第15話 リラックスして、力を──

「公衆の場で言うかな、人のスリーサイズ」


 全くだ。いくら女子更衣室とはいえひどすぎる。結構気にしてるんだぞ。目立つし。

 思わず、うつむいて複雑そうな表情になっていると、ミトラは何かを察したのか、フッと微笑を作って言葉を返す。


「水着が嫌いなのと、何か関係が?」


「正直、嬉しくない」



 私はこのスタイルゆえの嫌な思い出を思い出し、うつむいてしまう。そして視線を下に向けたまま、その悩みを打ち明けた。


「だって、みんな見てくるんだよ、男子とか。特に水着になると、ほとんど全員胸をじろじろ見てくるから、恥ずかしい。女子だって、『うらやましい』とか『スタイルいい』とか──」


 琴美とかも、スタイル良かったし男の人から言い寄られていた。私とは違って美人だし。

 でも、うまく煙に巻くのがうまかった。


 私は、琴美からも『スタイル抜群』とか言われたけどそんな技術は持っていない。


「それで、ナンパされたり、口説かれるんだよ、一人になった瞬間男の人が寄ってきて『君、かわいいね』とか『一緒に泳ごうよ』とか言われて、……それで、水着を着るのが、イヤになっちゃった」


 下を見て、コクリと頷いた。

 思い出すだけでネガティブな気持ちになってしまう。


 この体つきは、人見知りに私に対してとても酷だ。強烈に目立って視線を集めてしまうのだ。


 ミトラは理解してくれたのか、額に手を当てため息をついて言葉を返して来る。


「──わかりましたわ。私が隣にいて変な虫から凛音を守ります。それなら、いいですわね」


「……わかったよ」


 青い髪で、周囲からの受けもいいけど、簡単に男にホイホイついて行ったりはしていない。

 営業用のスマイルをして、しっかりと断っている。


 明るくて、軽いように見えるがガードは意外と硬いのだ。


 こいつと一緒にいて、それはなんとなくだけどわかっている。

 だから、信じた。


 そしてミトラがクイクイと手招きするようなジェスチャーをして歩き出す。

 私は恐る恐るついていった。


 それから、更衣室を抜けてプールへ。


 夜なのに昼間と変わらない明るさ。

 ヤシの実をはじめとした常夏を感じさせる植物の数々。


 まるで南国のリゾート地にあるような横にある椅子に白くて丸い机。


 奥には、波打つプール。


「うん、おしゃれですわね」


 ミトラは、機嫌よく周囲を興味津々そうに見ていた。まるで、南太平洋やハワイのビーチに来た気分。

 行ったことないけど。

 広くて、おしゃれな雰囲気で、色々な人がいる。


 サングラスをかけている、毛深い男の人。

 明らかに陽キャそうで、五人くらいのグループではしゃいでいる女の子。


 別の女の子のグループを口説いている金髪で、ブーメランパンツの男の人。


「君、かわいいね~~、いっしょに飲まない?」


 茶髪でチョココロネみたいな髪をした女の人が、嬉しそうに肩を組んで言葉を返して来る。


「いいじゃんいいじゃん。でも、お持ち帰りはさせないからね」


 なんて言うか、今まで生きてきた世界と全く違う。

 パリピがいっぱい……なんだか不安になってきた。


 思わず、足が震えてしまう。


 そんなたじろいでいる私の手を、ミトラが優しくぎゅっと握った。


「そんなに怯えることないですわ。さあ、行きますわ」


 ミトラがそう言って、にっこりと笑う。思わず、顔を赤くなって、胸がドクンドクンと高鳴る。


 大きなプールに入り、人気の少ない端っこのエリアへ。


「ここなら人がいないですわ。さあ、行きましょ」


 ミトラが先に梯子を下りてプールの中へ。私もそれに続く。


「プール、気持ちいいですわ~~」


 ミトラはプールに入るなりプカプカと体を浮かばせ、クラゲのように動いている。

 私も、水に入るとミトラの元に行く。


「じゃ早速、水の中に入って妖力を使って見て下さいな」


「どういうふうに?」


 恥ずかしいけど、うまく力を使えないからこうしてミトラに教えをこいているのだ。

 ミトラは、人差し指を顎に当てじーっと考えるた後言葉を返す。


 私は、ミトラの前に立ち準備を始めた。


「先ずは、水中に入って全身の力を抜いてください。そして神経を集中させます。目をつぶりながらも、心の中でもう一つの目が開いている感じ。集中した意識の先端に、自分の心の奥にある力を吹き込んでいくような感触」


 ミトラの言葉を、集中して聞く。目をつぶって、水中に入ろうとする。

 そして──。


「後は、シュゥゥッッ──って体中に力をみなぎらせてサッと妖力を全身にいきわたらせてバーンと力を出せばいけますわ!」


「おい……」


 ミトラは、こういうやつだった。勢い任せで、考えるより感覚で行動するタイプだった。

 すぐにミトラの方を向く。ため息をした後、突っ込んだ。


「それじゃあわからないよ」


「ですから、シュゥゥッッ──って体中に力をみなぎらせてサッと妖力を全身にいきわたらせてバーンと力を出すのですわ」


「具体的に?」


「感覚的なものです。何回もやればわかります。大体凛音はやってもいないのに口ばっかりですの」


 そう言ってミトラは顔を膨らませる。


 それもそうだ。やる前からあーだこーだ言っても始まらない。

 一度やってみよう。そうすれば、何か気づくことだってある。


 私は勢いよくジャンプをした後、頭のてっぺんまで水中に身を投げる。全身水につかった後水中の浮力に身を任せて体を集中させる。


 体の力を抜いて、リラックス。ブクブクと息を吐いて──。

 胸のあたりに、冷たくて大きな力のような物を感じる。恐らくこれが、妖力だろう。


 この前は、この力をうまく制御できなかった。だから、あの人が傷つくのを止めることができなかった。


 もう、あんな思いは絶対にさせない。

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