第2話 兼継の残念な金銭感覚(目黒音夜視点)
「あぁー眠い」
大きくあくびをする兼継。
大学向かいの、少し小洒落たハンバーガーレストランに3人で訪れていた。
「あんた今日も遅刻してたけど、まじでヤバいんじゃないの?」
「大丈夫だって、あいつの講義は4回までの欠席と、多少の遅刻は問題ないはずだからさ」
「よくそんな考えでやってられるわね」
まったく根拠のない自信に、久美子は愕然とする。
「あの講義落としたら、卒業できないの分かってんの?」
「だからこうして、今日もちゃんと来たじゃん?」
「遅刻の上に爆睡、評価は最低だろうけどな」
「俺は単位さえもらえれば、評価なんて何でもいいいから問題ないって」
こいつと俺とでは、そもそも授業に対するスタンスが全く違う。
なので、こういう感じで話がかみ合わないことも少なくない。
「どうせ、午後も寝るつもりだろ? ほんと、何しに大学来てるんだかな?」
この感じだと、この次の授業も起きていることはないだろう。
ことあるごとに欠伸をしている様子から、容易に判断できる。
「お前、今日もバイトいれてんだろ? どんだけ働くつもりだよ?」
「え……つっても先週の木曜日は、バイトしてないけど。11連勤でストップしちゃったし」
その言葉に、俺と久美子は呆れて言葉が出ない。
今が月の半ば頃と考えると、かなりの連続勤務となる。
「ねぇ? あんたいくら位稼いでるわけ?」
「聞いちゃう〜? 知りた〜い?」
自慢したいのだろう、聞いて欲しいという圧力を強く感じる。
「やっぱいいや。聞いたところで私の得にならなそうだし」
「えぇ〜聞いてくれよー、けっこういい額いったんだからさー」
かなりの額に到達したのか、自慢できないと知るや、残念そうに落ち込んでいた。
「そんだけ働いてれば、そりゃ居眠りもするわよ。そもそも、そんなに働いて飽きたりしないわけ?」
「平日は居酒屋、土日はゲーセン。違う仕事をすることで、メリハリもつくってもんよ」
「ほんと、私には理解できないわ。どんだけ金欲しいのよ」
「ある分には困らないでしょ、いろいろできるし。今はスマホ代以外は払うものもないし、稼ぐなら今しかないって。それにデートには多額の消費が伴わるんだからさ」
「あんた、そんなくせによく彼女いるわよね?」
「次の講義終わってバイトまでの間に一緒にカラオケに行くし、ちょー順調。ちなみに、この前はテェディーランド行ってきたんよ。まぁおかげで先月のバイト代、ほとんど消えたけど」
「は? ……いくら使ったのよ」
「総額12万円」
その額に驚愕してしまう。一学生が稼ぎ、使う額としては逸脱している金額である。
「マジで意味わかんないんだけど」
「ホテルとかさ〜、ディナーとかまじで高いんスわあそこ」
「あんた、いつか金銭感覚がくるって破滅するわよ……」
「まぁその時はその時だって、今を楽しまなくてどうすんのさ! 金をつぎ込んだ分、彼女とのハッピーな思い出がたくさん作れたから、後悔なんてないっすよ」
こんだけ豪遊していると、きっと大人になって苦労するんだろうな。
「そういや、その彼女って付き合ってどれぐらいだっけか?」
「先日、2カ月記念日を迎えました〜!」
「たしか、違う大学の1年生でしょ?」
俺も違う大学の女子ということを知っているだけで、会ったことはない。
「いや〜まじで可愛いよ〜、初々しいっていうの?」
「なんか、その言い方犯罪臭があって気持ち悪い。ほんと、あんたのどこがいいだかね」
「何言ってんの、あふれでる大人の魅力ってやつでしょ」
堂々とそれを言えるこいつは普通にすごいと思う。けして尊敬なんかしないが。
「あんたさぁ、そんなに今は遊んでるけど、先とか考えてんの?」
「ん? 先って、将来の仕事とか?」
「他に何があるのよ、あんたもう3年生って自覚ある?」
「それは普通に卒業して、普通に就職するだけじゃん? 今はあんま考えたくないし、今はこの時間が楽しいわけだからさ……てか、そんなことはいいのよ! 聞いてくれよ、彼女の可愛いところをさぁ。いやー1からいろいろ教えてあげるってマジで楽しいぜ、何よりまだ高校生のよう――」
「ごめん、聞いてないから。てか、そんな話、こんな時間にしないでくれる」
じゃっかん拳が飛び出してきそうな勢いで、久美子は兼続の口を閉口させる。
「すんません。ま、てなわけでバイトして彼女と遊ばなきゃだから、俺明日は学校休むんで、悪いんだけど、このレポートを笹塚教授に出しといてくんない?」
「……呆れた」
「いやいや、記念日とかさぁー大事にしなきゃだめでしょ。そういうところでポイントアップを図るわけですよ。年上の男は出来るってね。誕生日とか、記念日は俺のアピールを惜しみなくするところだから」
「……誕生日か」
俺は兼続のその言葉に、あることを思い出す。
「なに、その反応? お前って誕生日祝う的な彼女いたっけ?」
「えっ、あたし聞いてないけど?」
久美子は当然、声を大きくして詰め寄ってきていた。
顔が近くて、目の行き場に困ってしまう。
「なんだよー久美子、俺の彼女には興味ねぇのに音夜のには乗るのな?」
「そ、そりゃ、あんたはいつも自慢してくるからどうでもいいわよ。……音夜はそういう話をしないしから、気になったのよ」
「いや、誕生日って言葉で思い出してさ……そういやもうすぐ、妹の誕生日だなって思って」
あいつの誕生日は6月19日。
そろそろプレゼントをどうするか、考えても良い時期かも知れないな。
「そ、そっかぁ妹さんね!」
詰め寄っていた距離が離れ、久美子は椅子へと深く腰かけた。
「音夜って妹がいたんだっけ? いくつ離れてんの?」
「今は高校2年生」
「女・子・高・生!」
兼継がテンションを高くして、声を上げた。
「妹、狙われてるわよ」
そうは言われても、おそらく俺の妹は、こいつの好みに合わないことは容易に想像できた。
「たぶん、お前の好みではないと思うぞ」
「なんでだよ、どんな感じの子なの? 将来のお兄様に教えなさいな」
「あんた、いま最低なこと言ってんの分かってる? あんたの彼女、ここに呼んできてあげようか」
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