第35話 敗走
「刃鬼の情報は無かったが、敵対する組織の計画の情報は手に入ったわけか、微妙だな」
「目的の情報は無かったっすけど、無意味では無かったっすね」
「私もビルの上から色々見たけどなんにもなかったや」
情報はあらかた手に入れた、あとは戻るだけだ。
この時期に剣夜の長の孫を拉致しようとするとはタイミングを見計らっていたのだろうか。
だとしたら厄介だ。
人に化ける化け物の他にもマフィアまで絡んでくるとなると短期で戦いを解決するのは難しいだろう。
「どうしたものか…」
「ローウェスさん!危ない!!」
鉄道橋の下を通りすぎる寸前。
ハルスケが突然叫び俺を突き飛ばす。
「は、ハルスケ…どうしたんだ?…はぁ!?」
「ぬぉおお!だ、大丈夫っ…すかぁ!?」
目を疑う、俺の目の前には巨大な鉄の塊を背負っているハルスケがそこにいた。
周りを見渡し、直ぐにその鉄の塊が電車の天井だということに気がつく。
「そ、そーっとそーっと!横に!気をつけて!ハル!」
「ぬぐぅ、っくぅ…あ、危なかったっす…だ、大丈夫っすか?ローウェスさん…」
「す、すまん、あまりのことに、こ、腰が…」
ハルスケとエドの助けを借り立ち上がる。
エドはともかくハルスケも大した怪我はないようだ。
ハルスケの怪力に助けられたが疑問が残る、なぜ電車なんかの天井が降ってきたのだろうか、嫌な予感がする。
俺は指輪からバイクを取り出し、エンジンをかける。
「すまん、先に戻っててくれ」
「えぇ!?ふ、フラガラッハM31じゃないすか!?え、あ、わぁ!」
「あーりゃりゃ、ハルの琴線に触れちゃったか」
「後で見せてやるから、先に戻ってろって!」
線路へ入る道を探しバイクを猛スピードで走らせる、23区は入り組んではいるが道自体は整備されているからか走りやすい。
(まずい…スピードがどんどん上がっていやがる、さっさと止めねぇと大事故不可避だぞ!?しかもあれは…アラタじゃねぇか!それにあのボロ切れ野郎…殺す気満々だな)
アクセルを全開にし、坂を駆け上がる。
勢いは十分だ、電車の角度から位置まで何もかもが完璧だ。
ローウェスの乗ったバイクは高く飛び上がった。
飛び上がると同時に刀を取り出し、アラタに迫るボロ切れ野郎へ攻撃を仕掛ける。
牽制程度にはなるだろう。
「あ、アンタは…!」
「大丈夫か!」
「
俺はアラタの方を見る。
大した怪我はしていないようだが戦意喪失している。
戦力としては期待出来ないだろう。
「お前が刃鬼か?テメェには聞きたいことがあり過ぎる、大人しく来てもらおうか!」
「
「…!」
刀を構えると同時に毛が逆立つ、刃鬼から発せられる圧力に冷や汗が止まらない。
刃鬼が床を蹴る。
「
(早い…!それになんだあの武器!?バカみてぇな量の刀が1つになってやがる!)
攻撃をいなし、防ぎ、弾く。
金属と金属がぶつかり合う音が淡々と響き渡る。
振るわれる刀と異形の刃のぶつかり合いをただ1人の観客が地べたに座り見物していた。
(レベルが違いすぎる…俺は…見ている事しか出来ねぇのかよ…!クソッ…なんで動かねぇ…俺の足…!)
アラタは死闘を見ている事しか出来ない。
片や異形の怪物、片や異常なまでの技量を持つ少女の姿をした怪物。
目で追うことすら叶わないアラタの様な中堅程度の腕では踏み入ることさえ叶わない。
(畜生…何が朝焼けの若頭だ…あんなのに比べりゃ俺のなんかお遊びじゃねぇか…)
少女の斬撃がボロ切れを切り裂き出血させる。
1太刀、1太刀、敵の攻撃を着実に弾きながら相手の身体を削り取っていく。
「ッ!」
「
ローウェスが腹を蹴られこちらへ飛ばされてくる。
ローウェスが即座に受身を取り、アラタへ小声で話しかける。
「おい、逃げるぞさすがに限界になってきた、奴が刃鬼で間違いないんだな?」
「あ、あぁ、逃げる?ど、どこへ」
「あぁ?そりゃ電車の外だよ、怪我するかも知れねぇが死ぬよりゃマシだ」
「マジかよ…」
「覚悟決めろ」
刃鬼が刃を横へ構える。
毛が逆立つ。
防御しなければ死ぬ、そう直感が囁く。
防御の構えへ移行する。
刃鬼は一閃する。
金属と金属がぶつかり合う音と同時に。
ローウェスの手に持つ黒い刃は半分に砕けた。
「…!!」
アラタの判断は何よりも早かった。
自分を一瞬で負かした相手すら手こずる相手に自分などでは勝てない。
理解する。
アラタはローウェスを抱えると、電車の外へ飛び降りた。
「……」
1人、電車の中で刃鬼は落胆していた。
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