第3話 大切な物
「何処に…」
衣服を掻き分ける。
小さい物ではあるが、俺が見失うハズが無い。いつも大切につけていたものなのだから。
あいつに渡すはずだった大切な物を。
衣服と衣服の隙間に黒く光るものを見つけ、急いで手に取る。
「あった!良かった…良かった…」
安心からか足の力が抜けてしまう、だが指輪だけは絶対に離すことは無い。右手の薬指に指輪をはめ、元々着ていた服を着る。大きさが元の時と同じな為サイズは合っていないが着ないよりはマシだろう。
「おい」
「…」
「おい?」
「あ、はい」
「ここに車の鍵は有るか?」
「あ、はい。2階の宿直室にあります」
「?そうか」
(歩きずらい…)
ズボンの裾を引きずりながら2階へと向かう。研究所の中には人が居なかった様で特に会敵する事なくエレベーターに乗り込む。
研究者の女も着いてきている。頬は痩けておりやつれている、どうやら相当疲れているようだ。
ふとある事が気になった。
「なぁ、あんたなんでこんな所で働いてるんだ?」
「え?なんでと言われても…ここしか無かったとしか…」
「身体変容施術を出来るくらいの技術があるんだろ?ならもっといい場所があると思うんだが」
「マニュアルにしたがってやっただけと言いますか…本業は機械いじりとハッキングなんですけどね」
「…へぇ、ハッキング出来るのか…ならうちで働いて見ないか?」
「え?」
「どの道この研究所で働く事は無理だろ?どうせなら来いよ」
ワーカーの中には戦闘になった時に役割分担をする奴らも居る、大抵は前衛でタメを張るワーカーと共に後衛でサポートをするワーカーに別れる。それにより依頼を受けた際の生存確率と共に依頼達成率が大幅に上がるため、他のワーカーと組むことが推奨されている。
ハッカーとなればどのワーカーも喉から手が出るほど欲しがるだろう。
「でも…僕はあなたの体を弄り回したんですよ?」
「
「…!」
「俺の体を弄り回した償いって訳だ」
俺の体を好き勝手にした、これだけで勧誘の理由としては十分だろう。
何よりアルビオンのルールにより身体変容で必要なプロセスを知らなかったとはいえ行わなかった。
これを知っているのは今目の前にいる彼女とあのクソガスマスクだけ。
あとはこいつの判断に任せるだけだ。入らないなら入らないで俺がコイツを処理するだけだし、入るならそれで良い。実質一択だ。
ローウェスは指輪から愛銃の
銃を突きつけられた女の頬に汗が伝う。
「僕は…お願いします!皿洗いでも洗濯でも何でもします!」
「よし!じゃあ決まりだ、あんた名前は?一緒に仕事をするなら名前を知っておくべきだろ?」
「え、えっとケイニスって言います」
「おう、俺の名前はローウェスだ。よろしくな」
「よ、よろしくお願いします!」
ケイニスと握手をし、共に鍵があるという2階にエレベーターへ乗り込んだ。
◇◇◇
ボクは今。アルビオンの価値観を目の当たりにした。
利害の一致や無理やりでは無い。
取引を持ち出されているのだ。
これまでこういう自体に晒されることが無かったのは運が良かったのか悪かったのか。
今ここで死ぬか、この地獄の研究所から出て彼の元で働くかという究極の2つ、いや実質1つである。
(銃を取り出された時は焦った…あの鋭い眼光であの作り笑いも…心臓がキュッてなった…)
心臓を握られたかのような感覚に陥ったのを感じる程だ。
(でも今じゃ…)
「お、新型のバンじゃないか」
「多分上司の車ですね…」
まるで玩具を選ぶ子供の様に、ウキウキしながら車を選んでいたのである。
「さて、席の調整も出来たな。ほら乗れよ、お前の住んでる地区は何処だ?送って行ってやるよ」
「えっと、15区のシルファンハイムってマンションです」
「わかった、正式な手続きは明日だ。とりあえず今日は休め」
「助かります…実は1週間まともに寝てなくて…」
「なんというか…研究者も大変だな」
車が動き出すと、揺れのせいか、疲労のせいなのか、僕の意識はまどろみの中へと落ちていった。
シートが柔らかかったのもあるし。なによりも該当の光が心地が良かった。
次に僕が目を覚まし、目にしたのは。
完全に倒壊したマンションを車の中から眺めるローウェスさんがそこにいた。
◆◆◆
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修正
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