第10話 廃工場襲撃 中
扉を開けると長い廊下へ出る。最も使われていない期間が長かったせいなのかゴミが散らかっていた。
(敵影はなし、天井にセットされている物々しいタレット以外は至って普通の廃墟だな)
俺は近くに落ちているガラス瓶をタレットの方へ投げる、するとガラス瓶に反応し大量の弾丸が降り注ぎ粉々にしてしまった。
「範囲はざっと60mくらいか。ケイニス、あのタレットを無効化してくれ…ケイニス?おい応答しろ…なんだ?通信が使えなくなっちまってる…ジャミングか…?」
恐らく襲撃に気づいた奴らの電子機器を無効化する電磁波によって邪魔をされているのだろう。
ここからは俺1人の力で進む必要が有る。その前に弾丸の雨を降らせるタレットを無効化する必要があるだろう。
俺は近くに落ちていた瓶を投げる、タレットが瓶に反応し粉々にしている間に俺は姿勢を低くしタレットへ近づく。
残り50m地点で瓶から標的が俺へ変わる。銃口を目で追い弾丸の通る場所を予測し銃弾の雨を通り抜け10m地点にたどり着く。銃口にナイフを投げタレットの銃口を塞ぎ、銃身を破裂させ無効化することに成功した。
「…ふぅ、こんな短距離マラソンもう勘弁だな…次が例の部屋か。気を引き締めねぇと…うおっ!?」
扉に手を掛けると扉が破裂する。弾けた扉の先には全身を重度に義体化した男がフィフス社製ハードアームランチャー、ゲラートGGV-808を構えていた。
「俺らの邪魔はさせんぞ小娘ぇ!まずは黒焦げにして粉々に砕いてやる!!」
「ノイズだらけで何言ってるか聞こえねぇよ!!ぐあっ!!」
爆風を大剣で防ぐが、衝撃を殺しきれずに爆風により後ろへ飛ばされる。
「ハハハハ!!貴様らはこの小娘の仲間を見つけ出せ、殺すも犯すも貴様らの好きにしろ。シュツルム、お前と俺でこの小娘を消し炭にするぞ」
「ケッ!テメェに指図される筋合いはねぇよ。ティーガー、まぁせいぜい楽しんでやろうぜぇ?」
全身を義体化した男2人を残し他の奴らは外へ恐らくケイニスとエドを探しに行った。あの2人は問題ないとして、問題は全身を重度に義体化した2人組だろう。1体はさっきランチャーをブッパなした太い義体とどこからか現れた細身の義体。
外見では分からないが声からして男だろう。
「さて、どう対処したものか…」
◆◆◆
「グアッ!?」
「ふぅ…久々だったからどうなるかと思ったけど、どうにかなるもんだね」
「突然入ってきましたね…それにローウェスさんとは連絡が着きませんし…うーん動きませんね。やっぱり電子機器がダウンしてます…」
グローブに付着した血を払いながらドラム缶に座る。
ローウェスに近接戦闘を習っておいて良かったと心底思う。
人数にして6人、殴り倒すには少し面倒な数だったけどコレもローウェスの指導の賜物と、特殊合金繊維を織り込んだグローブのおかげだろう。
「で、何からお話しようかなー。お兄さん」
「離しやがれ!クソッタレが!」
「へぇ、そんなこと言って良いんだー」
「ぐあっ!?」
ローウェスが尋問する時はなるべく急所は外し、痛めつけることが重要だって言っていた事を思い出しながら腹へ蹴りを放つ。
「早く話した方が良いですよ?痛い時間が長く続くだけですし」
「テメェらに話すことなんざ一つもねぇ!クソアマどもが!!」
「良いから、君らが何してたか早く話してよっ!」
「ギャッ!!」
尋問から10分程で男の方が折れ、何をしでかす気か話し出す。
全身は痣だらけになっていた。
「お、俺らは雇われてクリムゾンシュガーを売ってたんだ。高額で雇ってくれるって言われたからな」
「ふーん?で誰がリーダーなの?お兄さん」
「
「なるほどねー、じゃおやすみ」
「な、待てっ!ぎゃあ!?」
聞くことを聞いたので頭を蹴り飛ばし気絶させる。
「で、これからどうする?ケイちゃん。電子機器が使えない上に外から狙えそうな窓も無いし。私たちにできる事はないと思うけど…」
「どうすれば…」
「まぁ、いいや取り敢えず今は車に戻っておこう。敵がまだ居ないなんて確証無いんだし」
「そうですね…連絡が繋がらない以上、私がいても役に立ちませんし…」
「ま、何か起きた時のために備えておこう」
「そうですね…」
◆◆◆
「ちょこまかと鬱陶しい!!」
俺の真後ろが爆ぜる。目の前が爆ぜる。
連発される炸裂弾の範囲は小さいものの喰らえば大怪我では済まないだろう。
「おい、こっちも忘れてないか?」
