第7話 2人で、江の島へ

「強すぎる妖怪の中には、殺し切れずにやむを得ず魂を封印した妖怪も中にはございますわ。かつて、私の親友の先祖が死闘を繰り広げて封印した雪女」


「それが、私の力なの?」


「はい、そのコトリバコにはとある雪女の魂が込められています。大昔、人々を恐怖させ、何百人という人の犠牲と引き換えに力を封印させたという代物ですわ。そして、その力を取り込んだあなたは妖怪と人間の中間のような存在となっていますの」


 その言葉に、私は息を飲む。


「半妖体と言って、妖怪と人間の中間。特殊な状態となっていますわ。半妖体だと、妖力がある限り体を刺されたりしても体に傷が入りません。それに、切断されてもそこからまた体が復活しますの」


「確かに、生えてきたね」


 神社で妖怪と戦った時、私は一度腰から下を切断された。さすがに死を覚悟したが、また体が生えてきて──現に今は何の問題もない。


「妖怪のことについては、なんとなくわかった。それで、私はどうすればいいの?」


「凛音は、琴美さんを取り戻したいのですわよね」


「もちろん」


 琴美……引っ込み思案だった私の、ただ一人の親友。明るくて、優しくて、いつも私のことを見てくれた。力になってくれた。かけがえのない親友。彼女がいなかったら、私はどこかで折れて、引きこもりにでもなっていただろう。


 本当に、取り戻せるのだろうか。ミトラが、真剣な表情で私をじっと見つめる。


「簡潔に言わせていただきます。琴美さんを取り戻したいなら、私と一緒に行動してください」


 ミトラの話によると、ミトラは私と同じように大切な人を追って、妖怪と日夜戦いを繰り広げているそうだ。そして、その人は祇園という名前で私と外見が似ているらしい。

 だからっていきなり公衆の面前でキスなんかするなよ……。思い出して、ムスッと口を尖らせた。


「妖怪が琴美さんを直接食べずに魂だけどこかへ連れ去った。理由はわかりませんが──これだけは言えます。たとえ傷ついても、彼らと戦い続けることしか、その理由と、取り戻せるかがわからないと。私も、凛音には協力しますの。だから──一緒に戦いましょう」


 そう言って、ミトラは手を差し出してきた。私は、それにこたえようと、手を出そうとして──手を握る直前で動きを止めた。

 手が、震えている。身体が恐怖に包まれているのがわかる。


 当然だ、あんな醜い化け物に、両親を殺されて、体を真っ二つにされて──怖くないわけがない。でも、私をかばってくれた琴美は、家族たちはもっと怖かっただろう。

 私が怯えていてどうするんだ!


 大きく深呼吸をして、勇気を振り絞る。琴美を取り返す。それしか道はないなら、行くしかない。私には、突然いろいろなことを言われてわからないことだらけ。

 1人で閉じこもっていても、何もわからない。それなら、この女についていく以外にない。


「わかった、私も協力するよ」


 上ずった声でそう言うと、ミトラは優しく微笑んで言葉を返す。かわいい。


「ありがとうございますわ。これから、よろしくお願いしますの」


 これで、私たちの共闘体制が始まったわけだ。


「じゃあ私たちの初めての共同作業、行きますわ」


 そう言って、ミトラが道を再度歩き始めた。


「で、ここからどこへ行くつもりなの?」

「江の島ですわ」

「なんで? 観光に?」

「五頭龍の伝説って、しっていますの?」


 勇気を出して、コクリと頷いた。また妖怪との戦い。怖いけれど、逃げるわけにはいかない。


 私はただミトラの後ろをついて行く。歩きながら、五頭龍のことをミトラから聞かれた。

 聞いた事はある。五頭龍伝説。江の島のあたりでは、そこそこ有名な伝え話だ。この辺りにある深沢という所に、湖があった。そこには五頭龍という災いももたらす龍がいたそうな。その時に突然島が海の底から出現し、そこから天女が舞い降りた。龍はその天女にほれ込み、その想いを告白するが、天女は今までの龍の悪行を理由に断りを入れた。

 龍はそれから悪行をやめ、善い行いをするようになり、天女と結婚したという。


「なんとなくは知ってるよ。それがどうしたの?」

「最近になって、江の島の奥から、龍が現れるようになったのです。それも、人を襲うようになったと──」

「えっ? 言い伝えによると、もう人を襲わなくなったんじゃないの?」


「わかりませんの。しかし、最近ただの都市伝説でしかなかった五頭龍が突然現れ、人々を襲うケースが多発していまして──。このままでは街に襲い掛かり、大きな被害を出してしまいます。その前に、何とか食い止めないといけませんわ」


 確かに、化け物が街に出たなんてことがあったら大騒ぎだ。なんていうか、腑に落ちないところはあるものの、行かないわけにはいかない。

 ここで逃げ出したら、一生後悔すると思う


「わかった。行けばいいんでしょ」


「ありがとう、ございますわ」


 キャンパスを抜けてから七里ヶ浜駅。江ノ電で江の島に。

 ミトラはどこか楽しそうに、窓から景色や湘南の海を楽しそうに見ていた。




 ☆   ☆   ☆


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