第7話 初依頼
今私たちの間では重い空気が流れていた。
ケイニスが自分宛に届いたメールを確認している間私とローウェスは黙って見守る。
「で、どうだった?」
「合格です!!」
「おめでとう、そしてようこそ。俺らの世界へ」
「わーなんかかっこつけてるー」
「う、うるせぇ!良いんだよ!これ言ってれば失敗はしないって俺の先輩が言ってたんだよ!とりあえず合格おめでとう、ケイニス」
「おめでとー」
「はい、ありがとうございます!」
ケイニスの合格を知らせるメールが来たのは試験の5日後だった。他人の試験合格を祝うのなんてのは初めてだ。
「でだ、ケイニスもコレでワーカーになった訳だが、そこで腕試しと行こうか、実は違法組織殲滅の依頼が俺らの事務所に舞い込んできた」
「えぇ?もうそんな依頼受けるの?受けるにしてももっと簡単な物…ペットの散歩とかからの方がよくない?」
「これが厄介でな、規模は小さいがギルドからの依頼で強制なんだよ…あー頭が痛い」
「えぇ!?せ、殲滅の依頼ですか…ぼ、ボクが行って役に立てますか?」
「お前ハッキングできるだろ?今回の奴らが根城にしているのが昔使用されていた軍事施設だ、ここまで言えば分かるな?」
「わ、分かりました、やるだけやってみます」
「そっかぁ、初っ端からハードだなぁ。久々の依頼頑張るぞ〜」
「おう、そう言うと思って弾は大量に有るからな、じゃあ早速行くぞ」
「さーいぇっさー」
「頑張ります!」
こうして私にとっては久々の、ケイニスにとっては初めてのローウェスは何時もの依頼が始まった。
と、思ったのだが。
「…全然進まねぇ…なーんでこんな混んでるんだよ…」
目的地へ向かう為の道路は大渋滞している。
どうやら数日前に歪人が大暴れしたようで、今も復旧作業が続いていた。
「私からしたら時間の掛かるカリバーンの整備時間が有るから良いんだけどねー、スコープが曇ってたら嫌だし…まぁ無くても当てられるけど、途中でジャムりでもしたらこの
エドはF-002カリバーンのスコープを覗きながらそう言う。
「それならおまかせください!ここから目的地の最短ルートを割り出しますよ」
ケイニスが凄まじい速度でパソコンのキーを打ち始める。
ケイニスは体をハッキングに最適化した義体にしていない生身だって聞いたけが大丈夫なのだろうか、そう思ったが、私の杞憂だった。
ケイニスのハックの速度は常軌を逸していた、昔にハッキングに特化した義体のハッキングを見せてもらったことがあるけど、ここまで早くは無かった。
「そこの道からは車が極端に少ないのでそっちの道に行ってください。そしたら信号を全部青にしてみます」
ケイニスはそう宣言した瞬間エンターキーを押すと私が見る限りの信号が赤から青へと変わってしまった。
「この短時間でハッキングしたのか?まじかよ…これはいい掘り出し物を見つけたな」
「すっご…どこで覚えたの?」
「ほぼ独学です。先生にも少しだけ教えて貰ったこともありましたね。それで大抵の事はできるようになりました」
「…すっご」
「えへへ…ありがとうございます」
この短時間でネトワークに侵入し信号を操作するのは普通の生身では無理だろう。
「やっぱりあの職場はお前のいるべき場所じゃなかったな、こんな優秀なハッカーなんて俺でも2人しか見た事ないからな」
「それって昔ローウェスの居たワーカーズの先輩と…もう1人は詳しく教えられてないからわかんないや」
「あぁ、もう1人は…今度な。シーリス旅団のあいつ…娘が死んでからおかしくなるまで都市一番のハッカーだって自負してたからな。よしそろそろ着くぞ」
見えて来たのはもう使われていないであろう、軍事施設の廃墟だった。壁が薄く窓が沢山あり、風も無い。
私にとってはやりやすい環境だ。
「エドとケイニスは向かいのビルの最上階で待機だ、俺が合図したらエドはライフルで俺を援護しろ、ケイニスはこのビルのネットワークに入り込んで監視カメラを掌握した後待機だ」
「あいあい」「任せてください!」
「じゃあ、作戦開始だ」
そして私とケイニスの2人は向かい側にある廃ビルの最上階に登っていた。
ケイニスはスマホを操作しながら屋上へ登っている。
「ケイちゃ〜ん、前見ないと転ぶよ?」
「すみません、あともう少しで終わるので」
「あと少し?」
「はい、件の廃墟の警備ネットワークに気付かれないように入り込んで脆弱にしてるところです」
「へぇ、仕事熱心だなぁ、そこ段差がちょっと高いから気をつけてね」
「はい、ありがとうございます!」
最上階にたどり着いた私たちはセッティングしながらローウェスの指示を待っていた。
ケイニスの方をチラッと見る。
翠色の長い髪、丸眼鏡に白衣を身につけており、とても悪い事をするような人間には見えなし、今も鼻歌交じりにキーボードを打っている。
傍から見ればまるで鍵盤を弾いているようだ。
「ローウェスさん、カメラやタレットの掌握終わりました、カメラを確認したところ人数は約10人、カメラのない部屋も合ったのでそこは未知数です」
『わかった、エドもスコープで狙っておけよ』
「はーい。窓越しだと4人かな?2人は確実に殺れるよー、殺る?」
『わかった、殺っていいぞ。それを突撃の合図にする』
私は大口径のマガジンを
「あ、ケイちゃん、耳塞いだ方がいいよ」
「え?それってどういう…」
引き金を引く。
赤い花が咲くように男の頭は弾きとんだ。
すかさず排莢し、2人目の頭に弾丸を撃ち込みさらに赤い花と頭の無い死体を作り出す。
「うわぁ!!?耳がぁ!」
「あー、だから言ったのに。次は耳栓持ってきた方がいいよー」
「は、はいぃ…ろ、ローウェスさん突入確認しました残り2人です」
『了解、俺が次の部屋に行く前にタレットで蹴散らしといてくれ』
「了解です」
ケイニスは耳を痛そうに押えながら状況を報告する。
ローウェスが撃ち漏らした敵の排除もしながら。依頼は順調に進んでいった。
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