第6話 妖怪について
「ヤッホー凛音」
「何……」
警戒した目つきで言葉を返す。悔しいが、こいつの笑顔は本当にかわいくて素敵だ。太陽みたいに、周囲を明るくする力があるように感じる。
「この後、一緒にここから抜け出して、2人でご飯食べません?」
一緒ご飯……。どうせ私に、一緒に食べる友達なんていない。でも……。
「一緒は、イヤ。今は、一人になりたい」
申し訳なさそうな表情で断った。まだ、気持ちの整理ができていない。今は、一人で心を落ち着けたりする時間が欲しいのだ。その言葉に、ミトラはきょとんと私をじっと見つめてくる。そして少し首を傾け、ほほ笑んでから言葉を返した。
「わかりましたわ。でも、こっちも今後のこと──いろいろ話したいですの。そのために転校したのですし……」
「ああ、そうか」
今後のこと。現実に引き戻された気分、私はどうなるのだろうか。
「それなら放課後、校門で待ってますの。それならいいですわね? しっかりと、これからのことをお話ししますの」
以外にもミトラはあっさりと受け入れてくれた。もっと「一緒の方いたいですの」とかウザがらみをされると思ったのだが──。とはいえ、いつかは向き合わなきゃいけないことだ。しっかりと、私のことを考えてくれるだけありがたいともいえる。
「わかった。放課後に、また会おうね」
なるほどね、果たして私はどうなるんだろうか。
それから、ミトラは特に話しかけてくることはなかった。私は、今まで通り誰ともしゃべらず机に突っ伏したり、外の景色を見たり──。
こんなことを繰り返し続けていて、クラスの中ですっかり空気になってしまっている私です。
日本史の授業をノートを取りながら聞く。平将門についてのことなどを今日はやっていた。
校庭では、一年生の子たちが楽しそうにサッカーを楽しんでいる。時々ボーっとして校庭を見たり、これから私、どうなるのだろうかとか考えたりして、どこか授業に身が入らない。
時折隣のミトラと視線が合う。ミトラは視線が合うとにこっと笑顔を作ったり、軽く手を振ったりしてくる。
にこっと笑った笑顔を見て、胸がドキドキと高鳴る。無駄に愛想がいいなこいつ──。
ミトラさん……ミトラだミトラ! なれなれしい! ぶんぶんとあいつへの想いを振り切るように首をふる。そして、授業が終わり放課後。約束の時間になった。すぐに鞄を背負って、そそくさとここから逃れるようにしてこの場から去っていく。
校門を抜け、左を向くとあの女の姿があった。
「凛音」
にっこりとした笑顔で手を振っているミトラの姿。ムッとした、警戒しているんですよーといわんばかりの表情で言葉を返した。
「で、どうするの?」
「とりあえず、凛音にこれからのことを説明する必要があるのですが──」
「ですが?」
ミトラは、どこか困った表情になりさらに話を続ける。
「これから、急いでいかなければならないところがありますの。なので──歩きながら一緒に話しましょう」
「わ、わかった」
人気の少ない住宅街の道を歩きながら、ミトラが話しかける。
「まずは──妖怪について話して、それから凛音の今の状態と、これからについて話したいと思いますの」
「わかった」
真剣な表情になり、ごくりと息を飲む。確かに、私は妖怪についてよく知らない。 あの時は急すぎてそれどころではなかったが、やはりこんなわけのわからない力、どんななものなのかしっかりと説明を受けておきたい。
ミトラは、一つの単語を口にしてから説明を始めた。
妖怪──。
全国各地で人知れず存在しては──人を食らう存在。一般の武器では傷一つつけることが出来ない、太古より存在していた化け物。
あまりの残虐さゆえ、世間一般には公開されておらず、毎年何百人という人が彼らの犠牲となっている。そして、妖怪から人間たちを守るため、妖怪退治専用の組織が日夜死闘を繰り広げている。
古代より、特別強力な力を持っていた妖怪がいて、時には何千人という犠牲を払って力を封印したものもいるという。当然戦いの中で命を落とすものもいて、中にはその遺体すら見つからなかったり、臓器をぶちまけて原形すらとどめてないような──見るも無残な姿になって発見されることもあるのだとか。
そして、ミトラが所属している組織。
「妖怪省?」
ミトラの言葉に、頭にはてなマークが浮かんだ。聞いたこともない単語。
「妖怪省という、一般の人には知られていない、秘密裏の組織があります。私も、そこに所属していますわ」
妖怪省には、ミトラのように妖力が使える「術者」がたくさんいて、彼らが秘密裏に日夜妖怪たちと死闘を繰り広げているという。次に、今の私のこと。妖怪との戦いのとき、自分も戦わなきゃ──と思ってコトリバコから力を受け取った。そのことについての説明。
「強すぎる妖怪の中には、殺し切れずにやむを得ず魂を封印した妖怪も中にはございますわ。かつて、私の親友の先祖が死闘を繰り広げて封印した雪女それが封印されていますの」
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