第24話 予想通りの、ミトラの家
「え~~と。住所はここでいいんだよね」
私はミトラから来たメールを頼りに周囲を確認。周囲には営業回りのサラリーマンや、ベビーカーを押している主婦の人。今日は日曜日。七里ヶ浜から江ノ電で移動して駅へ、そして住宅街をミトラから渡された地図を頼りに歩いている。
理由は一つ。ミトラへのお見舞い。先日の印旛沼での激闘、何とか勝利したが、こっちも無傷ではなかった。妖怪省の人たち。ほとんどがけがを負い、もう戦いたくないと言いだすひともいるほど。
それだけでなく、トラウマになってしまった人もいるのだとか。ミトラにいたっては膝に矢を受けてしまい、骨が折れているそうだ。
幸い三週間ほどで治るらしいが、やはり放っておけない。怪我をしたのは、私の責任でもあるのだから。
メールで、お見舞いがしたい。家を教えてくれと朝送ったら、既読が付いたのが昼過ぎごろ。返ってきたのはその五分後だ。夜更かししていたな……。
小学校の近くにある細い道沿いのアパート。メールにある住所。白い建物。よし。
ピンポンとベルを鳴らし、数秒ほど。
「誰ですの?」
「私だよ。開けて」
私がしゃべってすぐ、タッタッと歩く音がするとドアが開く。その姿に、少し驚いた。目には目ヤニ。あくびをして目をこすりながらミトラは出て来た。
どこかみずほらしい姿。
外で会う時とは違い、黄色いラフな寝間着姿。ストレートロングだった髪は、手入れされていなくてボサボサ。これはこれで、新鮮でかわいいと思う。
「凛音。おはようですの」
「おはようって、もう3時なんだけど……」
ため息をついて呆れる。こんな時間まで寝間着って。どんだけぐーたらな生活習慣していたんだ。
「お見舞い。来たよ」
するとミトラの表情が変わる。寝ぼけた表情からほうっと笑みが浮び始めた。
「凛音──。ありがとうですの!」
私にぎゅっと抱きついてくる。思わず顔が赤くなってしまう。玄関先で、人が見ているんだけど……。
「おいおい。外だぞここ」
「いいじゃないですの。とりあえず、中に上がってですの」
ミトラは機嫌よさそうに中へと私を手招き。私は言葉通り、靴を抜いて部屋の中へ入って行く。
中は、普通のワンルームの部屋。意外と物が少なく、質素な部屋。ソファーにぬいぐるみが置いてある以外、特に何もない。もっと、フリフリで女の子らしい部屋を想像していたのだが、意外だった。
「とりあえず、お茶を出すのでゆっくりするですの」
足を怪我しているため、ぎこちない片足だけの歩き方でキッチンへ向かうミトラ。私はミトラが冷蔵庫を開けたタイミングでミトラに近づき、言葉を返す。
「お前けが人だろ。無理すんな」
そしてちらりと冷蔵庫の中が視界に入ってしまった。お茶のペットボトル、飲みかけのジュース。エクレアなどのお菓子類。私はため息をついて問いただす。
「ごはん、ちゃんと食べてる?」
ミトラは笑顔を浮かべたまま答えない、悪い予感がした私。
「ちょっと、見せてもらっていい?」
私は部屋のゴミ箱を見てみる。
ポテチの袋、カップ麺やコンビニのチキンのゴミ。キッチンの方は、空っぽ、料理をしている形跡は全くない。
……一応聞いておこう。
「食生活、どんな感じ?」
「失礼な。ちゃんと食べてますわ。ポテチ、ケーキ。コンビニのチキンとコロッケ。カップ麺──」
「ひどい。ジャンク飯のフルコースじゃないか」
私は思わず額に手を当てため息をつく。そのうち病気になるぞ……。
「だって、料理とか経験ないんですもの。毎日なんて、面倒なんですもの。──ふぅ」
ぷんすかと怒り出すミトラ。まあ、予想通りだったな、特に驚きはない。
仕方がない。
「ミトラ。ちょっとそこにいて」
「どうしたのですか?」
「買い出し。もう見ていられないから」
そして私は近くにあるスーパーへ。野菜や豆腐、青魚など、ミトラが食べていないであろう食材を中心に買う。それも数日分。帰ってきてから、調理開始。ミトラを隣に呼び、簡単に料理の仕方を教える。
どうせ野菜をとっていないだろうから、それを考慮したメニューにした。
三日分くらい作ったおかげで、完成したときにはすっかり夕方になってしまった。
「明日用、目の前にある野菜炒めと焼き魚。明後日の夜は奥にあるレバーとサラダ。豆腐……」
「分かりましたの」
そして食事。焼いたサバをみりんで味付けしたもの。間に合わせで作った生野菜のサラダ。上にはゆで卵が乗っている。
準備が終わったころに丁度良くご飯も炊けた。2人分よそって、後はラップに1一食分詰めて冷蔵庫へ。これならしばらくはご飯を炊かなくても済む。
「凛音。準備出来ましたわ」
ミトラが準備をしてくれたようで。ようやく食事の時間となる。いっぱい料理を作っていたから、私も疲れちゃった。
ミトラ。サバみりんを一口入れるなり、彼女の瞳がきらりと輝いた。
「凛音の料理。とってもおいしいですわ!!」
「ありがとう」
ミトラは満面の笑みで答える。それを見ているだけで、心の底から安心して、ほっとする気分になった。
そしてサラダやごはんにも手を付けていく。
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