第19話 大罪と円卓
オックスフォードビルの最上階の一角、小綺麗な装飾が施されたSEVENSのオフィスには、上質な素材で作られた円卓と7つの席があり、その席のうち1つは空席となっている。誰も座っていないこの席には《
「そんでよぉ、ランキング一位様のその弟ってのはいつ到着すんだよ、時は金なりって言うだろ?もう3分も遅刻してやがる」
「たった3分じゃないか。それにここのエレベーター時々止まる欠陥品だしね、しょうがないさ」
「ケッ、こんなんなら昼から酒でも飲んでた方が有意義だな」
黒と紫のジャケットを着た青年の《
ひりつく様な空気の中、火に油を注ぐような物言いで誰かが口を開く。
「うるさいです、黙っていることもできないんですか?あなたは」
「あ?んだとテメェ」
「まぁまぁ、落ち着きなよ」
「あなたもあなたです、ミトリア」
「えぇ?」
「大体、大罪指定されてから一度も姿を見せていない《
フリルがあしらわれた黒いスーツを着た白髪の小女、《
その傍らには白い蝶の装飾が施されたランスが立てかけてあり、異様な雰囲気を漂わせている。
神秘的な様相だがその言葉にはトゲがあり、節々に不満が見え隠れしている。
「相変わらず”白い方”は言い方がキツイなぁ、”黒い方”は言い方は乱暴だけどもう少しオブラートに包んだりするよ〜?」
「…もう1人の私は関係ありません、それ以上その話題を口にするのなら貴女の顔に風穴を空けますよ」
「お〜怖い怖い」
「でもミトが仕事を受けるなんて珍しいね〜?いつも個人で依頼受けてるのに」
「私をなんだと思ってるんだか…これでも私は…人が話してる時にポテチの50袋目に手を出そうとしない!」
「ふっ、55袋目だ」
ニット帽を被った、恐らくこの中では最年少であろう《
「うわっもう食い終わりやがったよ…どんな胃袋してんだこいつ…」
「だってしょうがないじゃーん、みんなと違って私は空腹の状態が延々と続くんだもーん、それにしてもミトの弟ってどんな人なんだろうねー」
「それはボクも気になりますね。ミトリアさんの弟さんはどんな方なんですか?」
黒漆の面、金の龍の刺繍が施された上着を着た性別不詳の《
どんなと聞かれたミトリアは少し考えた後に、こう言った。
「どんな…ねぇ。うーん、強いて言うなら”お人好し”?って言ったらいいのかね、よく言えばお人好し、悪く言えば人を信じすぎるって感じかな」
「アイツらしいと言えばアイツらしいな」
機械の合成音では無く、真っ当な人の声で喋るその義体はどこからか伸びているケーブルを机へと突き刺していた。《
「何見てんだ?」
「監視カメラの映像だ、
「うん、私は嘘は着いてないよ」
「…はぁ…めんどくさい事に巻き込まれたのは間違いない訳か…」
「まぁそうだね」
マリクは呆れたように言うと、義体から伸びたケーブルを更に別の場所へ突き刺す。
いくら待ってもたどり着かないエレベーターを不審に思い、ハックして詳しく見ていたようだ。
「さーて、どれどれ?」
「見ていいなんて言ってないが…まぁいいか」
投影されたホログラムのひとつをどうやってか、生身であるミトリアは自らの手元へと持っていく。
映像には狼の尻尾と耳が生えた少女が立っており、時折耳やしっぽが動く以外は何の変哲もないエレベーターの映像だった。
「んー、さすがにおかしくないかい?」
「最上階に着かないのがか?」
「いや…もっとこう…視覚的な…待って」
「どうした?なにかわかったのか?」
「…なんで同じ動作を規則的にしてるんだい?」
「……たしかにな、試しにいくつかの映像を均等に分けて重ねてみたがどういう訳か全ての動きが一致している」
「つまりハックを受けてるって訳か…とりあえずリアルタイムの映像に切り替えて」
「もうやってる、だが厳重なセキュリティがあるはずのここに入り込むなんてどんな奴なんだ…よし、切り替えた…何!?」
「うおっ、どうした急によ」
「エレベーターが…」
「エレベーター?がどうしたの?」
「”落ちていた…?”」
その後SEVENS全員が驚愕の声をあげるのは必然だった、その後ホログラムは4人にも回され、映し出されたのは完全に大破したエレベーターの内部の様子だった。
カメラも辛うじて機能しているようで時折画面が乱れている。
「ちょ、ちょっと待て!じゃあなんだ、俺らがここで話してる間も落ち続けてたって訳かよ!?」
「いや、どうやら1度止まってその後何らかの方法でワイヤーが切れたようだ」
「下の方と連絡をしましたが、下の方は大騒ぎで、無理を言って中を確認させましたが、中に死体はなかったようです。恐らくですが…途中の別の階に避難したと考えられます。マリクさん、他のエリアに生命反応はありますか?」
「あぁ、使われていない区画の方に熱源が”2つある”」
「2つ?もう1人いるの?」
「それだったらどんなに良かったか…これを見てみろ」
「これは…小さいのと…大きいの?」
映像が移り変わり、サーモグラフに切り替わる。
そこには異形の熱源と小さな熱源が凄まじい速度で動き回っていた。
「おい!なんで歪人がいんだよ!!?」
「出られなくなって奥の方で歪んじゃったのかな〜?」
「憶測は後からでも出来る、それで助けに行くのか?ミトリア、ノイズから見て空間の侵食が起きてるように見えるぞ?」
「私は反対です。ここで死ぬような人間なら、最初からいない方がマシです。」
「で、でもミトリアさん、本当にそれでいいんですか?弟さんなんですよね?助けに行かないんですか?」
ミトリアは少しだけ目を伏せ、腕を組みながら静かに答えた。
「…あの子なら大丈夫。この程度でくたばるほどやわじゃないさ。」
その言葉には確信が込められていたが、どこか自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
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