第37話 鉄心街
「おはようございます姐さん!!」
「……おはよう」
「…?どうしましたか?姐さん」
「姐さん言うな…なんでもない」
あの後一睡も出来なかった。
朝に出会ったヨーコも変わらず飄々とした様子から俺の考えすぎだったのだろうか。
元気なアラタの挨拶が眩しい、眠い。
「さて、出発するとするか。んでお前が運転するのか?」
「いえ、部下のタケナカが護衛兼運転を、アリサワが護衛として着いてきます、2人とも挨拶しろ!」
アラタの後ろに控えていた髪を短く切りそろえた女と。長い髪1つに束ねた男が前に出る。
「うっす!昨日はリーダーを助けて頂き感謝しますぜ姐さん!あっしのほうはアリサワと言います、こっちのアホそうな男がタケナカでっせ!」
「誰がアホだ!…コホン、改めて感謝します。拙はタケナカと申します、よろしくお願いしますお嬢」
「アホじゃなけりゃ生焼けの肉食って腹壊すとかしねぇっての!」
「なにおう!!」
「これはまた…癖の強そうな2人だな」
「確かに癖は強いですが実力は俺が保証します」
「そうか、じゃあ期待しているぞ、2人とも」
「「うっす!」」
◆◆◆
この都市、アルビオンは広い。
それこそひとつの区画に森林や山がある程度に。
これはかつて別の惑星を緑化させるためのテラフォーミング計画の副産物のようなものでそれの夢の跡だ。
23区から26区はそれを最も色濃く受け継ぎ、人工の秘境とすら呼ばれる程だ
「いやぁ、リーダーが居なくなったときゃ焦りやしたよ、どうして居なくなったんでやすか?」
「それが…俺も記憶が曖昧だ。妙な匂いがしたと思ったらいつの間にやら電車の中で刃鬼に待ち伏せされていた」
「うーむ、奇妙だ。匂いで釣られるとは…たいそに美味そうな匂いだったのだろう…」
「「アホか」」
「む、違うのか」
車内は非常に賑やかだ。
3時間の長い車での移動は退屈だろうがここまで賑やかならそれもないだろう。
「そういや、姐さんの技はどこで習ったんでっせ?」
「ん?俺か?」
「いやぁ、リーダーが負かされたって聞いてどんなゴツイ女性か思ったら、そしたらそれがこんなに小さい
アリサワは楽しそうに話しかけてくる。
「ある先生に基礎を習っただけだな、あと俺はこんな見た目でも三十路だぞ?」
「「「えっ」」」
3人の声が重なる。
「あ、姐さん!!」
「お、おう」
「その柔肌の秘訣を!なにとぞ!あっしに!!」
「え、えぇっと…秘訣…?…なにも…」
「くっ…!天然か…!!……」
ふっと、さっきまでの喧騒が消える。
タケナカは車を停めハンドルから手を離しアリサワは刀を手に取る。
「…へへへ、妙な奴らのお出ましのようですぜ」
「…1つ2つ3つ4つ…拙も行くとしよう」
俺らの車を妙な車が囲むようにして停車する。
同時にアリサワとタケナカは下車した。
車から身なりの汚い武器を持った輩がゾロゾロと現れ一瞬にして囲まれる。
「………」
「姐さんとリーダーは座っててくだせぇ、あっし達が片付けやす。いくぞ、タケナカ」
「言われぬとも、アリサワ」
アリサワは逆手に抜刀し、タケナカは居合の構えを取る。そしてアリサワとタケナカは敵の群れに突っ込んで行った。
叫び声が響く。
アリサワは逆手のまま敵の足や喉を回るような剣技で切り裂いて行き。
タケナカは自らの射程範囲内に入った者を機械的に切り刻んでゆく。
「お前の言った通りだな」
「奴らはウチでも腕が良い2人です。万二一つ奴らがあれ以上の量で掛かっても勝てませんよ」
足が、腕が、耳が、頭が。
武器を振るう音がする度に体の一部と血液が飛び散り1人、また1人と減っていく。
「ギャッ…」
「うっし、あらかた片ずいたな。タケナカ!お前の方はどうだ!」
「拙の方は既に終わっている。車は逃げ出した様だな。羊飼いの練度はこんなものでは無いはずだが…奴らここらを根城にしてる山賊とやらじゃないか?」
「ここいらじゃ有り得ない話じゃねぇな、あ、姐さー!ん怪我はなかったでやすか?」
掃除でも終わったかのようにアリサワは駆け寄ってくる。
「あぁお陰様で、山賊なんて出るのか?」
「出ますぜ、山賊なんて大した言い方でやすけどチンピラと何ら変わらない奴らでさぁ。数だけは一丁前に多いですがね」
アリサワは腕を組みながら答える。
都市には32年暮らしているが俺の知らないことはまだ沢山あるらしい。
タケナカは何事も無かったように運転を再開した。
◆◆◆
「…あ…あね…姐さ〜ん。着きやしたぜ」
「…ん、んん?アリサワ…?寝てたのか俺」
「そうですぜ、ささ、行きやしょ。リーダーとタケナカは宿を取りに行ってやすぜ。あっし達は例の職人の元へ向かいましょう」
背伸びをして車を降りアリサワの後を着いて行く。
俺達は23区と24区の狭間。タケゾーの紹介状に載っていた鉄心街へとたどり着いた。
「…なんだこの匂い…」
「?どうされやした?」
「いや…卵が腐ったような匂いがする…」
「あぁ、それは硫黄の匂いってやつです。姐さん鼻が利くんですな」
「硫黄か……そういえば、タケゾーは鉄心街には傷に効く温泉が有るって言ってたな」
「今の姐さんにはピッタリってやつですな。ヘヘッ、タケゾー様も分かっていらっしゃる」
鉄心街の煉瓦造りの古い町並みはここに集まった職人たちが数年の時をかけ作り上げた物だとタケゾーに聞いている。質のいい武器を作り上げる工房の数も多く、街の人間の半数は職人と言っても過言では無いらしい。
それ故に。
「こんのアホがァ!!」
「!!?」
「そぎゃん打ち方したら斬れる物も斬れんごつなると何度言うたら分かる!!」
突然の罵声と共にガラスを突き破り男がキリモミ回転しながら建物の外に弾き飛ばされ、そのすぐ後に眼帯をつけた華奢な女が建物から出てくる。
「姐さん、あっしの後ろに」
「あ、あぁ」
耳を抑える俺の前にアリサワが立ち鞘へ手をかける。
「あ?あんやぬしら?」
「…あっし達はただの通行人ですぜ?」
「……ふむ…ならよか、最近は妙な奴らが多かけんな」
そう言うと華奢な女はガラスで血塗れの男を担ぐと建物の中に消えていった。
「……なんだったんだ今の!?」
「姐さん、あれがここの職人たちでっせ。こだわりが強過ぎるんでさぁ」
「ぐぅ…耳がまだジンジンする…」
こだわりが強すぎて殴り合い流血沙汰はいつもの事との事だ。
アリサワが紹介状を見ると目を見開き建物の看板を交互に何度も見直す。
「え、えーっとですね姐さん…」
「?どうした」
「…目的地に着きやした…」
「…理解した…」
こうして俺らは今回の目的である刀工、ムラサの元へたどり着いたのだった。
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