第25話 知ってるようで知らない天井

(…知ってる…いや知らない天井だ…)

「ん…やっと起きましたか、スペルヴィアを呼んできます」


綺麗ではあるがどこか敵対的な声が俺にかけられる。

声がした方向を見ると、フリルのあしらわれた黒いスーツを着た白髪の女が読んでいたであろう本を膝に置きこちらを見ていた。


「ここは…」

「はぁ…そんなことも分からないですか?」

「あ、いや」


白髪の女は呆れたような表情で溜息を着くと、面倒くさそうに答える。


「ここはオックスフォードビル最上階、浄罪の円卓、救護室です」

「…ここそんな名前だったか?」

「1ヶ月前に決まりましたが…連絡行ってませんでしたか?とりあえず服を…あぁすみません、あなたの服はズタズタのボロボロな上に血で汚れていたので破棄したんでした、キッシュの服を借りてきます」

「えっと…あんたの名前は…」

「モノ・コリブスです、あまり時間を取らせないでください」

「あ…すまな」

「ローウェス〜起きたそうじゃないか〜」

「ぎゃっ!?」

「よーしよしよしよしよし、いやぁよく頑張ったねえ」

「ね、姉さんくるしっ!ひあっ!?」


モノ・コリブスと入れ替わりになるようにしてミトリア、俺の姉さんがやかましく部屋に入ってきた。

姉さんが俺を撫で回しているともう1人、異形の影が入ってくる。


「そこまでにしておけミトリア。また面倒なことに巻き込まれた様だな、ローウェス」

「そ、その声…マリクか!久しぶりだな!義体変えたのか?一瞬分からなかったぞ」

「変わりように関してはお前も大概だがな、お前はその体…何があったんだ?」

「あぁ、いやそれは深い事情があって…いやそれはいいんだ、俺と戦ったヤッた歪人ヤツはどうなった?」

「それなんだが…」

「まぁ、後で良いんじゃないか、それじゃ服着たらモノに着いて行ってね〜」

「服…?俺全裸じゃねぇか…てか傷が無い?…」


俺は身体を確認する。折れていた左腕は何事も無かった様に繋がっており、テーピングを外しても身体中にあったはずの無数の切り傷は跡1つ残っていなかった。


「どうなってんだ…」

「貴方の傷を治したのは私です」

「ヒアッ!?突然後ろから現れるな!驚くだろ!?」

「それは失礼しました。貴方の姉に仕事を押し付けられてましてね、出くわしたら面倒くさそうなので隠れてました。さっさと服を着てください」

「……」


俺は尻尾でずり落ちそうになるショートパンツを引き上げながらモノへついて行く、無駄に豪華な装飾品に彩られた廊下を進みながら辺りを見る。


(…尻がキツい…もう少し大きいサイズは…いや流石に服を借りてる立場で失礼か…)

「キツイですか?」

「え?いや…体調はむしろ良いくらいだが…」


腕を回し見せる。

痛みは消え、体は寧ろ今朝よりも軽く感じる。


「いえ、体調ではなくお尻の方です」

「いや真顔で何言ってんだよ!?」

「アナタが寝ている間にスリーサイズから何まで図らせて頂きました、結果その身長としては平均よりも下半身のサイズが大きいことが分かりました、サイズが合う衣服ならこちらへお申し付けください」


俺の言葉を無視しながらモノは懐から名刺を取り出し俺に渡す。

薔薇のシルエットに女の横顔が印刷された紙にはサリアの館という文字が書かれていた。


「…サリアの館…セールスか?」

「はい、その様子だと尻尾に苦労していますよね?」

「まぁ…」


生えて1日程度ではあるが、かなり邪魔だ。


「私の先生が経営している店です」

「先生…なるほどお前デザイナーなのか」

「はい、ワーカーの着る服を専門にやっています。戦闘で着ていても邪魔にならず、なおかつ簡易的な防具にもなり得る、そんな服を作っています」


モノが変わった服装なのにも納得がいく。

それなりに丈夫で尻尾の邪魔にならない服を手に入れられるなら利用する他ないだろう。


「…でもなんで俺に?」

「サイズが合っていない物や着るのに不便な服はパフォーマンスの低下に繋がります、それに…」

「…?」

「先生は気に入るでしょうね、あなたの事」

「え?」

「いえ、なんでもありません。着きましたよ、私達の円卓、私達罪人たちの浄罪の場に…なんてカッコつけでしかないですが」

「この部屋は…」


モノが豪華な装飾の扉を開ける。

代替わりしたのか知ってる2人以外からは様々な視線が向けられる。

ガラの悪い男からは懐疑的、ニット帽を被った少女と黒い仮面の男?からは興味の眼差しだった。

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