第33話 1人
「…ぐっ…お、おれは…」
「起きましたか、アラタ」
腹の痛みで俺は目が覚ます。
腹痛では無い、すごい速度で鉄塊がぶつかってきた。そんな痛みだ。
あのローウェスと呼ばれた少女と試合をした俺は一瞬にして地に付した様だ。
「…柔らかい…?うぉあ!???」
「?、何を驚いているのかは分かりませんが、そこまで動けるなら心配は要らないようですね」
アヤカの膝の上で気絶していた俺は、飛び起きる。
そこで俺は理解する。
あの少女に負けたのだと。だがそれの予想は外れていた。
「いいえ、引き分けです」
「は?」
一瞬アヤカの発言を理解できなかったが、アヤカが折れた木刀を俺の前に差し出す。
恐らくあの少女が俺へ攻撃時に際にへし折れたのだろう。
だがそれでは納得がいかない。
俺の全力の一撃は全ていなされ、なおかつ俺は2発で沈んだ。
完全な負けでしかない。
試合ではアヤカやミドウの姐さん以外に負けたことは無かったし、その2人にもここまで完膚なきまでにやられたことは無かった。
それなのに。
俺に完勝したあの少女、ローウェスは引き分けだと言った。
「……クソッ…」
「散らばった木片の掃除はやっておきます、頭を冷やしたら貴方も行きなさい」
俺は無言でそれに従い、街へ繰り出す。
「おや、アラタ遅かったですね」
「ミドウさん、すみません…」
「元気が無いようですが…今は聞かないでおきます。アラタは自分の部下を連れて南の方で情報収集をお願いします、私達夕暮れは北の方で情報収集していますのでなにか連絡があるなら通信お願いしますね」
俺はただミドウの姐さんに従うように街を散策する。
いつもと変わらない街並み、部下達と共に住民や監視カメラの確認など済ませるが、ただただ時間が過ぎていく。
「収穫なし、か」
「やっこさん23区中を動き回ってるのか動向が掴めねぇです」
いくら地域を絞ったところで1人を探し出すというのは無理がある上、刃鬼は人に化けることが出来るという馬鹿げた特徴のせいで探すのをさらに困難にしているのだろう。
「…タケナカ遅いな」
「あっしが見てきやす」
「頼む」
人が混雑するコンビニ前の通りで立ち尽くす。
部下には最低でも2人で行動しろと命令し辺りで見回りを行わせているが、連絡は無い。
落ち着かない、心にモヤがかかっているようだ。
(なんだ…?なぜ俺はイライラしている…?試合の結果に納得出来ていないのか?クソッ…?)
思わず手に持っていた缶コーヒーの缶を握りつぶしてしまう。俺にも訳が分からない、ただただ頭の中で様々な考えがぐるぐると巡っている。
どうすればローウェスに勝てただろうか、どうすれば、どうすれば、どうすれば。
考えは纏まらない。
(…?血の匂い…?)
かすかに、アラタの前を通り過ぎるように血の匂いがする。殺人なんてものこの都市にとっては日常の1つに過ぎないが彼の正義感か真面目さゆえかそれを追うようにしてその場を離れる。
「全く、仕事前に生焼けの鶏肉喰って腹壊すとか馬鹿だろお前!」
「す、すまん」
「すいやせん、リーダーこのバカにはあっしがキッチリと…リーダー?」
部下のタケナカとアリサワは2人、取り残されていた。
◆◆◆
(…?俺は一体…なぜ電車に…)
記憶が曖昧だ、血の匂いを感じ何者かを追いかけたことだけは覚えているがそれ以外は全く覚えていない。
だが気がつけば俺は23区に張り巡らされたレールを走る電車の中にいた。
「
「…!お前は!」
「
俺の眼前にはおおよそ聞き取ることが困難な言葉で喋り、右腕が生えているであろう場所からは幾本もの刀を繋ぎ合わせた様な刃を持つ怪物だった。
他に乗客は居ない。
こいつが件の刃鬼だろう。
ボロ布をマントのように被りその全貌を見ることは出来ないがこれだけは分かる。
俺では勝てないと。
「……っ」
無言でスマホに手を掛ける。
通話は無理だ、位置情報だけでも。
「
「グッ…」
俺はスマホを放り投げる、刃鬼の踏み込みを見た瞬間咄嗟に腰に下げていた愛刀を抜く為に。
凄まじいスピード、あの大きさの金属の塊を片腕にだけ付けており、バランスが悪いはずだ。
だが奴はあの速度で踏み込み正確に切り込んできた。
さすがは化け物と言ったとこのか。
(くっそ…1人になるなって散々言ってた俺がこのザマか…いや3人で囲んだ所で勝てそうにねぇ、俺一人で済むならそれでいい、片手1本位道連れにしてやる)
防御態勢を解かないまま刃鬼を蹴る。
ボロ布の中にはちゃんと肉があるようだ。
怯んだ所へ、上段に刃を構え振り下ろす。
防御困難の流派、列進流。
上段から放たれた一撃は
いとも簡単に防がれた。
「…!?」
「
「ぐぅ…!!」
俺は蹴り飛ばされる。
あの時と一緒だ、防がれるかいなされたかの違いでしかない。
瞬間電車は上下真っ二つになる。
「…は」
「
俺は思い知る、これが本当の化け物だと。
刃鬼はゆっくりと近寄ってくる。
何事も無かったよに、ゆっくりと。
アラタの交戦する意思は既に無く、恐怖に置き換わっていた。
AI制御で動く無人の電車の中へたりこみ、手に持っていた愛刀すら既に放してしまっている。
刃鬼の刃が振り下ろされる、その瞬間。
天井の無くなった電車目掛け見覚えのある獣の耳が生えた、俺を負かした少女の乗ったバイクが乱入してきた。
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