第14話 初めての、ナイトプール
暑い初夏の日。学校が終わった後の放課後。
夜なのに昼間と変わらない明るさ。
ヤシの実をはじめとした常夏を感じさせる植物の数々。
まるで南国のリゾート地にあるような横にある椅子に白くて丸い机。
奥には、波打つプール。
「うん、おしゃれですわね」
「ナイトプールですわ。今日はここで、妖力をコントロールする練習をします」
私たちは、六本木のナイトプールにいた。
本来両親のいない貧乏学生では、到底手の届かない入場料。
しかし、妖怪省から補助が出て、2人ともただで入れた。
まるで、別世界に来たような世界に思わず目を丸くする。
しかし……。
先日の江の島での戦い。私は妖怪相手に勝利を収めたものの、戦いはお粗末極まりなかった。
妖力をコントロールしきれず、危ない戦いとなってしまった。
帰り際、ミトラと別れる前に言われた。
「もっと強い妖怪が現れたら、凛音の命はないですわ」
……何も言えなかった。
あの戦い、私は妖力のごり押しで勝ったようなものだ。
強い相手には、こうはいかないだろう。
だから、強くなりたい。相談した結果がこれだ。
体の妖力をコントロールするには、集中力が必要となる。それには水中が最適なのだとか。そして、放課後ということで六本木にあるナイトプールとなった。費用は妖怪省もちなので懐も痛まない。
それは分かるんだが……。
人より2回りくらい大きな胸を抑え、顔を赤くして言う。
「何で、こんな水着着なきゃいけないの? 恥ずかしい……」
白を基調とした、フリフリがついている水着。今までつけてきた水着よりも、露出度も高く体のラインがくっきりと出ていて恥ずかしい。
胸の谷間がくっきりと見えてしまっているし、下もお尻もラインがくっきりと出ている。
体のライン全体が見え過ぎていて、まるで見せびらかしているようだ。
人見知りの私にとって、あまりに身過激な水着。
どうしてこんなことになったのか、それは更衣室でのことだった。
水着を恐る恐る着替え、すでに水着を着けたミトラと対面する。
水色を基調としたビキニに、ミトラの持つ大人っぽいスタイルと色気がとてもマッチしていた。引き締まった筋肉と、色っぽい柔らかい丸みを両立させている。
何というか、モデル顔負けという感じだ。
これからグラビアの撮影ということになっていたとしても不自然ではない。美人かつ、明るい表情。
思わず見とれてしまうほどの綺麗さだ。私は、ミトラの引き立て役なのか?
ミトラは私の身体を見た瞬間、苦笑いをしながら顔をゆがませて言葉を返す。
「凛音──」
「何? 大体想像はつくけど」
「確かに適当な水着をとは言いましたが、まさかスク水だとは想像がついていませんでしたの。流石に、こういった場所でそれは……」
私は、口をとがらせて腰に手を当てて言葉を返す。そう、私が持ってきた水着は──中学生時代に使っていたスクール水着だ。
「んなこと言われたってさ、ミトラがプールへ行くって言いだしたの前日の夜だよ。そんな時間にいきなり水着を用意してって言われたってどうにかなるわけないじゃん」
昨日の夜10時だ。いきなり私の妖力のコントロールのトレーニングをしたい。明日の放課後プールに行くから水着の用意をしておいてと言われたのだ。
夜遅くに突然言われたところでどうにかなるわけでもなく、間に合わせに高校時代に授業で使っていたスク水を引っ張り出して来たのだ。
「普通、友達と行くときに備えて水着を何着か──ってあっ」
ミトラは口を手に当てて何かに気付いた。その通りだよ。
「私あんまり友達いなかったし、ミトラと違ってそれ用の水着なんて買わないし」
だから、水泳に授業で使うスク水以外水着なんて持っていない。必然的にこれしか選択肢がなくなる。
おまけにこのスク水、一年生の時にサイズを合わせてそのままになっているせいかサイズが合っていない。
若干きつい。特に胸回りとお尻回り。凄いぱつんぱつん。
身体が押さえつけられてるような感触が、とても違和感がある。
ミトラは、ため息をついた後私の肩を掴む。
「もう──ここレンタル用の水着があるのでそれで行きましょう」
それから、私は着替えなおした後受付に戻ってこんな雰囲気のプールでも違和感のないような水着を選んだ。
なのだが、ミトラが今着ている水着にしてほしいとごねてきたのだ。この水着じゃないと、お金は出さないと。仕方がなしに、私はこれを選んだ。私のお金では、全く手が出せない場所だったからだ。
恥ずかしがりながら着替えた後、ミトラは満々の笑みを浮かべてパンと手を叩く。
「凛音。とってもかわいらしくて似合ってますわ」
「似合ってるって、恥ずかしいんだよ、この水着」
ミトラが選んだのは、何と白を基調をしたフリフリのあるビキニ。
フリフリの紐は、私もかわいいなと思ったのだが、つけてみて思わず、顔を赤面させてしまう。体のラインが見え見え……。
「恥ずかしい……」
「せめて上と下がつながってるタイプとか、下はズボンタイプの体のラインが浮き出ないタイプとかにしてほしかった」
「いいじゃありませんか」
ミトラは冷静そうな表情になり、私の胸に視線を送る。
そしてビキニから見える胸の谷間を指さし──。
「91-60-89」
その瞬間、私は慌ててミトラの口を両手でふさぐ。
「公衆の場で言うかな、人のスリーサイズ」
全くだ。いくら女子更衣室とはいえひどすぎる。結構気にしてるんだぞ。目立つし。
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