第5話 朝日
カーテンの隙間から差し込んだやさしい朝光で目が覚める、ベッドの上で数分ぼーっとしていると、扉が叩かれ、開かれた。
「ローウェス起きてる?」
「エド…おはよう…なんだその手に持っている服は…お前が昔着てた服じゃないか…」
扉を開けたエドは何故か昔着ていた服を何着か持っていた。だがなぜ持っていたかについてすぐに想像がついた。
「……」
「おい、そ、その服を置け。少なくとも俺は一応お前の保護者であって服を貸し借りする仲じゃ…ジリジリ近ずいて来るな!!ま、まて、落ち着け」
「……」
「は、話せば分か」
「フッフッフッ…問答無用!!」
数秒後、家中に俺の悲鳴が響き渡った。
「く、屈辱だ…」
「…似合ってる。うん、やっぱり私の思った通りだ。それに今あるローウェスの服全部サイズ合わないじゃん」
「だからってスカートじゃなくていいだろ!?しかも下着まで…」
「学園の先輩が言ってた、下着は必要だって。じゃあノーパンで過ごしたいの?ローウェス」
「うっ…それは…あ、おい!スカートめくるんじゃねぇ!!」
「…?お、おはようございます…そのお楽しみ中?にすみせんでした」
「おいまて、なにか誤解があるようだがな?絶対に違うぞ!!?」
「おはよう、ケイニス」
「エドお前に関してはめくるのをやめろ!!」
「臨機応変、前後確認これだいじ」
「使い所が違ぇよ!!」
その後何とかスカートを回避しズボンに履き替えたのだが…。
(むぅ…尻がキツイ…なんでだ?身長も昔のエドとそうあまり変わらないはずだが…しかしなんでホットパンツなんてもんがあるんだ??買ってやった覚えがないんだが…)
ふと窓を見る、反射したガラスには相も変わらず白い髪の少女が立っていた。
元々男だった時の赤い髪は、白い髪の中にまばらに生えてはいるが面影として残るのみで、変わらないのは愛想の無い眼だけである。
(誰なんだ?お前は…見覚えがない…ケイニスも変容先の少女の素性どころか名前も知らないらしいが…)
この都市では外見なんてほぼ意味を成さない。それこそ全身を義体化し好きな形に変えることもできるし、身体変容などもある。
義体化と身体変容の違いとしては何時でも好きな外見に変えられるものが義体化。
身体の外見遺伝子を組み換え別の身体になるがそのまま生身のものが身体変容である。
どちらも一長一短だ。
体を義体にすれば生身には戻せないし、遺伝子を書き換えるのにも細胞へ負担がかかり、下手したら肉体が崩壊したりする。
それに関しても人の外見を真似る事や本人の意思と関係なく身体変容手術や義体化手術を施すことは禁止とされていて、そんな事をしてバレたりでもしたら粛清者に粛清されてしまう。
実際ケイニスはかなりギリギリどころかほぼアウトである。
「ローウェス?」
「ん?なんだ?」
「そろそろ行くんじゃ無いの?」
「あぁもうそんな時間か、車に乗っておいてくれ。俺もすぐ行く」
ガレージを開けると、朝日が入り込んでくる。
夜に雨が降ったからか道路は光っていた。
異臭も漂っていないし今日はいい日になるだろう。
「そういえばローウェス、オックスフォードビルって何処にあるの?」
「オックスフォードビルは1区の中央にあるぜ、滅茶苦茶デカいぞ」
「あぁ、あのビルですか…見るだけで目眩しそうになるんですよね…」
「どんだけデカいのさ、そのビル」
「見たら分かるぞ、まぁその前に飯だな」
俺たちは朝食をとるために近くにあるレストランのアーサーバーガーへ向かう。エドとよく行く人口肉を使っていない珍しい店である。
店内は朝にも関わらず賑わっており、これから仕事に向かうであろうワーカーやコーポの人間まで色々な人間が飯を食っていた。
「おう!いらっしゃい!エドの嬢ちゃん元気だったか?」
「おーひさー、BBも元気だった〜?」
「おう!俺ァこのとおりよ!」
いつもの席に座るとオーナーであるBBが俺たちに話しかけてきた。案の定俺には気づいていないようだった。
「ん?誰だ?そのちっこい嬢ちゃんと…タッパのデカい姉ちゃん」
「ぐっ、誰が小さいだ!俺だ!ローウェスだ!」
「はぁ?お前ローウェスなのか!?」
「あぁ、んでこっちは新しく入ったケイニスだ」
「ど、どうも」
「ハッハッハ!!小さくなったお前とお前のとこに新しいのが入るなんてな!ここで長年生きてると驚くことばかりだな。ローウェスのとこの奴なら何時でもウェルカムだ!さぁ注文しな!」
「相変わらず声がデカいな、軽めのとホットコーヒーを」
BBはそのデカイ体で小さく見えるメモ注文を書き込む。
いかつい顔をしているが都市の中ではかなり良識のある人間だと思っている。
優しい顔して出されたコーヒーに睡眠薬が入ってることなんてざらにあるし、かなり信用出来る人間なんてひと握りだ。
まぁ飲食店やってるやつだしそこら辺は大丈夫だろうが。
「私も同じの」
「あ、ボクもそれでお願いします。その…ゆっくり朝食とっても大丈夫なんですか?ローウェスさん昨日は早くなるから寝とけって…」
「ん?あぁ、その事か。別に早朝ってわけじゃ無いぜ、こっから1区まではまぁまぁ遠いからな。早めに出ただけだ」
「んー、小さい支部に行ったことは有るけど本部は知らないなー。お仕事する時って大体オペ子に完了って言って終わりだし」
「オペ子って…名前くらい覚えてやれよ…」
俺らが雑談をしているとBBが朝食を運んできた。
美味そうな匂いが辺りに漂っている。
「コーヒーのセットが3つおまちどう!」
「…人工肉とは違いますね、ペースト状じゃなくて粗挽き肉でしょうか」
「いいだろ?ここのは本当に美味いんだよ」
「ん、美味い」
コーヒーに口を付ける。だがすぐに違和感に気づく。
「うっ…なんかこのコーヒー渋くないか…?」
「そうですか?…飲んでみましたけど普通に美味しいコーヒーですよ?」
いつもと変わらない味のはずなのに、いつもより渋く感じてしまい、受け付けない。
エドが俺のコーヒーに砂糖を袋1つ入れる。すると途端に口が受け付けるようになった。
「な、なんでだ?甘いものは特に好きってわけじゃなかったのに…」
「おー、飲んでる」
「身体変容の影響ですかね…味覚などは体に引っ張られると言われますし」
「そういう物なのか?」
その後疑問に思いつつも、甘いコーヒーに口をつけていたら気にならなくなってきた、その後雑談をしながら俺らは朝食を済ませたのだった。
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