第20話 侵食
「…止まってから5分…外へ連絡も出来ないとはな…」
ローウェスはエレベーターの扉を忌々し気に睨見つけていた。
なぜこうなっているのかと言うと最上階へ向かう為エレベーターに乗っていたのだが、どういう訳か止まってしまったのだ。
外へ連絡を取るためのボタンを押しては見たものの通じず、通信機器に関してはどういう訳か圏外になっている。
「はぁ…しょうがねぇ、こじ開けるか」
ローウェスはランスを取り出し、扉と扉の間のある程度の深さまで突き刺し、そして。
「”開け”」
そう一言つぶやくと、ランスの矛先は蜘蛛の足のように動き、扉をこじ開けた。どうやら運良く、階の近くに止まっていたようだ。もうひとつの扉も同じようにこじ開ける。
こじ開けた先は暗いが、オフィスのようになっていた。
漂ってきた不快な匂い顔をしかめる。
「うっ…カビの匂いが酷いな、どこかで水漏れでもしてるのか?」
エレベーターを出ると後ろで轟音が響く。
一瞬何が起きたのか理解出来ずに居たのだが、さっきまであったはずのエレベーターが無くなっていた。
「…俺のせいじゃ…ないよな。うん、さっさと階段見つけて最上階にいこう、うん」
俺は見なかったことにして、フロアの電源を付ける。
「うーん、防火扉がロックされてやがる…もう非常階段で行くしか無いな…」
非常階段が有るであろう場所へ向かうため、移動した先の廊下には埃をかぶった何かの書類やダンボールが大量に放置されていた。
ここのビルが元歯車企業のレヴィアタン社の物だった名残だろう、潰される前に書類だけでも運び出そうとしたが間に合わなかった事が見て取れる。
「にしてもどんなロッカーの並べ方どうなってんだ?まるで迷路だな…」
オフィスを進んで行くが、ロッカーやダンボールで行き止まりになってるような場所が多々あり、行ったり来たりを繰り返していた。
「おかしい…いくらなんでもこの量のロッカーとか必要無いだろうし、動かそうとしてもビクともしないなんて…」
あっちへ進めばこっちが行き止まり、こっちへ進めばあっちが行き止まり、違和感しかない。ロッカーやダンボールの配置がまるで移動しているように感じのだ。
「…」
それから数分間歩き続けた結果分かったことがある。
それはロッカーが動いているように感じたのは気のせいではなかった。
試しに印として空のマガジンを十字路の中心に置いてみて、戻ってくると明らかに道の数が少なくなっていた。
そして、決定的なのが、明らかにこのフロアの敷地面積を超えた広さだろう。
北へいくら進んでも壁にたどり着くことがない、なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろうか。
このフロアは既に侵食されていることに。
「にしてもここまで広げるとは…並の歪人じゃないことだけは分かるが…」
空間の侵食は歪人がその空間へと介入し、それそのものを一時的に改変し自らが過ごしやすい空間に作り替えるのだ。
侵食の規模も1畳程度から廃ビル1つ分まで様々だ。大抵の肉塊や獣の様な姿の普通の歪人は集まり大きな侵食された空間、ハイブを作り出す。
ハイブは大量にいる歪人が集まって作るためツギハギだらけなのだが、ここはそんなことは無く、むしろ1つの空間として完成していた。
「…さて、と。じゃあ…
ぶっ壊しても問題無いってわけだ」
指輪から巨大な金属の塊を取り出す。
それは剣であるのだが長さは2mほどあり、分厚く、重く、そして”小型のブースター”が6基着いていた。
「久々に取り出すな…いや、前に一回盾として使ったっけ?相っ変わらず重いな、こんなの片手で振り回してたのか?あいつ」
基本的に歪人を殺すことでしか元に戻す手段の無い侵食された空間は物理的な要因で解決する場合がある、それはその空間の破壊だ。
それにより侵食された空間を正常に戻すことができ、その際に破壊された物も元に戻すことが出来るのだ。
「ぐっ…っ!あっぶねぇ、あと少しで吹っ飛ぶところだったぜ…!」
6つあるブースターのうち3基を一気に作動させる。
まだ半分しか作動させてはいないが、今の俺の力では今にも吹き飛びそうになる。
アラキ社製小型高出力ブースター《Kiryu》、1基でも建物ひとつを粉々にできる出力を出せるものを6基も付けたその大剣は切るよりも叩き潰す方が得意な形状をしている。
硬い装甲を纏ったPA、硬い殻で全身を覆った歪人、そして。
”こういう侵食された空間を叩き割る”のに適している。
「ぐっ!4基目!作動!!5基…目!作動!」
1基また1基とつける度に腕へとかかる負荷は増していく。
腕が軋む、俺が抑える力よりも、俺を押さえつける力の方が強いらしく、床がミシミシと異音をたてている。
足に更に力を入れ、その破壊力を抑え込む。
(ぐうぁうぅ!!押しつぶされそうだ…あと1基…最大出力でぶち込んでやる!!)
そして、俺は6基目のブースターを作動させた。
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