第32話 試合
「アラタのご無礼お許しください…いつもはああでは無いのですが…」
「まぁ、大事な会合に変なのがいると警戒するのも無理もないがな、それだけ真面目ってことだ」
「それはそうなのですが…」
私、スドウ・アヤカはローウェスさんの身体に合った剣夜の制服を取り出し渡す。
浴衣のような和装と違い剣夜の制服は緊急を要する字体にも対応するべくすぐに着れるよう簡単な構造をしている。それ故にローウェスさんのように慣れていない人でも簡単に着れるでしょう。
「それより剣夜の制服は着心地が良いな」
「…良い仕立て屋が居ますからね!それに万が一戦闘などが発生する可能性があります。浴衣では動きの邪魔になってしまいますからね」
私の思っていることを察してかローウェスさんは話題を変えたのでしょう、ローウェスさんは服を見せるようにクルクルと回る
私の初恋の人は8年前から姿は全くの別物になってしいました、あの燃えるような赤い髪も、ガッチリと鍛え上げられたあの背中も、今では赤い髪は赤い毛の混じる白髪に、あの背中は小さな少女の物へと、そして遺伝子を組み込まれたのか生えている狼の様な耳と尻尾。
変わらないのはあの鋭い眼光と頼もしい言動、そして…右の薬指に嵌められた煤の様に黒い指輪だけだ。
アラタも信じられないのでしょう、外見は少女そのもの(耳やしっぽも生えています)ですし、長年付き合いのある人間以外は初見で彼が歴戦のワーカーだとは思わないでしょう。
私とローウェスさんが部屋を出るとそこにはアラタが腕を組み立っていた。
「…何か用ですか?」
「アヤカ、本当にそいつを連れていく気なのか?」
「アラタ、あなたもいい加減にしなさい。これは翁直々の依頼です」
「なに?翁が?…」
アラタは私とローウェスさんを交互に見る。
翁はハルスケ君へローウェスさんへの協力を要請していました。
「カカッ、そんなに疑うのなら1試合やってみればよかろう」
「翁よ!突然何をおっしゃるのですか!?」
「よう、タケゾー。会合に顔出さなかったけど何してたんだ?」
タケゾー様は腰を擦りながら木刀を2本地面に置く。
我が剣夜の習わしには納得がいかない事があるなら試合せよという文化があり、勝った方の意見を採用するというものである。
剣夜の性質上、対人の訓練も行いますが大抵は歪人などの怪物や練度の低いチンピラを相手取ることが多いのである程度の実力を持つ者同士で対人戦の経験を積ませる事も織り込んでいるのでしょう。
「腰痛が酷いからのう、湿布を貼っておったのよ」
「き、貴様!翁に何たる無礼を…!!」
「よいよいアラタよ。それに話で聴くより直接打ち合う方がわかりやすいじゃろう、そうであろう?アヤカよ」
私は考える、それこそこれ以上アラタがローウェスさんへの胡乱な口を閉じることが出来ればそれでいいでしょう、私が出て負けることは有りませんがそれではアラタは納得しないでしょう。
「タケゾー様…はぁ…確かにそうですね、時には力でねじ伏せるのも有りでしょう。なので付き合ってやってくださいローウェスさん」
「俺はいいが、お前は?」
「舐めた口を…!受けて立つ」
「OKだ」
ローウェスさんとアラタは木刀を手に取り、形式上ではあるが木刀を腰に持っていき、両者礼をする。
「ルールはどちらかが気絶するか木刀が折れるまで、体術の使用も許可します、両者構え」
アラタは上段に構え、ローウェスさんは中段に構える。
「初め!!」
そう宣言すると同時にアラタは畳を踏みしめ、猿叫を轟かせローウェスさんへ打ち込む。
ビリビリと辺りに響き渡る。
「なっ!?」
「…」
(動き、スピード、太刀筋、どれも申し分無い腕前ですが動きが分かり易すぎますねアラタ…ただ突っ走るだけでは通じませんよその人)
木刀と木刀が接触する瞬間力を抜き、受け流す。
タイミングがズレれば防御した木刀が頭へ直撃するリスキーな技を平然と使ってのける。
並のワーカーでは回避することは出来ても受け流すことは難しいでしょう。
直接打ち合ったところでアレは防げないだろう。それならば無理に受ける必要は無い逸らせばいい。圧倒的な練度でそれを成す人へ愚直に切りかかれば逆に痛手を負うことになるでしょう
「ふむ、受け流すか」
「翁見えているのですか?」
「気配を見ただけよ、アラタの流派は列進流、上段を主体にした捨て身の一撃は並の防御など意味を成さぬが…対してローウェスは木刀を斜めに構え、受け流しの構えを取っていた。これを見抜けぬようならアラタはまだまだじゃのう」
アラタは大きく体制を崩し、そこへローウェスの回し蹴りが胴体を捉える。
壁へ蹴り飛ばされたアラタは呻き声を上げながらも体制を立て直す。
「へぇ、やるじゃねぇか」
「ぐっ…舐めるな…!」
(身体の大きさは変わっても身体能力は据え置きなのでしょうか?)
体制を建て直してすぐ、アラタは鋭い突きを放つ。
壁を蹴るようにして放たれた渾身の一撃はローウェスへ当たることは無くアラタは倒れ伏す。
カウンター気味に放たれたローウェスの居合を胴へマトモに受け意識が吹き飛んだようだ。
「勝負あり、勝者ローウェ…」
「引き分けだな」
「へ?あ」
「折れた」
ローウェスの木刀は半分にへし折れていた。
受け流した際、角度が甘かったようで、亀裂が入った所にアラタへ放った居合がトドメになったのだろう。
「俺もまだまだだな」
ローウェスはそう言うと静かに笑った。
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