第29話 陽炎商会

「全く…」

おきなが本当に申し訳ございません…」


服を壁ごとバラバラにされた俺は23区北部の六文街にある剣夜会の拠点、翡翠館にて見事に布切れになった服の代わりとしていわゆる浴衣というものを着付けられていた。


「それにしても…まさか俺が着ることになるとは…」


小さい頃のエドが祭りで着ているのを見た事はあったが、肌触りがよくかなり着心地がいい。


「説明された時はびっくりしましたよ、ローウェスさんが女の子になっただなんて。窮屈じゃないですか?ローウェスさん」

「俺もこんなになるなんてあん時は思ってなかったさ。ピッタリだぞアヤカ、それにしても大きくなったな」


アヤカは俺とエドが剣夜会の世話になっていた頃世話係をしてくれていた少女だ。

その濡鴉色の髪の少女は8年前から成長し、凛とした青年に成長していた。


「もう8年経ってますから。私ももう立派な剣夜会の若頭ですよ!それでは皆さんが待っていますのでそちらへ行きましょう」


翡翠館の廊下をアヤカの後に続いて歩く。

8年前と変わらず木の匂いとアルビオンでは珍しいタタミの匂いが心地がいい。

ふと窓を見る。


「…なぁアヤカ」

「どうされました?」

「なんだあの集団?」


俺は窓の外にいる、狐の面を被った集団を指さす。


「え?…あれは…陽炎商会!」

「お、おい!」


アヤカが翡翠館の廊下を駆けていく。

慌てて追い掛けるとアヤカは刀を抜き、先頭に立っている狐耳が生えた女に切っ先を向けていた。


「貴様ら、ここが剣夜会の敷地と知って足を踏み入れたのか?返答次第では貴様らの首を落とす」

「剣夜会は夜のように静かな剣って聞いてたんやけどー物騒やなぁ、ウチ達も用事があってきたの。どいてくれはる?お嬢ちゃん」


女自体は武器に手を伸ばしていないが、周りの狐面達は腰の剣に手をかけ、表情は分からないがアヤカを睨みつけているのがわかる。


「落ち着けアヤカ、何があったかは分からないが刀を納めろ」

「…分かりました」

「それで…あんたらは?」


俺が何者かを聞こうと問いかける。


「……」

「?ど、どうした?目が怖いが…」


何も発しない。

ただただ金色の目で俺を見つめる狐女、若干目が怖いが気のせいだろうか。


「お嬢?」

「…ハッ…すんまへん、申し遅れましたぁ。うちは陽炎商会の現会長の陽炎ヨーコと申しますぅ、よろしやすぅ、別嬪さん♡」

「えっ」

「現会長…?えっと…申し訳ございませんが、ご要件は…」

「あぁ、先代死んださかい新しゅう取引先を増やそう思いましてな。その挨拶と依頼をしに来たんどすえ」

「っ!!そうとは知らず刃を向けてしまい申し訳ございません!」

「ええのええの、先代と剣夜会の関係は知っとるしこないなけったいな格好の奴らなんて警戒するに決まってるさかい。こっちもアポなしですんまへんなぁ」

「いえ!と、とりあえずこちらの部屋でお待ちください」


そんなこともありながら、俺とアヤカはエドたちが待つ部屋へ向かった。

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