「っ…クソッ!」
爆風を突き抜け、細い義体の男。シュツルムが現れ対人用振動ブレード、マンティスM-001を振るう。
高速で回転する刃はさながら暴風の様であり。即座に刀を取り出し刃をさばくが背中で爆発が起こり吹き飛ばされる。
「ギャハハハ!!パース!!」
「があっ!」
「フンッ!!」
吹き飛ばされた先にいたシュツルムの蹴りがローウェスの腹へ直撃しティーガーの方へ蹴り飛ばされティーガーの義体化された鋼鉄の拳の追撃で地面に叩きつけられた。
ティーガーはボロボロのローウェスを片手で持ち上げ嘲笑いながら首を締め付ける。
「グッ…!離し…やがれ…!」
「ハハッ!俺らに手も足も出ないな!!そうだ!俺らの武勇伝でも話してやれよ!!!」
「武勇伝…だ…?」
「かの有名な…シルバーハンドだったか?アイツはまぁまぁ楽しめた、まさか腹に瓦礫が刺さったまま向かってくるとは思わなかったがな!」
「シルバーハンド…フフ…アハハ…」
「む?」
「お前らだったのか…」
「おいおーいティーガー、さっさと消し炭にしちまえよ」
俺の頭にランチャーが突きつけられる。
「やっと見つけたぞ、先輩を殺したクソッタレ共」
「なっ!?お、俺のランチャーが!?」
俺は指輪からダガー…アズライードを取り出し突きつけられたランチャーを切り刻む。
銀色の残光だけが残りランチャーはバラバラに分解された。
「やっと…やっとやっとやっと見つけたぞ」
「あ、あの指輪まさか!?」
「嘘だろ…まさかアイツは…アイツはぁ!レッドハンドだ!?」
あの時先輩は俺にナイフやダガーをどう握り、どう振るうかを教えてくれただろうか
俺は一つ一つ、思い出しながらダガーを構え直す。
ティーガーは残された拳で俺に殴り掛かかった。
振り下ろされた拳をアズライードはバターのように切りさき、流れるような斬撃でティーガーの残った腕と足を完全に解体する。
「生きていたのか!!?レッドハンド!?なんでお前が!!」
「…そう呼ばれたのはいつ以来だっけなぁ?久々だ」
「無差別に殺戮し回って破壊の限りをつくしたお前が!男だった筈だが…お前は厄災に焼き尽くされて死んだ筈じゃ!?」
「こんな姿になっちまったが、殺された仲間の顔にゃ絶対に忘れねぇよ、それに」
「だめじゃあ無ぇか!亡霊が墓から勝手に出てきちゃあ!!」
「お前の言う厄災ってのは”俺だ”」
俺の真後ろからシュツルムが現れ、刃を振るう。
「安っぽい刃だな?だからこうやって直ぐに折れる」
「お、俺のブレードが!?ぐあっ…ぎゃあああ!!!」
「どうせ非合法の義体技師の所で施術したんだろ?粗悪品掴まされたんだろうな、ご愁傷さまッ!!」
振るわれた刃をアズライードで防ぎそのままへし折る、破壊された刃と共に腕を解体し、驚愕するシュツルムの生身の首へダガーを突き刺し、そのまま縦に切り裂く。
人工臓器と共におびただしい量の液体が切り裂かれた義体から溢れ落ち、破壊された義体はそのまま動きを止め崩れ落ちた。
(常に冷静に、冷酷にただそれだけさ。特に刃物を使う時はね)
ロロ先輩はそう言って居たが、今の俺にそれは出来そうにない。なぜなら目の前には先輩の仇が仰向けになっているからだ。
「先輩は指を、腕を奪われた」
「シュ、シュツルム!!貴様よくもシュツルムを!!」
「…詫びろ、てめぇの殺した…先輩に。指もぐちゃぐちゃにされて…先輩もさぞ喜ぶだろうなぁ、ん?でどうなんだ?」
「貴様、何を言っている…!」
「なぁ、アルビオンで暮らしてるなら分かるだろ?自分の大事なものを奪われる痛さを、苦しみを、憎しみを、だからよ…てめぇは」
”もっと苦しんで死ね”
「狂人め…!!」
「奪われる覚悟がねぇなら奪うんじゃねぇよ…鉄屑共が」
《アズライード》で首を断ち切り、ティーガーを物言わぬ肉塊にする。最も肉と言える部分は少ししか残っていないだろうが。
「…こんなヤツらにロロ先輩が殺られるはずない、ヒヒヒハハハハ!!!闇討ちしか脳の無いアホどもだったって訳だ!!………」
2人を始末した後。気付けば俺は血まみれの地面に座り込んでいた。
「ハァ…クッ…何だよ…なんも感じねぇ…クソッ…」
ローウェスは右手を強く握りしめた。
炎は燻り、辺りには吐きそうなほど甘い香りが漂っていた。
◇◇◇
8/13 加筆
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