第1話 大学生のあり方(目黒音夜視点)
講義終了の鐘がなる。
講義を終えた講師は、そうそうに教室を後にした。
さて、俺も移動するかな。
2時間目が終わったのでこれから昼食。
参考書やノートを鞄にしまい、すぐに移動の準備を済ませる。
「おい、起きろ。終わったぞ」
横で爆睡している男の頭を、軽く叩いた。
「……んぁ」
間抜けな声を出し、目をあける。
「んぁじゃねぇよ。移動するぞ。昼だ、昼」
「…………うっす」
男は大きくあくびをしながら体をのばす。
未だに眠そうで、だらけている。
「遅刻した上に、爆睡とはたいしたもんだな」
「いやぁ、これでも頑張ってきたんだからさぁ、そこは褒めてくれよ」
目を覚まさせるためか、座った状態から軽く体をひねって運動をはじめる。
「おまえ欠席数といい、その態度といい、そろそろこの授業、やばいんじゃないのか?」
「大丈夫、大丈夫。あの先生、そんなにこっちのこと見てねぇし。欠席数とかギリギリ出てれば平気な先生だからさ〜。レポート出せば文句言われないって」
「そういって去年、おまえいくつ落としたよ」
その俺の言葉に、男は目線を遠くへと逸らした。
「……大丈夫! 俺の計画に抜かりはないから」
信憑性のない、あまりにもいい加減な回答だった。
「昨日も遅くまでバイトか?」
「あぁ。まぁ正式的には今日の朝だけどね。店の締め時間朝の3時だから」
こいつが教室に入ってきたのが11時過ぎ。
家から大学までは30分ほどなので、起きたのは10時前後だろうか。
睡眠時間を6時〜7時間ほどと考えると、遅刻してくるのは必然ともいえる。
「よくそこまで働けるな。もう少し生活スケジュール見直さないと、ほんと卒業が危ないぞ」
「そこはほら、学生だからさ。稼げるのも今だけじゃん」
「金に困ってるわけじゃないだろうに……まぁいいや、飯いくぞ」
別に説教をするつもりはないので、こちらから話題を終わらせる。
そして俺は、入口の方へと歩き出すため立ち上がった。
「へーい」
なんともやる気のない返事が返ってきた。
ここは某所大学。
学生として通学をはじめて、早くも2年と数カ月がたっていた。
変わらぬ風景、変わらぬ人物に囲まれながら教授の講義を受けたり、ゼミで研究をしている。
大学。それは社会人になる手前の者たちが、高校よりも高度で専門的な知識を学ぶ場所である。
ただ、高校とそこまで相違がない場所だと俺は思う。
専門知識を学ぶ以上、ある程度は同じ目標や夢を持ったものが集まってくる。
だが、蓋をあければ夢や思想なんて点でバラバラな人たちの集まり。
実際ここに来る者たちは様々な目的と夢、欲望を持っている。
俺のように、将来のやりたいことに繋がるんじゃないか?
面白そうなことが学べると考えて、この大学を選んだものもいる。
まぁそれが大半であって、本来の大学の在り方。
しかし、実際はそういった人たちばかりではない。
ほぼ講義を受けることなく、まれに出席してはバイトか遊びをメインとしているものがいる。
大人になるのがただ嫌で、学生が延長できると大学を選んだものがいる。
飲み会に、異性との毎日の交流、それを生きがいにしているものがいる。
大人に近くて、けして大人ではない人々がここに集い、各々の考えのもと生活している。
「やべぇ、寝すぎて足が痺れて動かねぇ」
この男もまた、俺とは違った目的を持ち、この大学に通っている。
―田無兼続(たなしかねつぐ)―
1年の時に出会い、もっとも一緒に過ごしてきた時間が長い。
何かと気が合い、今もこうやって隣同士で講義を受けている。
どうしてここまで仲良くなったのかは、今はもう正直思いだせない。
「ねぇ、兼続、音夜、これからお昼? なら私もご一緒させてよ」
兼続がやっと動き出したところで、後ろから1人の女性に声をかけられた。
「なんだよ久美子、お前ぼっちかよ? 友達いないの?」
「みんなゼミとかバイトで忙しくてさ、ちょうどフリーになったのよ」
「お前だけ、暇人なんだな?」
「この学年になって講義が多いのは、去年落としまくったあんたぐらいでしょうが」
―綾瀬久美子(あやせくみこ)―
1年の頃から講義が被ることが多く、俺とはゼミ室も同じの、大学では1番接点の多い女子である。
普段は、友達の女子グループといることが多いが、たまにこうやって一緒に過ごすことがある。
「で、どこ行く? 食堂か?」
廊下に向かって歩きながら、俺は行き先を尋ねる。
「うーん。気分的には外に食べに行きたいかなぁ〜。食堂うるさいし、さして美味しくないし」
「いいねぇ〜。俺も財布に余裕あるし、外の空気も吸いてぇし」
兼継は久美子の意見に乗ると共に、手で煙草を吸うジェスチャーをする
「違う空気を吸いたいだけだろ。別に構わないけど、俺はお前たちより金に余裕ねぇからな。ほどほどの店にしてくれよ」
「大丈夫、斜め向かいのバーガー屋だから。あそこならそんな高くないでしょ」
久美子はそう言うと、スマホの画面を俺に向ける。
「クーポン券もあるし、ちゃんと音夜のこと考えてるって」
「それ、俺も使っていいのか?」
「あたりまえじゃん!」
久美子は非常に気が利く女性で、こうやって良く生活の手出すやアドバイスをしてくれることが多く、俺を助けてくれている。
「ありがとな。助かるわ」
彼女には世話になってばかりで、ホント頭があがらないな。
「うわーお、露骨だなぁー久美子」
「じゃあ、あんた来なくていいわよ」
「なんでもありません。久美子さん愛しています。一人にしないでください」
手を合わせて兼継は、久美子に深く頭を下げていた。
この二人のやりとりも、相変わらずだな。
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