第16話 ようやく、そして休憩
胸のあたりに感じている妖力を感じ。それを全身へと広げるようにイメージ。
やってみてしばらく。なんとなくだけど、その冷たい力が大きくなっていくような感覚に包まれた。力を大きくすると、体が冷えていくような感覚がする。
今度は、それを元に戻していく。いったん息継ぎをしてから、全身にまとっている冷たい力を胸のあたりに閉じ込めるようなイメージ。
それを何回か繰り返す。
力を大きく、力を小さく──。
身体の芯が、冷えていくような感覚がする。
イケそうだ。もうちょっと力を強くしてみよう。
再び、妖力の塊が大きくなっていくようなイメージを頭の中で思い浮かべる。
少しずつ。体全体を包み込んで、体を冷やすかのように──。
体全体が、冷たい。というか氷におおわれているかのようだ。
薄目を開けて周囲を確認。気付いた、ちがう本当に周囲が凍っている。
何と、周囲のプールの水が凍り付き始めたのだった。突然の事態にあたふたしていると、ミトラがやってきて氷に手を触れる。
ミトラは両手から妖力を繰り出す。そこから暖かい力を出して、すぐに氷を溶かし始める。
そして周囲にある氷はあっという間に消滅したのだった。。
ふう──。思わず息をなでおろす。
何とかごまかしきれた。
するとミトラは私をジト目で見ながら、指を胸元でツンツンしてくる。
「凛音、ここ一般の人も利用しますの。私も、凛音がうまくコントロールしきれない予想はしたいましたが、ごまかすにも限界がありますわ……」
「ご、ごめん……」
しょんぼりしてしまう。本当にできるのかなって後ろ向きな発想が思考を包んでいく。
パン──。
ミトラが手を叩いた。そして、にっこりと笑顔を作って私の肩を掴む。
「一度、私がお手本を見せた方が良くて?」
「じゃあ、いい?」
渋々首を縦に振ると、ミトラは両手を広げて深呼吸をする。
そして、ピョンと飛び上がって水中へと潜っていった。
水中にいるミトラが、笑みを浮かべながらこっちに視線を向けた後、目をつぶって水の中に身を任せる。
ミトラから、暖かい力のような物を感じ始める。
優しくて──淡い感覚。
自然体で、妖力をしっかり制御しているのだろう。
すごいな──。
それもそうなんだけど、今のミトラ。
とってもきれい。青い髪、女の私から見ても綺麗だと思える長身で、スタイルが良いモデルのような体つき。
あまりにも綺麗で、ずっとミトラを見てしまう。胸がどきどきして、ミトラを必要以上に意識してしまう。
まるで本物の人魚のようだ。
私とは違う、美人という言葉を体現したような体。
見入っていると、ミトラと目が合う。ミトラは私を見てスマイルを作る。
思わず、胸がキュンとなる。その姿に見入っていると、ミトラはざぶんと水面から顔を出し、立ちあがった。
「まあ、こんな感じですわ。体を自然体にして、妖力を体全体にいきわたらせるのですわ」
「う、うん……」
「凛音なら大丈夫です。練習すれば、絶対にできるようにできますの」
そう言ってミトラは首を傾ける。ミトラが笑顔でそう言ってくれると、気分が前向きになって出来るような気になってくる。
「もう一回、やってみるよ」
そう言って私は大きく息を吸って、もう一度水の中へと入って行く。
水中に入って、力を抜く。水に体を預けるかのように。
プカプカ浮く中で、もう一度胸のあたりに感じている、小さな冷たい力のような物がある。
それを意識して、意識を集中させる。
身体がその冷たい力に満たされていく。
力が、強すぎないように──弱すぎないように──体の中で制御する。
すごい神経を使う。
けれど、これができるようにならなかったら──琴美を助けられない。
少しずつ、分かるようになってきた。
息継ぎのために、立ち上がって水中から顔を出す。
「ふぅ──」
そしてもう一度水中に潜り込んでもう一度──。
それを十数回ほど繰り返す。
何度か繰り返したおかげで、要領がわかってきた。
「ふう、何とか出来るようになりましたの」
「うん」
ふぅ──。どうにかミトラからも、お墨付きをもらった。
それにしてもさっきから息を止めて、力を制御して。
夢中だったから気が付かなかったが、体に疲れがたまっていた。
大きく息を吐いて、肩を落とす。
ミトラも私の様子に気が付いたのか、声をかけてきた。
「疲れた様なので、いったん休憩にしましょうか」
私たちは一端プールから上がり、横になるタイプの白いベンチに座る。
ミトラがにこっと笑顔を向けて、質問してきた。かわいい……。
「凛音、何か飲みたいですの?」
「じゃあラムネでいいや」
「じゃあ買って来ますわ」
「あ、ちょ、ちょっと──」
行っちゃった。独りぼっちになってしまった。
一人なのはいつものことだから慣れっこなのだが、こんな陽キャのパリピがそこら中にあふれている空間。
初めての感覚、心が不安に包まれる。
そんな感じでびくびくしていると、やってきてしまった。
「お──かわいい女の子だ。一緒に泳がない?」
思わず背中がピクリと動く。まさか、こんな時に──、いやミトラがいなくなった瞬間を待ち構えてたんだろうか。
一人は、茶髪で髪の長い男。筋肉質で長身。
もう一人は金髪でツンツン頭。ちょっと腹が出た私と同じくらいの身長の男。
いかにもチャラいナンパ師といった感じだ。
私はしどろもどろになりながらも、手をあわあわさせて断りを入れる。
「すいません。私、連れがいるんで──」
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