第4話 ばっどあいず
「なんというか…災難だな」
瓦礫の山と化したマンションの前で項垂れるケイニスを慰めるかのようにローウェスが背中を摩る。
なんでも、大型の歪人がマンションに突っ込みそのまま倒壊したらしい。
「あは、あはは」
「ほ、ほら。大事なデータはパソコンを持ち出していたから大丈夫だったんだろ?しかも貯金を引き落とすためのカードと財布も無事だと来たもんだ!だ、だからよ…元気出せ…」
ローウェスさんがボクの肩に手を置く。財布や大事なデータ、アルビオンでは珍しい旧時代のスマホなどは手元に有るが、それ以上にそれなりの月日を過ごしてきた住処を失った悲しみはかなりなもので、なかなか立ち上がれない。
「あー、えっとな、なんというかこれがアルビオンの常識ってやつで…。住んでるなら分かるだろ?これからワーカーになるんなら慣れておけ…」
「…はい…で、でも明日からどう生きていけば…」
仕事は確実に貰えるだろうが、住む場所はそうも行かない。
宿泊施設に泊まるのにも限界が有るし、何よりかなりリスクが高い。安いところ何かはセキュリティなんて無いような物だし高い所なんか毎日過ごすなんてそれこそ破産してしまう。。
ボクは断られるのを承知でローウェスさんに頼み込むように、再び頭を地面に付ける。
「お、お願いします…図々しいかもしれませんが。そのす、住む場所を…貸してください…」
断られると思ったがボクの予想はアッサリ外れた。
「別に良いぞ?」
「そうですよね…嫌ですよね…え?」
「別に構わない、なんなら部屋は余ってるし。何より仕事場は近い方が良いだろ?」
「えぇ…出会って一日も経ってない人間を信用するんですか…?」
「そりゃあな、ここじゃ誰もが敵になるかもしれないし仲間になってくれるかもしれない。住む場所が無いなら提供するし必要な設備は揃えてやるさ」
「…」
「必要経費だ、それに死んだら金は使えない。生きているうちに使っておけば死ぬことも少ないだろうからな、なにより」
「なにより…?」
「お前からそんな悪意は感じないからな」
そう言うとローウェスさんはニッと笑う。その笑顔にはとてもあの研究所での殺気は無い。むしろ安心さえ覚える。乗れって言われたのですぐに乗ってシートベルトを付けた、スマホの時計を見ると既に午前1時を過ぎようとしている。
人はまばらであり、歩いているのもほとんどが巡回警備中である盾の一座というワーカー達だろう。
特に問題が起きるでもなく、ボクはローウェスさんの住んでるというビルにたどり着いた。
外観は3階建て屋上有り。大きめのガレージにそして
「ふぅ、やっと帰ってこれた…んん〜。さっさと入るぞ、それともう1人いるから仲良くしてくれよ?」
ローウェスさんが背伸びをする。長時間の運転だったから無理もない。
「わ、分かりました」
ローウェスさんが鍵を開けたと同時に何かがローウェスさんへと飛びかかった。飛びかかられたローウェスさんは黒いポニーテールの女の子に押し倒され抱きしめられていた。
「ぐぇ、ちょっエドまて、落ち着けっ!」
「やっと帰っきた!やっと!」
「え?お前なんで俺の事分かるんだよ」
単純な疑問である。普通外見が変わっているのなら本人が言わない限り分かるはずが無い。
「だって」
「だって?」
「目つきの悪さは変わってないし」
「うっ、それは…言うなよ…」
「それに匂いでわかる」
「いやなんで匂いで分かるんだ…」
エドと呼ばれた女の子がそういうとローウェスさんは気にしていることなのか目をそらす。
言われてみればローウェスさんの目つきは非常に悪い、いわゆる三白眼ってものだろうか。身体変容でもいじれない部分が時折有るのだが、ローウェスさんの場合目であった。
「でー、そこの眼鏡の大きなお姉さんはだれ?」
「あ、えっと訳あって新しく入る事になりました…
ケイニスって言います…」
「そして俺をこんな姿にした犯人だ」
「あは、はは…」
胃がキリキリと鳴る。さっき言われた事で少し拗ねてしまったのだろうか、ジト目でこちらを見つめている。
「…なるほど理解した、じゃあ今日からよろしく。私はエド、よろしくね」
エドちゃんとの挨拶が済んだ所でローウェスさんがボクを部屋に招き入れた。部屋は少し散らかってるが至って普通の部屋である。
ビルの一階にはソファーと大きめの机がある部屋があり。依頼を受ける際はここで依頼主と話す事務所のようだ。
「それじゃあ明日は早朝からワーカーズギルドの本部が有るオックスフォードビルへ向かう、いいな?とりあえず俺はシャワーを浴びたら寝る。ああそれとケイニスは2階の名前の書いて無い空き部屋を使ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ〜かいさーん」
こうしてボク……ケイニス・レイマンのワーカーとしての暮らしが始まった。
ワーカーへの転職。これを不幸と取るか幸運と取るかは人それぞれだが、少なくともボクは不幸とは感じなかった。
◆◆◆
5/29修正
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