して気の抜けた返事になってしまう。


「じゃあ、本題に入るぞ」


 富子さんがパンと手を叩いて話に入ってきた。どう反応すればいいかわからない魔だったから、助かった。


 ごみごみしたところのマルチディスプレイの前の椅子に富子は座り込み、背もたれに寄りかかる。


「そこの座布団、座んな」

「は、はい」


 隣にある小さい冷蔵庫から五百mℓのビール缶を出し、ぐびぐびと飲み始めた。

 そしてそれを数十秒で一気飲みをして大きくゲップする。私は思わずポケットのスマホを確認する。やっぱり、今午前十時だよね。

 そして飲み干したビール缶を横に置いて口を拭うと、話を始めた。


「じゃあ、手短に言うわ。凛音ちゃんが妖怪と戦っている様子を見て、最終判断をする。それだけ」


 その言葉に、私はきょとんとする。


「それで、決めるんですか?」

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