第23話 切り裂き魔
黒い影の無機質な赤い瞳からは感情を感じ取ることはできない、ただただじっと俺の顔をのぞきこんでいる。
足は拘束されていないが、この状態で下手に抵抗すればさっきの斬撃を喰らい肉塊必至だろう。
「ヒャ!?てめ、どこ触って!?」
「…」
影が突然ローウェスの耳を掴む。
人間にはない器官が生えているよが気になったのだろうか、興味深そうに根元から耳を触っている。
「やめっ…ひぅ…」
「…♪」
ローウェスの反応を楽しんでいるのか、耳を攻める手はさらにねちっこくなっていき、遂には尻尾に手が伸びる。
「この…調子にのってんじゃねぇぞ…!!」
「!?」
ローウェスを絡めとっている糸が発火を始め、それを察知した影は後ろへ退くと同時にローウェスの足元から大量の蒸気が上がり爆発した。
いわゆる水蒸気爆発である。
水蒸気が影の視界を奪うと水蒸気を切り裂くようにローウェスの右ストレートが決まり、それにより影は大きく吹き飛び壁に大きなクレーターを作りあげる。
隙を与えぬ追撃に
(あの野郎、くそっせめて何発か当てられれば…)
影はローウェスめがけ無数のナイフを投擲する。
機関銃から刀に切り替え、弾き返した。
(ぐっ…後ろからだと!?)
背中に激痛が走る。
弾き返したはずのナイフのうち1本がどういう訳かローウェスの背中に突き刺さっていた。
影は糸の上を走回り、次々とナイフが飛んでくる。
(埒が明かねぇ…!弾き返したナイフが跳弾してやがる…)
ローウェスは炎で高温の壁を作り出し、ナイフを防ぐと溶けるでもなく燃え尽きた。
刺さったナイフを地面に投げ捨てる。
傷の出血が酷い。恐らくナイフの炎のように波打つような刃が傷を深くしているのだろう。
影が腕を大きく振るい、特大の斬撃を放つ。
ローウェスはそれを避けずに糸を掴みあげた。
「…!」
「読みやすいんだよ!!」
掴んだ糸を引き、引き寄せた影に頭突きをかます。
すかさず腹めがけ蹴りを入れると骨が折れるような感触と共に人間で言う口の部分から影が吐血した。人体の構造はあまり変わらないのか、内蔵が潰れる感触も感じ取れる。
蹴り飛ばされた影を糸を利用し壁に叩きつける。
糸を使い引き寄せるが、手応えがない。
(自分で糸を切ったか…だがな)
「読まれやすい行動を取るのは賢いとは言い難いな」
「!」
ローウェスは影の奇襲をいなし、足に炎を纏わせ回し蹴りを放った。
風を切る鋭い音が鳴ると影は水切りのように吹き飛び壁を貫通していく。
蹴りを放ったことにより、足に纏っていた炎は扇状に広がり、街を炎で包み込んだ。
(しぶとい奴だ、あれだけしてまだ立てるのか…ん?)
「へぇ…なかなかイかしてんじゃねぇか、その脚…!?」
影の背から土煙と黒煙が晴れると、影のその背からは昆虫のような足が4本飛び出ていた。
人型の四肢と合わせて8本、糸を張り巡らせ戦っていたその姿は蜘蛛を思わせる。
影はこれまで以上の速度で接近し、ローウェスへ蹴りを入れた。
咄嗟に防御態勢をとったローウェスだが、腕に痛みが走る。
(クッソ…!左腕がおしゃかになりやがった!速度が上がって蹴りの威力まで上がってやがる!)
ローウェスは歪人、帰還者の中でもかなり身体能力や耐久性、生命力が高い。
これで理解した、やつは特異点だ。
歪人の中でも屈指の化け物であり、特異な能力を使いこなす。
影は手に持った刃で空を撫でた、その瞬間ローウェスは全身から血を吹き出し倒れ伏した。
歪人を化け物と例えるなら、特異点は理不尽をひたすらに押し付ける災害そのものだ。
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